第18話 わりと大変で気が利く女神さま

「なんでそんなもんを持ってるんだ?」


「異世界転移先で一番困るのはやはりお金の問題です、だから女神さまは転移先で困らないようにと、その世界の通貨を融通してくれるんです」


「異世界転移の女神さまって、想像以上に気が利くんだな……」


「それはもう全知全能の女神さまですので。これくらいデフォですデフォ」


「ちなみにいくらくらい入ってるんだ?」


「そこまでは存じ上げません。ですが支払いをする時には、これを見せて4桁の暗証番号を入れるかサインをすればいいと伺っております。使い方はばっちりです」


「うんまぁ基本はそうなんだけどな。でも中にいくら入っているか分からないと困るだろ? 支払い時に残高がないかもしれないし」


「そういうものですか」


「そういうものなんだ。ちょっと貸してみ」


 そういって俺はエリカからUFJの赤いカードを借りると、ノートパソコンでインターネットバンキングを開いた。


「じゃあはい、ここに暗証番号入れてみて。あ、キャッシュ残さない設定だから安心して」


「きゃっしゅ……? お金ですか? お金はこのカードで見るんですよね?」


「キャッシュはキャッシュでも、現金 (cash)じゃなくて貯蔵 (cache)って意味だ」


「はぁ……そもそもこの箱は何ですか? 小さなテレビ?」


「あ、パソコンは知らない? テレビは知ってたのに?」


 なんかちょっと意外だな。


「異世界転移するにあたって『テレビ』だけは常識中の常識だから絶対に知っておくようにと、女神さまがそう言い伝えていることもあって、女神学院では一番最初にテレビについて習うんですよ」


「へぇ、そうなんだ……女神さまってほんと気がきくんだな」


「それはもちろん、数多の世界を管理する女神さまですから。過去の異世界転移のデータを基に綿密にPDCAすることでお客様満足度もピカイチです」


「PDCAとかお客様満足度とか、女神さまがやり手の経営者みたいなんだが……でもちょっと情報の鮮度が古いかな……?」


「それはまぁ、さすがに違う世界のことなので、リアルタイムでは追っかけるのは難しいんですよね。さらに言うと、学校で使う教科書に載るには、異世界文部科学省の教科書検定をクリアしないといけないので、余計に時間もかかりますし」


「異世界の話って都度都度違いを感じさせる割に、そういうところはほんとこの世界と変わらないよな」


「世の中の根本的な仕組みは、世界が違ったくらいではそうは変わらないとうことですね。それではガッテンしていただけましたでしょうか?」


「ほんとしっかりと予習済みなのな……さすが長寿番組だ。俺の親も大好きだよ」


「ちなみにテレビの件は、大昔に実際に女神さまがこの世界に来た時にテレビも知らない田舎者と笑われて赤っ恥をかいたのが原因だそうですよ。後輩たちには絶対に同じ轍は踏ませないとその時に女神さまは心に誓ったそうです」


「女神さまも大変なんだなぁ……」


「でも実際に来て実感しました。この地球世界の技術の進歩の速さは正直驚異的の一言です。驚かざるを得ません。わたしもこれから色んなことを勉強しないとです」


「もう十分すぎると思うけどなぁ。エリカは日本語の発音も外見もネイティブ日本人だし、ぱっと見は異世界から来た人間なんて誰も思わないよ」


「ありがとうございます、お褒めいただき光栄です」


「それで話は戻るんだけど。これはパソコンって言って、テレビの友達みたいなものなんだよ」


「ほぅほぅ、テレビちゃんのフレンズですか。すごーい!」


 いかにも俺の好きそうなネタを振ってきたけど、いちいち突っ込まないからね?

 全部拾ってると話が進まないからね。


「ここに数字のついたキーがあるだろ、これで4桁の暗証番号を入れてみて」


「……入れました。ちなみにわたしは織田信長が好きなので、本能寺の変があった1582年を4桁の暗証番号にしています」


「異世界人なのに信長好きかよ!? とかツッコミどころ満載なんだけど、とりあえず暗証番号は人に知られたらまずいから、後でちゃんと変えておくようにな?」


「わたし的には未来の夫たるトールに知られてもちっとも問題はありませんのでご安心を」


「まぁその辺はおいおいどうするか決めるとして、じゃあ早速残高見てみるぞ。って…………は?」


 俺はパソコンに表示されている金額を見た瞬間――完全に思考が止まってしまった。


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