第4話 30過ぎ童貞がちょろすぎる件。

「だからその、深夜といえば昨日の夜、というか今日の未明かな? 異世界召喚ものの深夜アニメをやってたんだ。主人公が可愛いヒロインに異世界召喚されるお話なんだけど」


「はい」


 それはWeb発の人気ライトノベルをアニメ化した異世界転生もので、原作の大ファンだった俺は録画に頼らず絶対にリアルタイムで最速視聴したいと、気合いを入れて臨んでいたのだ。


「まぁそれでだな、ほら、あるじゃん、いろいろ?」


「と言いますと?」


「だからほら、ね? 察してよ、もう!」


「申し訳ありません勇者様。いかんせん、わたしはこの世界には来たばかりで世情には疎いのです」


「ちょ、ちょっと! さっきあんな凄腕カウンセラーみたいなこと言っておいて、急になにその反応!?」


「社会の中で一定の役割を求められる中年男性の社会的評価に対する悩みは、おおむね万国共通ですからね。人間である以上、その辺りは世界が変わっても変わりませんから」


「ま、まぁ確かに……」


「あと、さっきのはただの本の受け売りです。なにかしら効果があるといいですね」


「この一言は絶対に言う必要がなかったよな!? むしろ最後まで心の中にしまっておいて決して口に出してはいけなかった案件だよな!? 俺よりはるかに若い女の子なのにすごいって思っちゃった俺の感動を返してくれ!」


「正直であることが、わたしの一番にして最大のアピールポイントだと自負しておりますので」


 美少女がえっへんと胸を張り、大きくて柔らかそうな双丘が激しく自己主張をした。

 その戦場のハマーン様のごとき圧倒的なまでの存在感に、童貞アニオタの俺は思わず視線が吸い寄せられてしまう――


「勇者様?」


「こ、こほん。なんでもない、なんでもないんだ」


「さっきからよくわたしの胸ばかり見てますけど、そんなにおっぱいが好きなんですか?」


「うぐっ、えっと、あの、そのだな……」


 まさかのドストレートで聞かれてしまった俺は、一瞬で言葉に詰まらされてしまった。


「もう勇者様はえっちなんですから。男の子は、ほんといくつになってもおっぱいが好きでしょうがないですねぇ」


「はい、すみませんでした」


 もはや誤魔化しはきかないと悟った俺は、素直に謝罪した。


「いえいえ責めてなんかいないんですよ。少なくともわたしに興味を持ってくれているということですから。実際こうやって話にも付き合ってくれてますし」


「そ、そうか?」


「はい、チラッと見るくらいなら全然大丈夫です。それでわたしに少しでも心を開いてくれるのなら、わたし的にはギリ許容範囲です」


 言いながらニコッと笑う女の子は本当に可憐で――。


 おっぱい――いや身体と話術を駆使した巧みなコミュニケーション・テクニックによって、俺の心はもう完全にこの美少女にコントロールされきってしまっていた。


 この子になら恥ずかしいことも正直に話してもいいと思ってしまっていた。


 つまり俺はとてもちょろかった。


「つまりだな」


「はい」


「そういう異世界転移もののアニメを見ていたら、俺も異世界召喚とかされてみたいなーとか思うわけじゃん?」


「まぁそうかもですね?」


 同意しつつも、ちょっとだけ「うーん、それはどうでしょ?」的な微妙な表情を見せる女の子。


「これは男のロマンなんだよ! 新しい世界でこう、英雄っていうか違う自分にになるっていうさ? そこに深夜の謎ハイテンションが合わさって、ちょっと異世界ゲート開くオリジナル魔法を口走ってみたりとか、それっぽいポーズとってみたりとか、大きな模造紙にオリジナル魔方陣を描いてみてりとか、することもなくはないだろ??」


 明け透けに全部言ってしまってから、俺はやっぱり後悔してしまった。


 いくらなんでもこれはない。

 種デスで主人公の乗ったストライクフリーダムが撃破されるくらいにありえない(ちなみに登場から最後までたったの1度の被弾すらしなかった)。


(くっ、なんで俺はこんな恥ずかしいA級の黒歴史を、会ったばかりの女の子に暴露せにゃならんのだ!)


 ……可愛いからだな、うん。

 より詳しく言うと、可愛い女の子と話ができて、俺がとっても舞い上がっちゃってるからです。


 さすが女の子とろくに話した経験がない童貞アニオタ。

 実にちょろい、ちょろすぎる。


 しかも原因は明らかにこれじゃないだろうし――、


「ほぅほぅなるほどです」


 しかし美少女はというと、俺の話を吟味するように口に手を当てながら、ふんふんほぅほぅとなにやら頷きだしたのだ。


「っていうか、こんなので異世界ゲート開いたら誰も苦労しないよな。みんな異世界に行き来しまくりだよな」


「それですね、間違いありません!」


「だからこれは関係ない――って、え、マジで!?」


 驚きを隠せない俺に、


「マジです」


 美少女はとても真面目な表情で首をを縦に振った。

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