〇間違いだらけなラブコメ
第39話 一人俺は自転車を漕ぐ
教室の床にはどこまでも長い影が続いている。
追いかけても追いかけてもその後ろ姿に追いつくことはない。凛然として前を向いて歩く彼女はどこまでも遠い光の下へと歩いていく。
幾らもがけど、幾らあえげど、いつまで経ってもその隣に立つ事はままならず、遂に俺は追いかけるのをやめてしまった。
既に彼女は光に溶けた。もう二度とその後ろ姿を見ることは無いのだろう。
しかし頭では諦めていても、どうしても身体は追いかけたがる。光は輝きを増し、もはや直視する事はままならない。それでもどうにか近づこうと手を伸ばすと――
――カーテンの隙間から光が差し込んでいた。
眩しかったので目を背け、探り探りスマホを手に取ると時刻は八時過ぎ。どこでもドアがあれば余裕で間に合うな。
ベッドから起き、制服に着替える。
スマホを見れば透華から先に行っておく旨のメッセージが届いていたので、とりあえず一安心した。どうやら久留美が対応してくれたらしい旨もある。
下に降りれば丁度久留美がローファーを履いていた。何故起こさなかったと問えば上に行くのが面倒だったとの答。
物ぐさなこいつに期待するだけ間違っていたと己を戒めつつ用意を整え家を飛び出した。
普段は透華に合わせて徒歩通学のため自転車に乗ることは無いが、こういう時のためにチャリ通許可証は予め手に入れている。
許可シールをマイチャリに貼り付け、ペダルを踏みこむ。
普段なら徒歩で五十分はかかるが、自転車で飛ばせば十数分で行けるだろう。
事故だけは起こさないよう注意を払いつつも、ふと今朝見ていた夢を思い出す。
見ていて決して楽しい夢じゃ無かった。なんなら意味不明だったがあの場所、紛れもない小学校の教室だな。今になってその時の夢を見るとはな。まったく、脳というやつは記憶の整理くらい主に気付かれずできないものかね……とか思ったが、そこまで求めるのは無粋だった。何せ俺の脳だしな。
失笑なのか疲れなのか分からない吐息が胸から漏れると、いつもは通らない道へと出る。裏門へ行くための道だが、正門前の道に比べて木は手入れされておらず、鬱蒼として幾らか暗い感じだ。
時間ギリギリと思われるため、生徒の姿がほとんどないまま駐輪所へと自転車をピットイン。時間を確認しなんとか間に合った事に安堵すると、後ろから忙しなく自転車で走ってくる奴がいた。
あいつ見た事あるな。確か同じクラスの
学年クラスごとに自転車を置く場所は決まっている。
俺はその場で待ち構え、堀田が入って来ると同時に笑みを作った。
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