第44話 コミュ力陰キャの間違いだらけなラブコメ


 流石に靴を履き替える時まで手を繋いでいるわけにもいかないので、今はフリーハンドだ。そのまま教室に入れば、透華は一言俺に断って自らの席へと戻る。


「おっ、ナイト様登場じゃね⁉」


 自分の席へと腰掛けると、早速万治が話しかけてくる。


「そういう呼び名はやめてくれ」


 いつもなら乗っかってやるところだが、今の俺にはそれをする必要が無い。万治も俺がいつもと違うのに気づいたのか、肩に手を回してきた。鬱陶しい。


「んだよ、ごめんじゃん? それより明日からGWだぜGW。どっか行くっしょ?」

「あー、もうそんな時期か」


 よしいっぱい寝れると内心でほくそ笑んでいると、万治は俺の言葉をなんと捉えたのか、いらぬ提案をしてくる。


「そうよ。もしあれなら清水さんとかも誘ってもいいんじゃね? って思うんだけどさ、どうよ」


 どうやら昨日の出来事は万治にも影響を与えたらしい。あるいは下心かも知れないが、もしそうなら社会的に抹殺する事も考慮しないとな!


「いや透華は断るだろう。ついでに俺もお前の誘いを断るつもりだ」

「それまじかよ! 本気で言ってん⁉」

「休みは寝たい」


 ついでにお前と一緒にいたくない。流石にわざわざ口にはしないが。


「かーっ! どうせあれじゃね? 清水さんと二人であんな事やこんな事で楽しむ感じだろ? ったくよー」

「いやねーよ」


 ったくよー、はこっちのセリフだわ。いちいちそういう話とつなげてこないでくれ。

 面倒くさい雰囲気を隠す気がないので伝わったのか、万治は俺から離れ目崎の席で話している目崎と宮内の方へと飛んでいく。


 目崎も完全に宮内グループに溶け込んでるみたいだな。宮内にもある程度気に入られているようだ。わざわざ足を運ぶとはどこぞの水城さんとは大違いだなと見てみれば、名前忘れたけど誰かの女子と雑談していた。水城の席はあっちのはずだが、少しは素行を治したらしい。まぁ内心は何を思ってるのか知らないけど。


 俺も暇だし透華のところにでも行こうかと考えていると、朝練を終えたのか三星と相川が教室に入って来る。三星は何やら話し込んでいる万治たちに気付いたようでそちらへ行くが、相川の方は自分の席へと戻って来ると名前を連呼してくる。


「永人君永人君!」

「急にどうした?」

「えっとね、永人君ってまだ部活決まってないんだよね?」

「まぁそうだな」


 結局そこらへんの事は決めかねていたが、今となってはもはやどこにも入る気はない。部活に入ったら透華と一緒に帰れなくなるしな。あいつがどっかに入るなら考えるが。


「じゃあさじゃあさ、弓道部来ない?」

「遠慮しとく」

「即答だね⁉」

「いやだって弓道大変そうじゃん」

「まぁ、確かに楽ではないけど……」


 あまりに真っすぐ断られたからか、どこか相川は困ったような笑みを浮かべる。いつもならこれで引き下がってくれるところだが。


「じゃあゴールデンウィーク! どっか行かない⁉」


 相川にしては珍しく別の要求を突き付けてきた。まぁこうなるような気はしていた。昨日の出来事は俺が引き起こした事とは言え、相川は自分から俺と一緒に呼びかけるという選択をした。そしておおむね成功したため、恐らく少し自信もつけている。


「その話なら今あっちで万治たちがやってると思うから混ざって来たらどうだ?」


 遠回しに断ってみるが、相川は何故か「えっとー……」ともじもじし始める。


「確かにみんなとも行きたいんだけど、そのー、弓道部の休みが一日増えてまして、できればその日は永人君と行きたいな~って」


 キャー言っちゃった! とばかりに顔を手で覆う相川。思わず目を覆いたくなる光景にため息が零れそうになる。


 まぁこれもそういう事が起きるだろうとは思っていた。一応昨日の事は二人で乗り切ったと言っても過言では無いからな。心理的距離が近づいて何かしらアプローチしてくるとは思った。


 いつもならどういう方向性で話を進めるべきか考える所だったが、今の俺は既にそれに対して返すべき言葉を用意している。


「あーねー、それは……」


 俺は今朝の時点で固めた一つの決意を頭に思い浮かべる。俺は今まで透華から離れたところで立ち回り続けた。だがそれは大きな間違いだった。だからこそ俺はそれを正す必要がある。


「それは、ありよりのありかもしれないな」


 言うと、相川が顔を綻ばせるので、完全に綻びきる前に言葉を継ぎ足す。


「でもせっかくなら透華も誘いたいな~」


 俺の一言で、相川は笑みを浮かべたまま固まる。

 だがそれも一瞬で、すぐさま顔を綻ばせた。


「そ、それいいね! すごくいいと思うよ。ありっぽい!」


 確か相川には俺が優しいように見えてるんだったな。なら俺が多少鈍い発言をしても憎むに憎めないんじゃないか?


 今、この教室は善意に包まれている。それは万治までもが透華を気にする程に。

 既に空気は透華擁護の流れだが、それはあくまで少しの間だけ。突貫工事で取ってつけた堤防はいずれ必ず決壊する。そうなれば大きな被害は免れないだろう。それを防ぐには誰かがその川を管理しなければならない。


 しかし従来の管理方法をしていたのでは、その堤防にかかずりあうだけで手いっぱいになってしまい、堤防の周りには人が住んでいない事に気付かなかった。人を守るための堤防なのにその守る人がいなくなれば何のために作ったんだという話だ。


 だから俺は、余裕をもって堤防を築ける立場に行こうと思う。勿論透華も一緒にだ。人付き合いは嫌だが、俺が中心となる人付き合いなら幾らかマシだろう。


 先んじてはまず相川を俺達の元へと引き入れる。そこから徐々に発言力を手に入れ、透華グループこそがトップグループへとなり替わる。


 成すべき事は多い。そう簡単にもいかないだろう。だが困難を乗り越えそれが成された時、ようやく俺は腰を落ち着ける事ができるに違いない。


 果たしてこれは間違いなのだろうか? 

 少なくとも俺は、間違っているとは思わない。



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