12話 決意②

 会話がひと段落ついたところで、俺は姿勢を正してから切り出した。


「さっきの話なんだけどさ、俺に何ができる?」

 すると二人は待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべて、

「そう言うと思ってたわ!」

「奏太さんならそう言ってくれるって信じてました!」

 満足げな表情だった。

「私たちも奏太さんがいなくなった後、考えてみたんです」

 紺が自ら考案したという作戦を語りだした。


 簡単に言うと相手の不意を突いて奇襲を仕掛け、致命傷を与えるというものだった。


 ちょっとせこい気もしなくはない……。

 まず俺が不意を突いて妖刀・紅羽で攻撃を仕掛ける。

 なぜ特攻役が二人ではなく俺なのかと言うと、

「あんた、素手よりかは武器があったほうが良いでしょ?」

 とのことだ。

「それに昨日の夜、紅羽に喰われたばっかりだから、よく馴染むと思うわよ」

 試しに妖刀を抜いてみると昨日のような力の暴走はなく、妙に落ち着きすら覚える。


「ところで、その厄神とやらはいつ現れるんだ?」

「今夜よ!」

「……え?」

 耳を疑った。

「待ってくれ、いくらなんでも急すぎないか?」

「というか、毎晩あの神社に現れてるみたいですよ?」

「そうね。日に日に痕跡が増えてるし」

「いいのか?そんなすごい神が、ふらっとそこらへんにいて……」

 苦笑を浮かべる俺に紺が笑って答えた。

「意外とそこらへんに神や妖怪っているものですよ?普段は人間に擬態していることがほとんどですけど」

「そういうものなのか」

 もしかしたら俺の知り合いの中にもそういう類の者がいたりして……ふと、疑問が浮かんだが、そんなことがあるはずもないかと内心で笑って考えるのをやめた。

「じゃあ今夜、行くわよ!」

「大丈夫なのか?強いんだろ?」

「もし危なくなったら逃げればいいのよ」

「いや、それに昨日のガスマスクのやつが出てきたら……」

 と、そこで俺は、彼に言われた言葉を思い出す。

 我ながら情けないことに二人の裸を見てからというもの、すっかり忘れていた。


『狐姉妹の言葉には気をつけろよ。柏木奏太』


 気をつけろとは一体どういう意味なのだろう?

 見たところ彼女達から俺への敵意も感じられない。それどころか利害の一致もあってか、現在仲良く作戦会議までしている。

 真剣に考えていると戀の声がし、我に返った。

「ちょっと!ちゃんと聞いてんの?」

「あ、あぁ。大丈夫。で、なんだっけ?」

 呆れた顔で「はぁ?」と溜め息を吐いてから口を開く。

「あんたが聞いたんじゃない。ガスマスクのやつが出てきたらボッコボコにしてやるわよ!昨日みたいに油断してなかったら、あんなやつ一捻りよ」

 そう言う戀の自信に満ち溢れた顔からは、何処と無く頼れる雰囲気があった。


 この時、ガスマスクの男──敵に告げられた言葉を二人には言わず、心の内に仕舞った。


「よし。頑張ろう!そんでもって早く人間に戻ってやる」

 それが彼女たちに対して俺が今言える、精一杯の言葉だった。


 そして俺は出会ったばかりの狐姉妹と共に、世界を厄災から救いに行く。


 『出会ったばかりの』彼女たちと共に。

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