第3話 女の子は視線に敏感だという話。
「おや、なにか思い当たる節でも?」
「いや、多分これは関係ないと思うんだけど……」
「ほうほう」
そう言って身を乗り出すようにしてくる女の子。
巫女服の胸元の合わせの隙間から、地球の重力に引かれて落ちる巨大隕石のごとき大きな胸が作った豊かな谷間がチラッと――
「どこを見ているのでしょうか?」
「ギクッ!? イヤイヤ、ドコモ、ミテナイヨ? ドコモダケ」
「そうですか。なにやらえっちな視線を感じたのですが……申し訳ありません、わたしの被害妄想だったようです。これは大変な失礼をいたしました」
「ウ、ウン」
「全て完璧に完全にわたしの勘違いです。これほどの強大な召喚力を持った勇者様が、服の合わせ目の隙間からおっぱいを覗き込んだりとか、そんな卑猥な視線でわたしを見るはずありませんものね」
「アアウン、ソウダネ、ソウダヨ」
ま、まずい!
これはどう考えても、完全にこれ以上なく問答無用に気付かれてしまっているぞ!?
「で、話を戻しますが、何か思い当たる節があるんですか?」
「あ、うん、あるっちゃあるんだけど……でもやっぱこれは関係ないかな」
そうだ、関係あるはずがない。
「とりあえず話の中身を聞かないことには判断も何もしようがありませんので、まずはその話を聞かせてください」
「いやその……」
「言いにくいことなのでしょうか?」
「ああうん、まぁそうかな? なんていうか? ほら、ね?」
「はい?」
「世の中、個人の尊厳とかプライバシーにもかかわることなので、あまり他人には言いたくない事ってあるわけじゃん?」
「例えばえっちな本の隠し場所とかですか?」
「そうそう――っていやいや、女の子的にその例えはどうなの? あと一応言っておくと俺は違うからな?」
えっちな動画と画像だからえっちな本ではない。
つまり嘘は言っていない。
ノット・ギルティ。
アイ・アム・ジャスティス!
「まぁまぁ、気にしなくても大丈夫ですよ」
美少女はそこで聖母マリアのようなおだやかな笑みを浮かべると、
「勇者様、安心してください。人間誰しもコンプレックスはあります。でも意外と自分がそう思ってしまっているだけで、他の人はそんな風には思っていないことが多いんです」
親が子供を教え諭すような柔らかい口調で語りかけてきた。
「特に独身男性は社会からの評価という荒波と常に戦っていることもあって、他人の視線が極端に気になるんですよね。でもそれはあなただけの問題ではないんです。だから1人で思い悩む必要もないんです。誰かと一緒に――わたしと一緒に悩んでいきましょう」
「お、おう――」
すごい!
思いやりのある語り口とその深い内容は、なんかベテランのカウンセラーさんみたいだぞ!?
本物のカウンセリングを受けたことはないから、海外ドラマとかでちょろっとシーンを見たことがあるだけだけど、この子はなんだかものすごく心の専門家っぽい!
俺よりはるかに若い、それこそまだ20歳にもなっていないであろう年くらいなのに、なんてプロフェッショナルな女の子なんだ!
俺は今、猛烈に感動している!
「それにほら、ここにはわたしとあなたしかいません。そしてわたしは絶対に秘密を外には漏らしません。全てを吐き出してわたしにぶつけてしまっても全然、大丈夫なんですよ」
そう言って美少女は俺の目をしっかと見つめながら、そっと手を握ってきた。
「あっ……」
女の子に手を握られるのが初めてだった俺は、伝わってくる柔らかさとか温もりに、心がどうしようもなくドギマギしてしまうのを抑えきれないでいた。
顔が赤くなっているのが自分で分かる。
俺は一般的なライトなアニオタなので、現実の女子と仲良くした経験はほとんどない――というか全くない。
彼女なんて夢のまた夢。
そんな俺だったから、こうやってちょっと女の子に優しくされただけで、緊張しつつも舞い上がってしまうのは、それはもう仕方がないことだった。
しかもその相手が神作画の覇権アニメのメインヒロイン級の美少女ときたら、もはや俺の意思なんぞはあってないようなもので――。
「どうぞお話しくださいませ」
加えて包み込むように温かく健気なバブい母性にほだされてしまい、導かれ促されるままに自然と俺の口は昨晩の一件を語り始めた。
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