第7話 持統天皇之章②
彼女の名前は
そして池袋を中心に非常線を張り、
同じように
……起きなさい!
そして僕たちが次に向かおうとする東京駅周辺、そこには
目的は新宿から
……起きなさい!
さらにそれ以外の地域、特に邪札の館がある秋葉原、他に品川、東京ではないものの夢の国がある舞浜臨海エリアなどでは野良の詠人が多く確認されているという……
……起きろ!
「ぐふぅ、はっ! ……朝?」
見ると僕の腹の上に黒いタイツに包まれた細い足が乗っている。腹の痛みはこのせいか。眺めは悪くない、うん、悪くないが、痛い。
「うん、良い朝だ」
「良い朝だ、じゃないわよ! 早く支度なさい!」
手元のスマートフォンを確認すると今は朝の六時、目覚ましアラームが優雅な音色を奏でるまであと三十分。そうか、ノブの『
「支度って言っても直ぐに済むよ。それにこんな早くから出かけるのかい?」
「あんたの支度じゃないわよ。早く朝の紅茶を淹れなさいって言ってるの!」
うむ、何か僕が寝坊でもしたかのようになっているが何かおかしくないか? 仲間が増えたと喜んでいたが、とんでもないのを押し付けやがったな。僕、実は持統天皇に嫌われてたのかな。
「わかったよ、直ぐ準備する。何かご希望は?」
しかし出来る男は女性には逆らわない。
「任せるわ。でも朝だってことを忘れないで! もちろんMFよ」
僕の朝は大抵がアールグレイで始まるのだが、ここはちょっと変化球でいこう。白茶がベースのフレーバーティー、サクラコレクション202X。
「ふぅ……美味しい。決めたわ! 私、ここに住むわ!」
朝の優雅なひと時を終えた僕たちは秋葉原に飛んだ。ここは僕の友人、
しかし勢い込んで訪ねてみたはいいものの、はたしてその部屋に彼は居なかった。
ちなみに黒野旧作という変な名前はもちろん本名ではない。所謂ペンネームというやつで、そう彼は自称小説家だった。何でも最近はインターネットで自分の作品を発表するのが流行っているそうな。ライトノベルと言ってたっけな。
「なになに……カムパネルラ? なんだろうな、銀河鉄道か?」
僕は散らばった原稿に目をやる。おっと、いけない、こんなことをしている場合じゃなかった。こんな時に何処に出かけたのか、気にはなるが居ないものは仕方ない。街に繰り出すとしよう。
「友人に会っておきたかったんだけど、どうやら居ないみたいだ。じゃあ、街に出ようか」
秋葉原の街もやはり霧が濃い。薄暗い中にぼんやりと浮かぶビルの一面を飾る美少女の絵面が、こうなってくると大層不気味に思えた。当然だが路上でチラシを配るメイドさんの姿も見えない。
「じゃあまずは邪札の館、だっけ? そこに案内してくれよ」
「それはいいけど、その前にあなたの詠人を戻してくれる?」
蝉丸さんをシステムに戻すと僕は丸腰同然になってしまう。僕は真理に理由を尋ねた。
「あなたの詠人と私の
なるほど相性というのもあるのか。属性が違うとそういうこともあるのかもしれない。ん? 待てよ、もしかしたらサネやノブをシステムに読み込めないのもそのあたりが関係しているんじゃないのかな?
「あの蝉丸さん、一度システムに戻ってもらいますがその前に、教えて下さい」
僕は事情を話す。
「ああそりゃマスターの考える通りじゃ。属性が違うと力関係によって召喚できないこともある。まあ、儂の場合はちと特殊での、これは歌術とは違うんじゃが儂の特性によって百人一首に数えられる儂以外の九十九人、これをお主の手札に加えることは出来ん。知らんかったかの?」
衝撃の告白、ええ、もちろん存じませんでした。まさかそんなデメリットが存在していたとは。つまり僕はこれからも蝉丸さん一人を頼ってこの戦場に身を投じなければならぬということか。まあ空間移動に強力な攻撃、一人でも十分といえば十分な気もするが。
「それでは儂は嬢ちゃんの活躍を高みの見物させてもらうかの」
そう言って蝉丸さんは消えていった。
「あなた前から聞こうと思っていたんだけどあのお爺ちゃん何者なの? あんなジョーカーどこで手に入れたのよ」
ジョーカーか、なるほどその呼び名はロイヤルカードに相応しい。
「それは最初から……」
僕がそう言いかけた時だった。視界に詠人と思しき人物が現れたのだ。うん、あれ絶対に詠人だよ、衣装でわかるもの。
「来たわ、話を聞いている暇もないようね。行くわよ、サモン『
和泉式部か、やはり真理の使役する詠人は
「まずは奴等の情報をちょうだい!」
「わかりました、マイマスター。歌術『
なるほど、彼女は相手の情報がわかるのか。相手の二人は僕も知っている。百人一首では有名な部類ではないだろうか。
「ありがとう、貴女は貫之を護って」
僕は和泉式部と一緒に物陰に隠れる。
「ほぅ、こんなところにまだ現人がうろうろしておったか」
「
どうやら話し合って何とかなる相手でもなさそうだ。
「上等じゃない、かかってきなさい。サモン『
真理は複数の詠人を召喚できるのか、羨ましい。そんな思いで眺めていると、まずは人麻呂が仕掛けた。
「ふん、姫もろとも粉々にしてくれる! 歌術『
ふわん、と現れた長い尾の怪鳥が真理の召喚した姫目掛けて襲い掛かる。
「マスター、ここは私が。歌術『
鳥には鳥ということか、清少納言の傍ででっぷりとした鶏が
「こちらからもいきます! 歌術『
紫式部の姿がふっと消える。そして次に現れた時には既に人麻呂をその射程に収めていた。
「歌術『
彼女の脚が美しい弧を描く。強烈な回し蹴りに人麻呂の体が地面に崩れて落ちた。
「やるもんじゃのぅ、どれ歌術『
猿丸の口から発せられる衝撃波、それを清少納言の『
「ふむ、歌術『
詰め寄った紫式部の蹴りが紅葉の弾幕に遮られて空を切る。
「式部、合わせて! 特技『
その声と共に清少納言を中心とする一帯の空気が張り詰めた。暑い、と思った瞬間今度は急激に寒くなる。これは冬の寒さか、猿丸を取り巻いていた紅葉が一瞬で枯葉となり落ちた。
そこに紫式部が飛び込む。
「特技『
紫式部から光が溢れ、それが男の姿を形作る。あれは源氏物語の主人公、光源氏。その無数に繰り出される拳に猿丸太夫は呻き声をあげながらやがて消えていった。歌術とは別の『特技』、なるほどそんなのもあるのか。
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