10話 裸の付き合い

 フードを被ったまま、俺は家までの道のりを全力で走っていた。

 

 家に着くなり自室に駆け込む。

「おいっ!聞いてくれ。さっき…………あれ、あいつらどこに行ったんだ?」

 二人の姿はなかった。

 部屋の隅に妖刀が立てかけられているだけ。

 刀があるということは帰ったというわけじゃないのだろう。


 だとしたらどこへ?


 あの二人が黙って、外に出て行くとは考えにくい。

 だったら必ずこの家のどこかにいるはずだ。

 早く伝えないと……ガスマスクの青年に出会ってしまったことを。

 部屋の隅々まで探したが見当たらない。

 階段を降りて一階のリビング、親の寝室、客間にトイレ。思いつく限りのところを探して残すは一つになった。

「……まさか、な」

 一切の期待もせず、ダメ元でその扉を開ける。

 暖かい空気と共に石鹸の良い香りが漂ってくる。

 最後の場所──風呂場を覗いたがやはり二人の姿はなかった。

「…………そりゃ、いないよな」

 残念な気持ちと、ホッとする気持ちが入り交じる。

「本当にどこに行ったんだ?」


 他を探そうと目を逸らした時だった。

 湯船から水しぶきが上がった。

「ぷはー、もう限界。お姉ちゃん、なんでそんなに息続くの?」

 紺が湯船から顔を出している。

 それからしばらくもしないうちに、

「へっへっへ、私に勝とうなんてまだまだね!」

 機嫌の良さそうな声と共に戀も湯船から顔を出した。

 そして………


「「「あ」」」

 三人の声が重なった。


「あ、奏太さん。おかえりなさい」

 紺は特に気にするでもない様子で言った。

「うん……ただいま」

「あっ、あんた!な、何してんのよ!」

 一方で戀は両手で胸を隠し、湯船に隠れながら叫んだ。

 だが俺は戀が裸を隠す直前、彼女の可憐な裸体の全貌をしっかりと目撃してしまった。

 しなやかに伸びる手足に程よくくびれた腰、そして大きすぎず、小さすぎない大きさの膨らんだ胸──滴る水滴が今朝、ベッドで見た裸とは比べ物にならないほどの色っぽさを醸し出している。


 端的に言って……どエロい。


「待ってくれ。お前たちこそなんでこんなところにいるんだよ!」

「あんたこそなんで入ってきてんのよっ」

「あのー、お話しするならそんなところで立ってないで奏太さんも一緒にお風呂入りましょうよ」


 明らかに一人だけこの場に相応しくないことを言った奴がいる。


 だが、今はそんなことにツッコめるほど余裕のある者はいなかった。

「ちょっと紺!あんた、少しは身体隠しなさい!それと、あんた!見てるんじゃないわよ!」

 俺は急いで彼女たちに背を向けた。

 しかし先ほど目にした二人の裸体が脳裏に焼き付いて離れない。

「あ、私たちは奏太さんのお母様に許可していただいたのでここにいます」

 ただ一人。この状況で、ある意味冷静な紺が説明した。

「待て!うちの母親に会ったのか?」

「そうよ。そしたら快く迎えてくれたのよ!なんか文句がある?」

 文句どころの話じゃない。

 ツッコミどころが多すぎてどこからツッコんだらいいのかわからない。

「耳と尻尾はどうしたんだよ?」

「言ってませんでしたけ?私たち、出したり引っ込めたりできるんですよ?」

「………言ってませんね」

 そういうのは先に教えてもらいたかった。

 すると、痺れを切らしたのか戀が怒鳴る。


「いいから早く出て行って!」


 

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