11話 決意①
戀によって風呂から締め出された俺は自室でベッドに腰掛けていた。
紺曰く、妖狐の耳と尻尾は出し入れが可能らしい。
それなら今後、フードを深く被って逃亡犯のように街を歩かなくて良くなるじゃないか。
引っ込めようと思い立ったが、何をどうしたらいいのか見当もつかず、試しに手鏡と睨めっこしても当然変化はない。
鏡を適当に放り投げてから横になり、天井を見上げる。
「……結構大きかったな」
二人の裸が脳内で蘇る。
なんせ人生で初めてみる女の子の裸だ。
思春期真っ盛りの健全な高校生がなんとも思わないはずがない。
「へへっ」
「何ニヤついてんのよ。気持ち悪いわね。この変態!」
突然、扉の方から戀の声がした。
「べっ……別にニヤついてない」
……ニヤついていた。
「お姉ちゃん、結構良い体つきしてますよね」
「あんたは余計なこと言わないでいいから」
普段見慣れない着物に、風呂上がりの濡れた髪が目を奪われるような妖艶な雰囲気を引き出している。
「えー、別に減るもんじゃないんだからいいんじゃない?」
「それはそうだけど……何にしても裸を見せて良い理由にはならないわよ!」
二人もベッドに腰掛けた。
「そういえばさ、さっきの耳を隠せるやつってどうやるんだ?」
「あぁ、それはですね。耳に力を込めて消えろ消えろ〜って念じるんです」
「はぁ……」
そんなんで消えたら苦労していない。
理屈はよくわからなかったが、ダメ元で言われた通りにする。
「できてるじゃない」
そう言って戀はさっき俺が放り投げた鏡を拾い、目の前に向ける。
確かに耳が消えていた。
「おぉ!これなら外を歩け……」
しかし数秒と経たずに耳が再び現れてしまった。
「なんでなんだ!」
「いやぁ……耳と尾を隠すのってなかなかの集中力が必要なんですよ。私たちでも、せいぜい五分くらいが限度なんです」
「せっかくフードなしで外を歩けると思ったのにな」
落胆している俺に戀は、
「堂々と歩けば良いじゃない」
そう言い切る彼女に俺は呆れたような目を向けてから、
「街中パニックになるわ!」
高らかに叫んだ。
「なによ。私たち、夜とか普通に歩いてるんだけど?」
昨日、校門の前で滝野内に言われた言葉が脳裏を過った。
「………この街の噂ってお前たちが原因だったのか」
「え、噂?私たちそんなことになってるの?」
「らしいぞ」
きょとんとした顔を紺に向けて、
「あんた知ってた?」
「うん。時々人間に見られてるなぁとは思ってたよ」
「あらま……」
戀は苦笑するしかなかった。
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