第19話 ¥700,000,000-
俺が口をポカーンと開けて黙り込んでいると、
「あれ? どうしたんですかトール。お金入っていませんか? 一応、召喚先で一生優雅に遊んで生活していけるだけおの金が入っていると、聞かされているんですけど」
エリカが少し不安そうな声色で俺に尋ねてくる。
「ああ、うん。ちゃんと入ってはいるよ」
「そうですか。でもそれならどうしてトールは急に黙ってしまったんでしょうか?」
「お金は入ってはいるんだけどさ? なんかえらくゼロがいっぱいあるなと思っちゃってさ。最初が7で……え、なにこれ? え、ゼロが1、2,3,4、5、6、7、8……え? 7億円?」
「7億円ですか。わたしはこの国の貨幣価値に明るくないので7億円がどれほどのものかは分かりかねるのですが、困惑している様子から察するにこれでは不十分ということでしょうか?」
「あ、いえ十分すぎると思いますです」
7億円という空前絶後のパワーワードがもたらす衝撃に、俺は思わず片言になってしまう。
「なら良かったです」
「はい、良いでございます」
「あの、どうしてトールはそんなに変な感じでかしこまっているんですか?」
「そりゃだって7億円だよ7億円!? 7億円って言ったらサマージャンボ宝くじの1等・前後賞合わせた金額だぞ!? サラリーマンの生涯年収の数倍だぞ!?」
「はぁ」
「文字通りに遊んで暮らせる金額じゃん! こんなもん見せられたら庶民はみんなひれ伏すわ! エリカ様、何なりとこの俺にお申し付けくださいませ!」
「はぁ、そんなものですか」
「例えば計算しやすいように100年生きるとしてだ。利子が全部なかったとしても、毎年700万円使って生活できるってことだぞ!? 30歳無職がこんな金額見たらそりゃ驚くに決まってるだろ!?」
7億あったらもう人生勝ったと同義じゃん。
「トールの喜びようを見れば、7億円がとてつもない大金なのは理解できました。ではこれはトールに差し上げますので、金銭面は解決ということでよいでしょうか?」
「えっ、俺にくれるの!?」
「はい、どうぞ。女神さまからもそう言いつかってますので」
「7億円を俺にくれるの!? 全額を!?」
「正確には共同管理ってところでしょうか。わたしもお金がないと生活ができませんので、最低限だけ使わせていただきたくは思いますが、基本的にトールが自由に使ってください」
「いやでも7億円だよ? ものすごい金額だよ?」
「予習してきたとはいえ、わたしはこの世界のことをトールほどは知りません。オレオレ詐欺やマンション投資詐欺、開運商法詐欺、マルチ商法、情報商材詐欺、原野商法などにあわないためにも、トールに管理していただいたほうが安全かと」
「そんな単語が次から次へとパッと出てくるあたり、間違いなく俺よりエリカの方が金銭面でもはるかに即戦力だと思うんだが……」
「トールはほんと謙虚ですね。それはそれとして、このお金があればトールと一緒に過ごしても構わないでしょうか?」
「そうだね、はい。エリカは行く当てもないようなので、一緒に過ごしてもいいんじゃないかなって思います。いえ、過ごさせてください」
俺は7億円という大金の前に問答無用でひれ伏した。
「さすがトール、ありがとうございます!」
というわけで、俺はエリカと一緒に住むことになったのでした。
めでたしめでたし。
「ただし――」
「はい? なんでしょうか?」
「あくまでこれはエリカのお金とする。俺が使うとしてもエリカと何かをするために必要なお金と、最低限の生活費だけにする。その点だけはこの際はっきりとさせておきたい」
「別に遠慮はいりませんよ? トールは世界を救った勇者様で、わたしの未来の夫なんですから。好きに使ってください」
「別に遠慮してるわけじゃない、これは俺自身のためなんだから」
「トール自身のですか?」
エリカがこてんと可愛らしく小首を傾げる。
「これはさ、典型的なあぶく銭なんだ。しかも元々はエリカのお金ときた。日本には、悪銭身に付かずってことわざもある」
「似たようなことわざは基幹世界『ディ・マリア』にもありますね」
「だろ? そして一度あぶく銭を浪費する贅沢を覚えてしまったら、元の金銭感覚には絶対に戻れなくなる。そして俺は一度甘えたら二度三度と繰り返してしまうだろう。俺はそこまで意志の強い人間じゃないからな、7億円をすぐに使いつぶしちまう」
「つまり要約すると、身の丈に合った生活をしたいということですね?」
「そういうことことだな。一人暮らしを始めた時も親からお金のことはいろいろ言われたし。だからこれは絶対の決定事項だ」
俺は強い口調でエリカに言った。
ぶっちゃけこの前見てはまったごちうさのブルーレイBOXが欲しかったりするけど、絶対にそんなことには使わないからな……!
もし買ってしまったら7億の悪魔の誘惑に心を奪われた俺は、間違いなくチノちゃんのフィギュアとかグッズとかも際限なく買ってしまうから。
だからこうしてエリカに宣言することで、俺は弱い自分に誓約をかけたのだ。
「分かりました。そういうトールの真面目なところは、すごく素敵だと思います。では当面は共同管理という事で」
「ああうん、そんな感じで頼む」
まぁ無難な落としどころだろう。
そしてエリカに笑顔で褒められた俺は、そのあまりの美少女さにどうしようもなくドキッとさせられていた。
何度も言うけど、エリカは覇権アニメのメインヒロイン級の超絶ド級の可愛さだから。
「2人の初めての共同作業ですね! ポッ」
「そうだな、今後はお前が個人で管理してくれ。必要な時に出してもらうから」
「急になんですかそれ、ひどいです!?」
「お前がイチイチ余計なことを言うからだよ!」
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