第22話 お料理(1)
「でもこんなに朝早くからご飯屋さんって開いてるんですか?」
「ほとんどの店は閉まってるけど、近くにおいしそうなモーニングやってるカフェがあるんだよ。男性向けのボリュームがあるメニューもあってさ、前から一度行ってみたいと思ってたんだ」
「トールは朝早くから食欲旺盛ですね」
「誰かさんのせいで5時起きだからな。食欲の方も完全に覚醒してる」
「夏は明るくなるのが早いですし、早起きは三文の得と言いますからね。素晴らしいことです」
「嫌味を言っても全く意にも介さないとか、ほんとメンタルが固いよな……」
「でしたらせっかくなのでわたしが料理を用意するというのはどうでしょうか?」
「へぇ、エリカは料理も作れるんだな」
俺が何気なく言うと、エリカがむむっと眉を寄せて反論した。
「むっ! 何をおっしゃいますか! わたしは選ばれし者のみが入学を許される女神国立転移・転生学院の生徒にして、こうやって実際に異世界転移を成し遂げたオンリーワンにしてナンバーワンなんですよ!? 見くびってもらっては困ります!」
「それはさっきも聞いたってば……でもそうだよな。エリカは超エリートだもんな。料理くらい作れて当然か」
なにせ薩長同盟なんて言葉がぱっと知識として出てくるくらいだ。
料理なんて当たり前のように作ってしまうんだろう。
「モチのロンです。この才女エリカにかかれば朝ごはんの1つや2つ、なんてことはありません。どーんとお任せくださいませ」
「いや才女って自分で言うなよ……」
「いいえトール。料理は女性の最大のアピールポイント、男を掴むにはまず胃袋を掴めというのが古今東西の鉄則ですから」
「まぁそうかもな」
「それをできないと思われていては、わたしの沽券に関わります。存在意義――レーゾンデートルが脅かされる一大事です。ですからトールとの将来の結婚を見据えたわたしとしては、ここは特に強くアピールしておくべきかと思ったわけです」
エリカが魔王を前にした勇者のごときキリッとした表情で言った。
「そ、そうか……じゃ朝ごはんはエリカに任せるよ。冷蔵庫の中にあるものは好きに使っていいから――って言っても、言うほど食材は入ってないけど」
うちのすぐ近くには大きめのスーパーがあって、朝は9時から夜の23時まで営業してるから、あまり買い置きはしていないのだ。
無ければすぐ買いに行けばいいし。
それでもひき肉とか野菜とかがちょっと入っていたと思う。
俺自身そんなに大したものは作れないけど、節約のために俺はわりとよく自炊していた。
「問題ありません、レパートリーは豊富ですので。それでは台所をお借りしますね」
エリカが意気揚々と台所に向かうのを見ながら、
「それにしても女の子の手料理か。そのワードだけでリア充感が半端ないな。女の子の手料理、女の子の手料理……ふふふ、夢が広がりんぐ!」
女の子の手料理というプロジェクトX級のパワーワードに、どうにもにやにやを隠しきれない俺だった。
…………
……
「で、一体なんなんだこれは?」
エリカに出された『もの』を見た俺が冷たい声で問うと、
「……料理です」
エリカは視線を脇に逸らしながら小さな声で言った。
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