第20話 ヤキュー
というわけで俺は正式にエリカと同棲(というか同居)することになったんだけど、
「あ、そうです」
突然エリカがハッと思いだしたように言って、ポンと軽く手を叩いた。
「郵便を出さないといけないんでした」
言ってエリカはポーチから一通の茶封筒を取り出す。
宛て先はよく見えなかったけれど、「速達」の赤文字に加えて封筒の左上には一般的な郵便切手が貼ってあった。
「郵便?」
「はい。異世界転移が完了したことを伝えないといけませんので」
「え? 届くの? 郵便で? マジで!?」
えっと、故郷の異世界にってことだよな?
いったいどういう原理なんだ?
世界最高峰との呼び声も高い日本郵政の配送能力は、まさか異世界にまで配達可能なのか?
なにそれすごい!
「あ、速達だけでなく書留もつけておいたほうがいいでしょうか?」
「……そういう問題なのかな?」
「もしかして他にも問題がありますか?」
上手く会話が噛み合ってない気がしないでもないけど――、
「まぁいいや。ちなみに書留はポストじゃなくて郵便局の窓口じゃないと出せないぞ? 専用封筒もいるし、ここからだと最寄りの郵便局まで2キロくらいかかる」
「それはちょっと手間ですね。では速達だけにしてポストに投函で済ませます。教えていただきありがとうございました」
「いいっていいって」
「やはり事前に学習したとはいえ、知識だけでは実務は難しいですね」
「とかなんとか言って実は全部知ってて、また知識マウントがどうの言い出すんだろ?」
「え? あ……ふっふーん! やはりそこに気付きましたか! さすがはトールですね! わたしに当たり前の常識を披露してマウント取れて気持ちよかったでしょう?」
「へいへいヨイショしていただきありがとうございました」
しっかし郵便って異世界にも届くんだな。
さすが日本郵政、おそるべし。
まぁエリカが異世界から転移してくるくらいだから、手紙が一通、異世界に転移しても何ら不思議ではないんだけれど。
そんな感じで今日は朝からずっと、世の中の摩訶不思議を突き付けられっぱなしなおかげで、アレコレ色んな突発イベントにもだいぶ慣れてきた俺だった。
「じゃあ一緒にポストまで出しに行くか」
「いえいえどうぞお気遣いなく。外は暑いですからトールはそのままでいらして下さい」
「でもエリカはポストがどんなのか分かるのか?」
「えっと、ポストは一本足の赤い箱ですよね? 勉強済みですし、アパートの前にあったのを目視で確認してあるので大丈夫です。ではちょちょいのちょいっと出してきますね」
そう言うとエリカはパパっと立ち上がって玄関を出ると、ポストに郵便を出しに行った。
ポストは俺の住むアパートのほんと目の前にあるので、エリカは特に何かあるわけでもなくすぐに戻ってくる。
そして、帰ってきてすぐに、
「あ、ヤキューです! ベイスボール!」
さっきからBGM代わりにずっと付けっぱなしだったテレビを指差すと、興奮気味にまくしたててきた。
テレビはちょうど朝のニュースのスポーツコーナーが始まったところで、昨日のプロ野球の結果をダイジェストで放映している。
今画面に映っているのは開幕から首位を快走する阪神と、逆に下位に沈み続ける横浜の試合だった。
阪神が大のお得意様である横浜を、大得意の横浜スタジアムで二桁得点で景気よくボコっている。
「野球も知ってるんだな。異世界――『ディ・マリア』だっけ? にも野球があるのか?」
「いいえありませんよ?」
「なら何で知ってるんだ? これも事前に勉強してきたのか?」
「はい、モチのロンです! ヤキューは日本の国民的スポーツです! そしてそれと同時にヤキューはトールたちアニメオタクの敵なんですよね! 水と油、ハブとマングースです!」
「ごめん、意味がよく分からないんだが……」
「またまたぁ。ヤキューの試合が延長すると、深夜アニメが2時間も3時間もずれたりするんですよね? そのせいで録画するのが大変で、時には全く録画できてなくて、アニメオタクはいつもヤキューに怨嗟の声を上げるんです! わたしちゃんと知ってますから!」
エリカが鼻息も荒く超絶ドヤ顔でそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます