第21話 薩長同盟
「おいおい、いったいいつの時代の話をしているんだよ? 今は追っかけ録画があるし、すぐにBSで再放送してくれるし、ネットで見逃し配信もやってるし、そもそも試合が延長しても野球放送が打ち切られることの方が多いから、そういう不便は特にはないかな」
「そ、そうなんですか……どうやらちょっと情報が古かったみたいですね……」
「だな」
「ううっ、サンテレビというテレビ局が、雨が降ろうが槍が降ろうが日付けが変わろうが、阪神タイガースというチームの試合を必ず最後まで放送するのは有名だと習ったんですが……」
せっかく勉強してきたことを生かせなかったからか、エリカがシュン……と肩を落とす。
「あーサンテレビな。この辺じゃ映らないから俺も聞きかじった程度だけど、サンテレビは今でもそういう阪神戦全集中スタイルみたいだな」
ツイッターでもたまに阪神戦の放送延長を意味する『加古川の人帰られへん』がトレンドに入ってるし。
「あ、やっぱりです!」
俺の言葉にエリカが顔をほころばせた。
「それに今でもリアタイで最速視聴してたアニメがずれて最速じゃなくなったりすると、エリカの言うとおりでちょっとムカつくことはあるかも」
エリカが笑顔になったのが嬉しくて、俺はついついそんなことまで言ってしまった。
なんて言うかその、エリカは超がつく美少女なわけだろ?
しかも俺のことをすごく好いてくれていて。
だから悲しそうな顔をしているのを見ると、すごく心が痛むんだ。
「もう、やっぱりあるんじゃないですか。トールってば意地悪なんですから」
実際今の時代ではほとんどないレアケースなんだけど、ま、ここはそういうことにしておこう。
誰も悲しむ人はいないのだから。
「ちなみに最近だと野球とアニメが仲良くコラボしたりしてることもあるんだぞ? 西武とかパ・リーグ中心によくコラボをやってるんだ。若い世代だとアニメファンと野球ファンは層が被ってたりするし」
「なんと! 長年の宿敵同士が手を結ぶだなんて! まるで現代の薩長同盟ですね! とても勉強になります! 宿敵の関係を繋いだキーパーソン、坂本龍馬は誰だったんでしょうか!?」
「いくら日本の勉強をしてきているとはいえ、異世界人なのに宿敵の例として薩摩とか長州とか坂本龍馬がパッと出てくるエリカに、俺は驚きを禁じ得ない……」
例えばイギリスにおける長年の宿敵の例を挙げろと言われて挙げられる日本人が、いったい何人いることか。
少なくとも俺には無理だ、想像すらつかない。
くっ、さすがエリート巫女さん、俺とは何から何まで違い過ぎる……。
なんてことを思っていると、俺のお腹がぐ~~と鳴った。
「あれこれ話してたらそろそろ朝ごはんの時間だな。エリカもお腹空いてないか?」
既にテレビの時計は8時を過ぎていて、一度そうと認識してしまった俺はかなりの空腹を感じてしまう。
5時にピンポンアタックで強制起床させられてからここまで、お茶と煎餅2枚しかお腹に入れていないのだ。
そりゃ腹も減るよな。
「そうですね、わたしも少々お腹がすいています」
「だったらどっか食べに行くか? なんせ7億もあるだろ、エリカの歓迎会もかねて今日くらいちょっといいもの食べたって罰は当たらないかなって」
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