第5話 ドヤァ!と印籠を見せられる。
「いやだって、どうみても深夜のテンションでやっただけの、朝起きると恥ずかしすぎる黒歴史なんだけど」
「十中八九、いえ100%マジです」
「マジで?」
「マジです」
「え、異世界召喚ってそんなことで起こっちゃうんだ……? いやいや、そんなわけないだろ」
「ところがどっこい、そんなわけがあるんです」
「俺を騙そうったってそうはいかないからな」
「そんな、勇者様を騙したりなんてしませんよ。ほら見て下さい、すっきりと晴れ渡った夏の青空のような一片の曇りもないわたしの目を!」
可愛らしい顔をグイッと近づけられて、いい匂いとかもしてきて、だから俺は思わずドキリと胸を高鳴らせてしまう。
童貞丸出しだった。
いい年してちょっと顔が近づいたくらいであたふたするとかカッコ悪すぎるので、俺は必死に平静を装う。
「あ、分かったぞ。これってドッキリってやつだろ? 実は玄関の外にブラカード持った人が隠れてモニタリングしてるんだろ?」
「もう、勇者様は疑い深いですね」
「いきなりこんな展開になったら、そりゃ疑い深くもなると思うんだが。常識的に考えて」
「類まれなる異世界召喚の才能があったんですね、おめでとうございます」
「どんな才能だよ」
思わず俺は苦笑する。
「世の中にはいろんな才能であふれているんです。ひよこの雄雌を見分けたりとか、卵を垂直に立てたりとか。卵を垂直に立てることは人生においてなんの役にも立ちませんが、誰が見てもすごいと感じる特筆すべき才能ですよね?」
「う、うーん……? 分かるような分からないような……?」
できれば深夜アニメで説明してくれないかな?
そしたらアニオタの俺の理解は早まると思うんだ。
「つまり半分くらい分かったってことですね」
「君はほんとポジティブ・シンキングだなぁ……あ、そうだ、ちなみになんだけどさ?」
「はい、なんでしょうか?」
「何か君が異世界人だって証明するものはないのか? なんていうかその、設定があまりに現実味がなさ過ぎてにわかには信じられないんだよな」
「どうしても信じられませんか。あと設定じゃないです」
「そうは言っても君って日本語はすごく堪能だし、まったく齟齬もなく意思疎通できているだろ? そもそも外見的にはどうみてもネイティブ日本人だし、それで異世界から来たとか言われても、なぁ?」
「そうですね、それでしらたらこれをご覧ください」
そう言うと女の子は、首から下げていた小さなペンダントを服の中から取りだしてみせた。
その瞬間、巫女服の合わせの隙間から胸元の奥の方まで谷間がぐっと見えてしまう。
うぉっ!? 深い!!
やっぱり半端ない谷間だぞ!?
「勇者様?」
「いやいや何でもないよ、なんでもない。……で、それはなに?」
慌てて取り繕った俺に、女の子はペンダントを突き出すように見せつける。
「これは女神さまの印籠です(どやぁ!」
「おお、これが印籠なのか。水戸の副将軍様さまとかが使うやつ。生で見るのは初めて――って、うわっ、なんだ!?」
その瞬間。
女神さまの印籠が不可思議な光を放ったかと思うと、俺の頭の中に一つの回路が組み上がるような感覚があって――
「『この者、異世界転生したものと証明す 女神』――なんだこれって、ううっ」
急に頭の中にイメージが流れ込んでくるような感覚があったかと思うと、俺はこの美少女が異世界転生した少女なのだと魂レベルで理解したのだった。
「これには女神さまの秘儀中の秘儀たる神性魔法がかけられていて、わたしが異世界召喚された人間であると、理屈とか論理とか納得とか全部すっ飛ばして、魂レベルでちゃんと相手が理解してくれるようになるんです」
えへんと胸を張る女の子。
強調されるおっぱい。
いや今だけはおっぱいは置いておいて。
確かに今の俺は、理由とか理屈とかそんなものを全てすっ飛ばして、この可愛いアレンジ巫女服の美少女が、異世界から召喚されてやってきたのだと本能的に納得してしまっていた。
「上手く説明はできないけど、なんかすっごく心の底から納得している自分がいるよ。そうか、つまりこれが魔法なのか」
「はい、女神さまが異世界召喚された人間が困らないようにと渡してくれた、まぁいわば魔法のパスポートのようなものでしょうか」
「すっげー、魔法が本当にあるんだな……って、いやいや、そんな便利なアイテムがあるんなら、最初からそれを見せれば良かったんじゃないか? ドアのところでの押し問答とかもまったく必要がなかったよな?」
印籠さえ見せれば速攻で終わるのなら、じゃあ今までの不毛なやり取りはいったいなんだったんだ……?
―――――
お読みいただきありがとうございます。
気に入っていただけましたらブックマークと☆☆☆で評価していただけるととても嬉しいです!
たくさんの人に読んで欲しいので(*'ω'*)
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