第21話 トップグルの意向は俺の意向ではない
今日の五限目はHRという事で、昼休みの騒がしい雰囲気を幾らか受け継いている気がする。
特に俺の周りなんかはあいつらが固まっているので昼休み同様の騒がしさを保っていた。俺も事あるごとに相槌を打たされたりおどけさせられたりする。
それでも先生が入ってくれば、流石のトップグルでもそこらへんの分別はあるらしい。会話はすっと潮が引くように落ち着いていった。腐っても県内でそれなりに評判の良い高校らしい。
「えっと、とりあえず先に今日二者面談に当たってる人はちゃんと覚えておいてくださいね」
先生に言われて思い出す。そう言えば今日は俺も二者面談入ってたんだった。正直面倒くささしかないが、確認しておきたい事も無い事は無いのですっぽかすわけにはいかない。
「それで今日のHRですが、そろそろ委員会を決めないといけないのでー、ね? とりあえず書いていくので適当に考えちゃっててください。周りの人と相談してくれてもいいですし」
言うと、先生は黒板に委員会の名前を書き始める。
クラスの連中も先生じきじきに相談と言う名のおしゃべりの許可が出たからか、ぽつぽつ周りから話し声が聞こえ始める。
そういや委員会とかあるんだよな。使いようによっちゃ自らの地位を上げられる可能性もあるが、正直割と今のままでもうまく行っちゃってる感あるからな。
ただ一年後にはクラス替えがある事を考慮すれば、他クラスと関わる事のできる委員会には入っておいた方がいいかもしれない。今年は選択科目とか示し合わせたりで透華と同じクラスになるようにはしたものの、二年以降はそうも言ってられないだろうしな。
まぁ俺が委員会に入ったところでその問題が根本的に解決されるわけじゃないが、他人の友達と友達の友達では認識の差は大きい。
「永人君はなんかやるの?」
考え事をしていると、前から相川が話しかけてきた。見てみれば、宮内の目もこちらに向いている。二人で会話してた中で俺に話が飛んできたってところか。いちいち巻き込むなよなー!
「あー。まぁなんか入ってみたい感はあるかも?」
心中で悪態を吐きつつ言うと、宮内は腕を組み頬に手を当てる。
「守屋でしょー? 庶務会計とか似合ってるくない?」
何そのイメージ。
どう返すか困っていると、万治が横から話に割り込んでくる。
「いやいや、もぉりぃやが庶務会計とかやばくね? 借金地獄じゃね?」
いやいや、そのイメージもなんなのよ。てか庶務会計をどんな委員会と思ってるんですかね万治は。
「えー、別に庶務会計とか雑用係でしょ? なんでも押し付けれそうじゃない?」
「あーね、そっち系? そっち系ならワンチャンあんじゃね?」
いやどっち系だよとツッコみたくなるが、それはこいつらには不毛そうなのでやめておく。
「君らちょっとひどくない? 俺どんだけこき使われるの?」
とりあえず口を挟んでみると、宮川はニコッと笑う。
「二十四時間?」
「ブラック企業だな!」
なんならブラック企業の方がマシなレベルだわ。
「頑張って働けよもぉりぃや」
「頑張ってね永人君」
「いや働かねーよ⁉」
万治と相川が口々に言う。お前ら人間じゃねぇ!
……なんて、全部茶番劇だ。テンション上げるのしんど。
「守屋だろー?」
心中ではげんなりしつつも外面ではテンアゲを心がけていると、三星も話に加わって来る。
「文化祭実行委員とかよくねー?」
「いやいや、翔君本気で言ってる?」
「まじそれ、もぉりぃやだぞ」
三星の言葉に宮内と万治が困惑した様子を見せる。
「そうかー? 俺はいいと思うけどなー」
そう言いつつ三星はこちらを見てくるが、一体どういうつもりだ? 文化祭実行委員とかクラスの花形みたいな役職に俺が適任とは。俺が推定トップグループの一員という点だけを加味すれば分からなくも無いが、お前らの見る俺のキャラ像みたいなのとはあってないんじゃないのか?
「私も三星君の言う事わかるかも!」
果てには相川までもがそんな事を言い始めた。この子についてはまぁ単に三星が言ったからそう言ってるだけかもしれないが、いずれにせよ二人もそう言ってしまえば考えも揺れて来るらしい。宮内は少し考える素振りを見せつつも口を開く。
「うーん、まぁ確かにそこらへんの男子とかよりはまだマシ?」
「あー、もぉりぃやねぇ? まーなしよりのあり?」
流石三星というべきか、二人とも俺への評価を改めてくる。いかんな、このままじゃ俺が貰いっぱなしだ。さっさと返さないと。
「でもそれなら万治とか三星とかの方がやった方がよくね? 盛り上げとかうまそうだし」
とりあえずこれでどうだと言ってみるが、存外二人の反応は前向きなものじゃ無かった。
「俺はパスだなー。めんどくさそうだし」
「俺も文化祭実行委員はなんか違うわ」
今ここにトップグルとそうじゃない奴の認識の相違があった気がする。てっきりトップグルの奴らはそういうのを好んでやるもんだと思っていたが、案外そうでもないらしい。
まぁたぶん文化祭とかだったら楽しさだけを享受したいとかそういう感じなんだろう。委員とかになると面倒ごとも確かに増えるだろうからな。
てかそれなら三星が俺を推してきたのも納得出来るな。要するにこいつ面倒な仕事押し付けようとしてきただけじゃねーか。性格いい型リア充って思ってたけど認識改める案件だぞこれ。
結局人間なんてこんなものなのよ! と厭世的になっていると、宮内が口を開く。
「でも文化祭実行委員でしょー? それなら沙奈とかもあってそうだよね」
うわ、早速女王様も面倒ごと押し付け始めたぞ。
「え、私⁉」
「うんうん、沙奈が実行委員とかなら超楽しそうじゃない?」
「あーそれはわかるわー」
女王の言葉に万治も追従する。
「えー……そこまで言われると照れますなぁ」
相川はデレデレと後頭部に手を回す。まぁ俺も元来の認識では、相川みたいな子が文化祭実行委員に行きそうとは思っていた。正直文化祭なんぞ誰がやろうと変わらないだろうが、宮内に対して反逆の意志がないことを示すために乗っておこう。
「俺もいいと思うよ。相川がやったらすげー盛り上がりそう」
断言は避けるが。
「えぇ~永人君にまで言われちゃうかぁ」
心にも無い言葉だったが、相川は真に受けたらしい。にへらーと頬を緩めると、より一層デレデレし始める。
「でしょ? 絶対いいって。沙奈文化祭実行委員やりな?」
「うーん文化祭実行委員かー……」
おだてられて気は良くしたらしいが、あまり乗り気と言うわけでもなさそうだ。でもこの子の事だ、どうせすぐ折れる。
しかし相川が承諾するよりも先に三星が口を挟んだ。
「じゃあさ、守屋と沙奈ちゃんでやったらいいんじゃねー? 文実」
は? とだいぶ低い音が漏れそうだったがなんとか堪える。いやまぁ話の流れ的には自然かもしれないが、こいつ本気でやらせようとしてるのか俺に。あと急に略すなよ。普通に文化祭実行委員でいいだろ。
「あ、それなら全然いいかも!」
三星の言葉に、先ほどとは打って変わって前向きになる相川。意志薄弱もほどほどにしろよ!
「それじゃあそろそろ決めたいこうかなー?」
ここでようやく黒板に委員会を書き終わったらしい。先生は身を翻し生徒側に向き直る。その視線はどうやらこちらの一帯に向いているように見えるが、まぁあんだけ騒いでたら会話内容教室中に丸聞こえだわな。
流石トップグル。クラスの目なんて憚る必要もないらしい。だが恐らく、それ以上に先ほどのやり取りは意味を持つだろう。
「それじゃあ。さっきそこらへんでお話が聞こえてた文化祭実行委員から決めちゃいましょうかね?」
案の定話を聞いていたらしい。ニコニコしながら先生が言う。
「それではまず男子の方から行きましょう。やりたい人ー?」
先生の呼びかけに教室内は沈黙する。やっぱりそうなるか。
先ほどの俺達の会話はクラス全員が聞いている。話題は誰が文化祭実行委員会をやるのかについてだ。その中で特定の人物が推薦された場合、それは半強制的にクラス全体の意向となる。トップグループの発言力と言うやつだな。
そして今回、男子枠で推薦されたのは俺。ここで俺が手を上げれば一も二も無く決まるだろうが、正直悩ましい。
何せ推薦してきたのはただの贈り物かも知れないからな。言い換えれば建前。真に受けて手を挙げて「え、マジでやんの?」となる可能性もある。その事を考慮すれば……。
「守屋がやるってさー」
考慮すれば三星がそんな事を堂々と言い放ってきやがった。
くそっ、やらない言い訳考えても無駄か。そう言う事ならもうやるしかない。
「え、いっちゃう? マジでいっちゃう?」
言っちゃうと行っちゃうをかけた華麗なダブルミーニングを駆使し、とにかく明るい返事をする。安心してください、内心悪態吐いてますよ。
「行け行けー」
「よっ、文化祭実行委員もぉりぃやっ」
三星に続き万治も囃し立ててくる。それに乗じて俺も手を挙げる。
「じゃあハーイ、いきまーっす!」
若干声が低くなったのは、おふざけをいれたわけではなく真面目に嘆いていたからだ。心底めんどくせぇ。
「じゃあ守屋君決定~みんな拍手!」
先生の掛け声に呼応して拍手喝采を浴びる。ここまで嬉しくない拍手なんてかつてあっただろうか。割とあったわ。
「それじゃあ次は女子行ってみましょうか」
これはもう相川になるのは決定だろう。もしこの空気で立候補する奴がいれば、そいつは馬か鹿の生まれ変わりだ。
「やりたい人ー?」
「はい!」
「はーい!」
とりあえず委員になってしまったからには、どう有効利用していくか考えて行かないとな。相手は相川だし……ん? 待て? 今なんか二人の声が聞こえなかった?
「おっと、相川さんと目崎さんで競合してしまいましたね……」
先生が言うので見てみれば、そこには手のひらと頭の中をパーにした女の子がいた。
お前だったかツインテ。期待を裏切らないのはお胸だけにすればいいと思うな!
「ここはじゃんけん、ですね」
先生が言うと、相川と目崎の戦いの火ぶたが切って落とされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます