13話 予言

 奏太が決意を固めたその頃。

 とあるマンションの一室。電気は消え、夜空に浮かぶ月の明かりだけが、窓から差し込んでいる薄暗い部屋。そこにガスマスクの青年がいた。

「なぁ、結局どうすんだ?」

 部屋の奥──光が届いていない真っ暗な空間に向かって問いかける。

 何も見えない暗闇から可愛らしい少女の声がした。

「どうやら忠告も効果がなかったようだな。私の予言に変化がない」

 深刻な──重みのある声だった。

「あれだけじゃ気付けなかったか。でも予言だって外れることがあるんじゃないのか?こないだだってお前の予言が外れたから、しくじったんじゃ……」

「違うぞ。私の予言は絶対だ……ふむ。どうしたものか」

「…………」

 青年は黙り込む。

 数秒の沈黙の後、少女が口を開いた。

「……もしかしたら!」

「もしかしたら?」

「本来なら昨日、厄災を止めることができるはずだった。いや、できて当然だったはずなのだ。だが事態は最悪の方向に向かっている。予言を覆せる者……つまり私たち以外にも、予言を知る者が一枚噛んでいると見た方がいいのかもしれない」

「つまり裏で厄災を起こすために操ってるやつがいるってことか?」

「そう考えていいだろう。だが一体誰が……っ」

 舌打ちと共に苛立ちが伝わってくる。

「……いや、それならばそれでいい。厄災が起こる前にケリをつけるまでだ」

「てことは……」

「また行ってもらうことになる。すまないな」

「しょうがない。お前はいざという時のために力を残しておいてくれ」

 優しい笑みを浮かべて青年は暗闇に背を向ける。

「敵が何者かわからないうちは無理は禁物だ。おそらく厄災が現れるとしたら今夜だからな」


 空には鮮やかに輝く満月が浮かんでいた。


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