●PE計画 語彙編 ~共通している音素を抜き出して、無理やり一つの単語の中にぶち込め~

 ヨーロッパの言語は大きく分けてゲルマン、イタリック(ロマンス)、スラヴの三つのグループがある。(無論他にもケルトなど、いくつか語派はある)そしてゲルマンの言語にはゲルマン語らしさ、ロマンス語にはロマンス語らしさ、といった感じで同じ語派の言語で共通する特徴を持っている。

 それは語彙という点でも顕著だ。たとえば同じゲルマンの言語であるドイツ語と英語は語彙を共有している。

 左は英語、右はドイツ語である。


 手 hand ハンド Hand ハント

 魚 fish フィッシュ Fisch フィッシュ

 家 houseハウス  Haus ハウス

 名前 name ネイム Name ナーメ

 男 man マン Mann マン


 えっ、同じやん。

 このように、ドイツ語と英語は単語という点では非常に似通っている。(この比較ちょっと悪意があるかも……)


 こういう感じで、同じ語派の言語を並べると大体単語が似ている。同じことをフランス語とスペイン語、イタリア語でやってみよう。


 月 lune リュン luna ルナ luna ルーナ

 星 étoile エトワル estrella エストレージャ stella ステッラ

 太陽 soleil ソレイユ sol ソル sole ソーレ

 海 mer メール mar マル mare マーレ

 国 pays ペイ país パイス paese パエーゼ

 愛 amour アムール amor アモール amore アモーレ


 微妙に違う部分もあるにしろ、大体似ている。あとそれから「月」や「太陽」「海」みたいな名詞には定冠詞がつくというところや、名詞の性も共通だ。

 我々日本人はこうした言語にある程度なじみがあるので、これを見れば「あれ、ソレイユってどっかで聞いたことあるような……」とか「なんか近所のイタ飯屋イルマーレとかいう名前だったような……」とか思うかもしれない。

 

 ロシア語のようなスラヴの言語ならどうだろうか。

 スラヴの言語にはロシア語の他にポーランド語やチェコ語、クロアチア語などがあるが、とりあえずロシア語とポーランド語で単語を比較してみよう。


 鳥 птица プチーッツァ ptak プターク

 山 гора ゴーラ góra グーラ

 言葉 слово スローヴァ słowo スォヴォ

 空 небо ニェーバ niebo ニェボ

 牛乳 молоко マラコー mleko ムレーコ

 パン хлеб フリェプ chleb フレープ


 スラヴの言語は日本人にはあまりなじみがないかもしれない。しかし確かに同じ語派だけあって、見た目似ている単語が多い。


 今まで同じ語派の単語を比較してきた。

 だがここで、同じ語派でない言語の単語を比較すると問題が発生する。

 たとえばロシア語で山はгора ゴーラだが、英語ではmountain マウンテンである。全く似てないのに、どうやって共通点を見出せばいいのやら。

 

 このように身体や自然を表す基礎語彙は、同じ語派の間では共通していても多くの語派にまたがって比較しようとすると似ていないことが多い。

 そこで筆者は、三通りの対処法を考えた。


 ①力技でどの言語にも似た発音にする

 たとえば、「パン」という単語。


 英語 bread ブレッド

 ドイツ語 Brot ブロート

 フランス語 pain パン

 スペイン語 pan パン

 イタリア語 pane パーネ

 ロシア語 хлеб フリェプ


 これはまだいい。各言語で発音の違いはあるが、基本的にbとかpがどこかについている。

 というわけで「bäne /bɛ́ːni/ ベーニ」という発音にしてみた。これならギリギリロシア語にも似てる……んじゃないだろうか(震え声)


 次に「空」という単語を比較してみよう。


 英語 sky スカイ

 ドイツ語 Himmel ヒメル

 フランス語 ciel シエル

 スペイン語 cielo シエロ

 イタリア語 cielo チェーロ

 ロシア語 небо ニェーバ


 ひえぇ~ダメだ。諦めよう。無理だこんなの。


 と、叫びだしそうになったがまあ落ち着こう。

 こういう単語というのはどうせ語源が違うのである。それぞれ違う単語に由来していることを考えれば似ていなくともしかたない。(ラテン語で空はcaelumでロマンス系の言語はそれが語源なのに対し、おそらくロシア語やドイツ語の空はスラヴ語派・ゲルマン語派独自の語彙なんでせう。わかりまちぇん。※後で調べたら意外と古くまで遡れるみたいでつ。不勉強の至りですな)

 

 ではどうするか。接ぎ木するみたく、無理やり音素を抜き出して一つの単語にぶち込んでキメラを作ってしまえばいい。

 色々考えた結果「síval /síːvəl/ スィーヴァル(暫定)」になった。すんません適当で。


 △言い訳。

 ロマンスの空を意味する単語には大体CとLがついていて、ロシア語にはNとBがついているので、無理やりくっつけてsíboあたりにしようかと思っていた。

 しかしあまりにも直接的すぎるのでBをVに変えsívalにしてみた。slívoとかでもいいかもしれない。

 うん。もはや語源がなんなのか分からない。

 ドイツ語のHimmelはどこへ? 知らん。


 △言い訳。2

 このようないくつかの違う言語を参考にして新たな単語を作り出すやり方は、ロジバンで見られる。例えばbetfu 「腹」の語源は英語のbellyと中国語のfuを組み合わせたものだ。PEはより狭い範囲で――同じヨーロッパの言語の中で――比較し造語する。


 ②ラテン語やギリシャ語などを語源としているものを優先する


 上記の方法だとやはり無理があるので、結局ラテン語やギリシャ語の単語をPE訛りで発音して造語するという方法をとるのも手だ。 

 たとえば「月」という単語。


 英語 moon ムーン

 ドイツ語 Mond モント

 フランス語 lune リュン

 スペイン語 luna ルナ

 イタリア語 luna ルーナ

 ロシア語 луна ルーナ


 見てすぐ分かると思うが、ゲルマン語派ではM、Nが付くような単語が使われているのに対し、フランス語・スペイン語・イタリア語ではラテン語のlūnaから派生した単語が用いられている。実はゲルマン語派のM、Nのつく「月」も、ラテン語のmēnsisという月を意味する別の単語から派生しているに過ぎない。スペイン語ではmesといえば天体の月ではなく、一か月、二ヶ月の月で用いられる。

 筆者はとりあえず、「月」と「太陽」に関しては、ラテン語の単語をPE訛りに発音して造語して、それぞれ「lűna /lýːnə/ リューナ」「sólo /sóːlu/ ソール」としてみた。


 そしてさっきの「山」だが、ラテン語ではmōnsなので普通にmonta モンタ、モーンタ /móntə ~móːntə/とかmona モーナ /móːnə/とかでも構わないと思う。

 しかしここで一ひねりいれて、たとえばラテン語で「collum 丘」を意味する単語が、PEでは山を意味する単語に転じたことにしてkúla クーラ /kúːlə/ にしてみてもいいんじゃないだろうか。長い年月が経ってある単語が近い別の意味に転じるのはよくあることだ。


 英語ではmountとmountainで違う意味になったり、collumはhillになって受け継がれている。


 ③固有語を作る


 PEは、タイムパラドックス(クッソ適当な後付設定)か何かで突如インド・ヨーロッパ語族から派生した別の語派であるので、基礎語彙に関しては固有語をもっていてもいいように思う。

 なのでさっきのsívalは固有語ということでおk(迫真)

 「友達」という単語もkrávo クラーヴという語源不詳の単語を作ってみた。


 以下、参考までに「友達」


 英語 friend フレンド

 ドイツ語 Freund フロイント

 フランス語 ami アミ

 スペイン語 amigo アミーゴ

 イタリア語 amico アミーコ

 ロシア語 друг ドルーク


 まあ、各言語によって言い方が全然違うから……多少はね?

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