なんちゃってヨーロッパ語(Pseudo-European)計画

初心者向け

●PE計画 発音編 ~とりあえずこれさえ決めてしまえば、文法なんぞ作らんでもいい~

 さて、架空言語を作るとき最初に手をつけるのは、何と言ってもやっぱり発音だろう。

 発音はその言語がどんな響きになるのかを決定するので、かなり重要なポイントになる。


 まったく架空の言語を作るとなると、その言語特有の発音を考えなければならないので非常に難しい。しかし今回作るPEはそもそもの性質としてヨーロッパの言語である以上、インド・ヨーロッパ語族に共通する発音上の特徴を洗い出して考えればいいのでそこまで難しくはない。


 PEの発音を決めるに際し筆者は、ドイツ語に近い発音であれば日本人的に「カッコいい」発音になりうると判断し、比較的ドイツ語っぽい発音にすることにした。

 ※ここからしばらく、かなり退屈です。


 ①音節構造


 ヨーロッパの言語は日本語と違い、まず母音が五つ以上あるものが多い上に二重子音や二重母音、三重子音、三重母音を含むものも多い。そして音節全体としても三重子音+三重母音+三重子音などの音節も存在しうるため、全体の音節が膨大な数になる。


 以上を踏まえてPEでは、とりあえず二重子音と二重母音ぐらいまでありゃいいんじゃね、という判断になった。適当でごめん。

 一音節での基本的な音節構造を以下に記す(Vが母音、Cが子音)


 V 単母音のみ

 VC 単母音+子音

 CV 単子音+単母音

 CVC 子音+単母音+子音

 VV 二重母音

 VVC 二重母音+子音

 CVV 子音+二重母音

 CVVC 子音+二重母音+子音

 CCV 二重子音+短母音

 VCC 単母音+二重子音

 VVCC 二重母音+二重子音

 CCVV 二重子音+二重母音

 CCVC 二重子音+短母音+子音

 CCVVC 二重子音+二重母音+子音

 CCVVCC 二重子音+二重母音+二重子音


 例外も出てくるかもしれないが、とりあえずこんな感じでよかろう。(→結局後で割と三重子音も登場します)



 ②母音


 フランス語はやたら母音が多い。ちょっとフランス語の母音を見てみよう。


 /i/ イ

 /y/ ユ

 /u/ ウ

 /e/ エ

 /ø/ ユ

 /o/ オ

 /ə/ ア

 /ɛ/ エ

 /œ/ エ

 /ɔ/ オ

 /a/ ア

 /ɑ/ ア

 /ɛ̃/ アン

 /œ̃/ アン

 /ɑ̃/ アン

 /ɔ̃/ オン


 最後喘いでいるように聞こえ……これだけで16個もある。フランス語はこれらに加えさらに半母音(日本語でいう「わ」や「や」みたいなもの)もある。おそろしや。(ちなみにこの中には違いが消滅してしまったものもあるので、実際の会話では違いが区別されなくなった母音もある)

 これに対し、スペイン語やイタリア語は比較的に日本語に近いa i u e oの五母音になる。かつてのラテン語も5母音かそれに近い母音体系を持っていて、日本語と比較的近い発音であったそうだ。


 まあ、とりあえずこの中から母音を選び出そうと思う。どうせ日本人はa i u e o以外の母音が発音できないので、a i u e o以外の母音を選んだところでカタカナ表記してしまうと文字上には反映されない。

 そこであまり母音を増やし過ぎても仕方ないと思い、とりあえず単母音8つを選んだ。これらはみな長母音になる。


 PE 単母音


 a /ɑː/  アー

 i /iː/ イー

 ü /yː~øː/ ユー

 u /uː/ ウー

 e /eː/ エー

 o /oː/ オー

 ä /ɛː~æː/ エー

 ö /œː/  エー

 ※発音記号が二つあるものに関しては、どちらでも発音が許容されるという意味で受け取ってください。


 ドイツ語と全く同じですね(笑)

 と、思った方もいるかもしれないが、実は仔細に見ると微妙に違っている。

 一番違うのは最後のoウムラウトで、ドイツ語ではフランス語のpeuと同じ/ø/になるのだが、PEではこれをフランス語のcœurと同じœの長母音として扱う。


 このままだとドイツ語と全く同じで面白くないので、ちょっとした面白い現象を設けた。短母音になった時、これらの母音は発音の違いが磨滅して四つに統合するのだ。


 PE 短母音


 a/ä → a /ə/ シュワー

 i/e → i /i/ イ

 ö/ü → ü /y/ ユ

 u/o → u /u/  ウ


 ドイツ語を勉強したことがある人はなんじゃそりゃ、と思うかもしれないが、実はこういう現象を持つ言語は実在する。

 ロシア語、そしてポルトガル語である。

 ロシア語ではアクセントのこないе(イェ)はほとんどи(イ)と同じ発音に、ポルトガル語ではamigoは/ɐˈmiɣu/、アミーグと発音され、oはアクセントがないとuと同じ発音になる。参考にしてみた。

 そんなわけでPEではstúdentと書くと「ストゥーディント /stúːdint/」という発音になり、krávo /krɑ́ːvu/と書けば「クラーヴ」になる。


 さて次に二重母音を決めたい。頻出するのは以下の六個程度である。


 PE 二重母音


 ai /ai~ɑi/ アイ

 ei /ei/ エイ

 oi /oi/ オイ

 ia /iə~iːə/ イア、イーア

 io /iu~iːu/ イウ、イーウ

 üa /yə~yːə/ ユア、ユーア


 PEには半母音がy /j/しかない上に、ドイツ語や英語と違って拗音がないので日本語のような「キャ」といった音節は存在しない。

 つまりia ioなどの母音はあるが、子音とくっついても「キア」や「キーア」のように発音されるわけだ。


 △補足


 ドイツ語や英語といったゲルマン語派の言語は、母音の長短が母音自体の音価に影響してくる。

 たとえばhitとheatという単語の母音を比較したとき、日本語のような「ヒット」と「ヒート」という単純な母音の長さでもって音を区別しているのではなくて、母音自体が違うことをご存じだろうか。発音記号で書いてみよう。

 hit VS heat


 /hɪt/

 /hiːt/


 辞書を引くとのっているが、「なんだこれ? なんでhitのiの発音記号はiの大文字みたいになってるんだ? まあ、iと同じ発音かな」と思ってスルーされていた方も多いと思う。だが実際これら二つは、日本語の「え」と「い」ぐらい違う、列記とした二つの違う母音なのだ。(これはbookとshoot、cotとcaughtなどに関しても言える)

 しかし日本語はどうだろう。「あと」と「アート」という単語を発音したとき、別に「あ」は同じ発音である。「院」と「委員」でも同じで、別に母音が違う音になったりはしない。


 実は、ヨーロッパの言語は母音の長さがアクセントや音節の位置で決まっている場合が多く、ゲルマン語派のように母音の長短を持つものは少ない。さらにゲルマン語派の言語も結局母音自体が変化して音を区別している実態があるため、厳密には母音がただ伸び縮しているとは言えないかもしれない。

 もっというと、日本語のように本当にただ母音が伸び縮みして音が区別される言語はアラビア語やフィンランド語ぐらいしかないのだ。


 というわけで、PEでは母音の長短は完全にアクセントで決まっているということにした。アクセントは強弱アクセント、アクサンテギュで示す。

 基本的には一音節であれば表記せず、二音節であれば前の音節にアクセントがおかれて長母音になり、後ろが短母音になる。

 ドイツ語と違い、子音字を重ねて短母音を示すということもない。


 ②子音


 子音もなるべくヨーロッパの言語ではありふれたものを選ぶことにした。分かりやすくするために、スペリングは英語に近い表記を使う。


 PE 子音


 b /b/ 英語のb、bay

 ch /t͡ʃ~tʂ/ 英語のch、cheese ないしロシア語のч(チェー) 外来語のcは母音がiとeの場合必ずchと同じように発音される。

 d /d/ 英語のd、day

 f /f/ 英語のf、foot

 g /g/ 英語のg、go

 h /h/ 英語のh、have

 j /d͡ʒ~dʐ/ 英語のj、John ないし中国語のzh

 k /kʰ/ 英語のk、Kate 帯気する

 l /l/ 英語のl、light

 m /m/ 英語のm、man

 n /n/ 英語n、name

 ny / ɲ~n ʲ/ スペイン語のñ(エニェ)、ないし英語のnewや日本語のニャ行と同じ子音

 p / pʰ/ 英語のp、pay 帯気する

 q xと同じ発音。借用語のみ。qua/qui/qu/que/quoなどはxa/xi/xu/xe/xoと発音される。

 r /r~ ɾ/ 巻き舌のラ、ないし日本語のら行とほぼ同じ音

 s /s/ 英語のs、sign

 sh /ʃ~ʂ/ 英語のsh、shoes ないしロシア語のш(シャー)

 t /t/ 英語のt、ten

 ts / t͡s/ 英語のts、cats 日本語の「つ」

 dz /dz/ 日本語の「ざ」

 v /v/ 英語のv、vain

 w /v/ 英語のv。上に同じ。

 x /x/ スペイン語のjおよびx、喉を擦る「ハ」の音

 y /j/ 英語のy、young 外来語のみ

 z /z/ 英語のz、zoo

 zh / ʒ~ʐ/ 英語でvisionを発音するときのsiの発音 ないしロシア語のж(ジェー)


 特徴

 ◎基本的な特徴はヨーロッパのほとんどの言語と同じ。PとB、TとD、KとGといった無声音、有声音の対立があり、LとRの区別がある。


 ◎b/d/g/j/dz/v/z/zhといった有声子音は語末に来ると無声化し、p/t/k/ch/ts/f/s/shとして発音される。例 hadz /hɑ́ːts/ ハーツ チーズ gib /giːp/ ギープ 本 äzh / ɛːʃ/ エーシュ 私


 ◎二重子音は比較的自由。pnili /pniːli/(青い)のようなpnといった組み合わせもある。ただしptやktといった二重子音ではドイツ語や英語と同じように帯気が失われる。面倒なので本稿ではこの帯気をIPA表記しない。


 全体的にスペイン語とドイツ語、ロシア語を足して三で割ったような発音になった。

 ここで発音の特徴を少し書き出してみよう。


 ゲルマン的要素 k/t/pといった子音が帯気する。vとwの区別がない。語末で子音が無声化する。

 スラヴ的要素 tsとdz、sとz、shとzhの区別があり、ch/sh/zhがロシア語のようなそり舌音でも発音される点。ロシア語と同じくvとwの区別がなく、語末で子音が無声化する。

 ロマンス的要素 nyやxといった子音(でも、そういやスラヴ語派のポーランド語にはnyがあったり鼻母音があり、じゃっかんフランス語っぽい発音だっけ)


 余談だが、これらの発音の特徴のせいでPE風に「ワタナベ・ユキオさん Watanabe Yukio」を発音すると、「ヴァタナビ・ユーキウさん」になってしまうことになる。rádioだってラーディウになる。

 日本語ではVとFの区別がないので「ヴァイオリン」が実際の発音では「バイオリン」になるようなものと考えていただきたい。


 ***


 ふう。疲れた。


 ここまで読み飛ばした方もいるかもしれないが、とりあえずPEの発音が決まった。実はこれをやるだけで、もう単語を作ってしまうことは可能である。


 PEはその名の通り「似非ヨーロッパ語」なので、単語も他のヨーロッパの言語と似通っているはずだ。ヨーロッパの言語は高等概念になるほどラテン語やギリシャ語からの借用語が多く、一度音韻を決めてしまえば既存の単語をその規則にあてはめて「PE訛り」で発音すればいいだけの話である。

 たとえば、「大学」にあたる単語を英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語の六言語で比較してみよう。


 大学


 英語 university ユニバーシティ

 ドイツ語 Universität ウニヴェアズィテート

 フランス語 université ユニヴェルスィテ

 スペイン語 universidad ウニベルシダ

 イタリア語 università ウニヴェルスィタ

 ロシア語 университет ウニヴィルスィチェット


 発音が違っているだけで、どれも同じ語から派生した単語だと分かると思う。これらを参考にしてPEでは、大学のことを「üniversítia /ynivirsíːtiəかynivirsítiə / ユニヴィルスィーティア、ユニヴィルシティア」と呼ぶことにした。Üniversítiaなら、なんだか実際にありそうな感じのする響きである。

 こんな感じで他の単語も作っていく。


 学生


 英語 student スチューデント

 ドイツ語 Student シュトゥデント

 フランス語 étudiant エテュディアン

 スペイン語 estudiante エストゥディアンテ

 イタリア語 studente ストゥデンテ

 ロシア語 студент ストゥヂェント


 →PE stúdent /stúːdint/ストゥーディント

 どの言語でも男性名詞なので、PEでも男性名詞(女性名詞になると後ろに-aをつけてstudentiaになる)


 分(時間)


 英語 minute ミニット

 ドイツ語 Minute ミヌート

 フランス語 minute ミニュト

 スペイン語 minuto ミヌート

 イタリア語 minuto ミヌート

 ロシア語 минута ミヌータ


 → minúta /minúːtə/ ミヌータ

 とりあえず女性名詞にしてみた。ロシア語とほぼおんなじやんけ。


 ワイン、酒


 英語 wine ワイン

 ドイツ語 Wein ヴァイン

 フランス語 vin ヴァン

 スペイン語 vino ビーノ

 イタリア語 vino ヴィーノ

 ロシア語 вино ヴィノー


 → víno /víːnu/ ヴィーヌ


 ドラゴン


 英語 dragon ドラゴン

 ドイツ語 Drache ドラッヘ

 フランス語 dragon ドラゴン

 スペイン語 dragón ドラゴン

 イタリア語 drago ドラーゴ

 ロシア語 дракон ドラコーン


 → dráxo /drɑ́ːxu/ ドラーフ


 他にも例えばチョコレートはshokoládeでドイツ語とほぼ同じ綴りだが発音はシュクラーディになるし、人名だって綴りはPéterでも読み方がペーティルなので何人なのか分かりにくなる。


 とまあ、ヨーロッパの各言語の中間点を割り出す作業を延々と繰り返せば、おのずと似非ヨーロッパ語が出来上がっていくわけだ。楽ちん楽ちん。

 これなら別に言語学の知識なんぞなくったって、調べりゃ誰でも作れるんじゃないだろうか。


 △また補足。

 分かりやすくするために、PEでは女性名詞は絶対に-aで終わることにした。よって男性名詞は子音でも終わることも母音(a以外の)で終わることもあって、比較的何でもあり。

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