第25話 巡らせる思考は疑念を浮かび上がらせる
一応俺の次に何人か二者面談を受けるはずだが、早く切り上げすぎたか廊下に順番を待っている人影は無かった。
次が誰なのかは知らないが、あわよくば交友関係の手を伸ばそうと考えていただけに残念だ。
さて、特に放課後はやる事が無い。いつもならまっすぐ帰っているところだが、なまじか学校に留まっているので、ついでに剣道部の様子なども見てもいいかもしれない。相川と周った時は時間足りなくて行ってないからな。
スリッパから下靴に履き替えるべく下駄箱へと向かおうとすると、行く先から話し声が聞こえてくる。誰かは分からないが、もしクラスメイトとかならお近づきになっておこう。
火中の栗を拾いに行くべく歩いていると、やがて声もよく聞こえ始める。
「二者面談ちょっと面倒だよねー」
「うーん、確かに帰るの遅くなるとおやつの時間も遅くなるからねぇ」
あいまいな感じだがどっかで聞いた事が……というかもう答え出たね。
「おやつってあんた……」
とぼけた事を言われ、呆れた様な声を発するのは水城真衣だろう。となれば例の如くおとぼけをかますのは言わずもがな目崎愛だな。
うーん、あいまいコンビねぇ……。ソシャゲで既に持ってるキャラを引いた気分だ。まぁ使えるキャラにするにはまだまだ限凸しないといけないので、ラッキーと言えばラッキーだが、いかんせん限凸のための素材が足りない。目崎はちょっぴりおバカな女の子☆なだけかなぁとは思うが、水城はどうにもS子に似た雰囲気を感じる。他者の性質を偏見で判断するのはあまりよくないが、自然とそう感じてしまうのだ。
とは言え、現状透華の近くにいる唯一のキャラなので、限凸は避けて通れない。趣味は悪いが会話を盗み聞きして
昇降口までは行かず手前で止まり、死角へと身を隠す。
「次、愛でその後あたしかー。あと三十分くらいは覚悟しといた方がいい感じ?」
二者面談はだいたいニ十分想定で組まれるが、俺は十分くらいで切り上げた。だとすれば正しい計算だな。
「真衣ちゃんまだマシだよ! 愛なんて真衣ちゃん待つから五十分だよ!」
話し声しか聞いて無いので分からないが、なんとなく笑みを強張らせた水城の姿が想像される。
「まぁ、先に帰りたかったら帰ってもいいけど?」
「ううん、愛は何があっても一時間くらいまでなら余裕で待つよ!」
なんとなく突き放した水城の言い方に、目崎は自信満々と言った感じで言い放つ。
なるほど、それ以上は待たないって事ですね。わかります。
「ありがと。でもなんでか素直に喜べなーい」
水城はそう言うが、よく考えてみれば、何があってもという事は待ち合わせに連絡もよこさず遅刻しても一時間待ってくれるって事だよな。めっちゃいいやつじゃん目崎。素直に喜べよ。
「ふふん、どういたしまして! 真衣ちゃんも遠慮せずに喜んでくれていいからね~」
そして目崎はこのおとぼけっぷりである。悪い奴じゃないけどここまで読解力に乏しいと敵も多く作りそうだなこの子。まぁ俺の知った事じゃないが。
「でも二者面談面倒かー。もうバックレちゃおっかなー」
突然とんでもない事を言いだす水城。
「あ、それいいね! 待つの疲れるもん」
目崎お前もか。俺も一方的に切り上げた手前あまり言えた口ではないが、せめて顔は出しておけよ……。流石に常識の範疇というものがね? 先生だってスケージュールあるだろうし。あいまいペア、永君的にマイナスニ十ポイント。
まぁ目崎は割と真面目に受け取ってそうだが、流石に水城は本気でそんな事思ってないだろう。もし思ってるとしたら相当……。
「じゃもう帰っちゃおうか」
「さんせーい!」
え、マジ?
俺がつい昇降口側へ踏み出しかけると、かつかつと板を踏み鳴らす音が聞こえる。
嘘だろおい……。まぁ別に先生のスケジュールが狂った所で俺には関係ないが、それよりもあいつらが透華と一緒にいる方が問題だ。
いわばこの行動は不真面目の極致。そんな奴らが真面目の極致である透華とうまく行くはずが無い。
そこで一つ疑問が頭をよぎる。
でもそれなら何故あいまいペアは透華に近づくのだろうか? 目崎は怪しいが、水城は透華と合わない事くらい分かっているだろう。
これまでの行動を元に、分析してみる。
目崎愛。おやつ好き。水城とは同じ中学。関係性は良好? 少なくとも本人はそう思っているだろう。コイバナに興味あり。空気の読めない言動、抜けてる、良くも悪くも正直。マイペース。行動予測は困難。
水城真衣。目崎と同じ中学。関係性は良好のようだが時々言動にトゲがある。どんな時に? ひっつかれた時、ピアスに気付かなかった時、一時間までしか待たないと暗に言われた時……。共通点は自分が優位に立てなかった時、だろうか。つまり水城は思考が自己に寄っている? 一方で透華相手なら言動にトゲは無い。でもはじき出した思考パターンを前提とするならそれは我慢しているという事になるのか。そして我慢する、という事はそこに何か目的があるからに他ならない。
我慢する相手は透華。透華の性質は潔癖、真面目、軽い天然、脆い、幼馴染、面の皮が厚い。いやそれは俺から見た透華だ。主観に寄り過ぎている。客観的に見て透華は……そうだ、相川曰く透華はかっこいい。意志を持っているように見えるんだったか。美人とも言っていた。とすれば透華はクールビューティーという言葉に当てはめる事が出来るか。もしあの自己紹介をもってしても、余りある魅力が透華から醸し出ているのだとすれば……。
少し、見えてきた気がする。だが決定打に欠ける。何かもう一押しあれば。
高速で思考を巡らせていると、目崎が口を開く。
「あ、これって透華ちゃんの靴じゃない?」
「あ、ほんとだ。まだいるんだあいつ」
あ? 透華が学校にいるだと? 一体何してんだ。いやそれよりも水城今何て言った? あいつ? しかもなんか声音が低かったな。
「何してるんだろうねー?」
「さぁ? 清掃活動でもしてるんじゃない? あの子、ビョーキらしいし」
病気? もしかして潔癖症の事言ってるのか? ある意味間違ってはいないが、言い方は気分の良いものじゃない。
「けっせきしょー、だっけ? 大変だねぇ」
いやそれ違う病気になるから。目崎はどうやらおつむだけではなく耳も良くないらしい。
「けっぺきしょう、ね。汚いの触れない感じの奴」
「そっちかあ!」
どっちだあ? まぁいい、目崎はともかく水城だ。さっき会話してた時に比べて声に攻撃性を忍ばせている気がする、
「でも思うんだけどさーあいつたぶん調子乗ってるよね」
そしてこの発言だ。あー、やっぱそうなるんですね。
「ノリノリなの?」
そうはならんだろう目崎。
「ノリノリじゃない。偉そうと言うかそんな感じ?」
「あーそういう事か! それは分かる!」
俺も分かる。分かるんだけど、どうにもな。
目崎にはもっと日本語が不自由でいてほしかったが、そうもいかなかったか。
手持無沙汰だったので、俺はポッケに手を突っ込み話を聞く態勢を強化する。
「上から目線で色々言って来るし、今日だってピアスくらいで目くじら立てちゃってさー」
「うんうん、ピアス可愛いのにね」
「顔がちょっといいからって自分の事女王様とか絶対思ってるよ」
「うー、確かに女王様っぽいし~思ってそ~……」
まぁ、そう感じるのは無理もない。はた目から見てても、ちょっとそれはどうなのとは思う場面はあったよ。
でもさ、だったらなんでお前らは透華に近づこうとする?
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