第16話 それでも不安は付きまとう

 次の言葉を待っていると、やがてショートヘアが口を開く。


「別に変な意味とかじゃないんだけどさ? 守屋君って清水さんと喋ってる時雰囲気違うよねって」


 特に後ろめたい様子は見受けられない、か。


「え、マジで?」

「うん、なんていうの? アウンのコキューって言うか」

「夫婦みたい?」


 ツインテがそんな言葉を差し込むと、ショートが「それかも!」と返す。いや夫婦ってこいつらの頭お花畑かも! とは言え、全否定してしまうと相手のプライドに泥を塗る恐れがある。ここは相手の意見を尊重しつつ否定させてもらおう。


「あーやっぱそんな感じで見えるかー。まぁ確かに幼馴染だし気心は知れてるけど全然そんなんじゃないよ?」 

「ちょっと、何を言っているの? 私と永人は」

「ただの幼馴染だよなぁ?」


 余計な事を言いかける幼馴染と女子二人の間に割り込むが、ショートヘアは耳に自信があるようだ。


「え、それってもしかして……」


 口元を自らの手で覆うショート。どうやら気分が悪いらしい。


「うそ、はやくない⁉」


 貰いゲ〇でもしそうなのか、ツインテまで口元を手で覆う。おい勘弁してくれ。今年はまだ予防接種してないんだぞ。


「いやいや、ほんと付き合ってないって」

「うっそだ~」


 否定するも、ツインテが疑いの目を向けてくる。

 チッ、鬱陶しい。俺が嘘つきだってのか?


「ほんと頼むって。そういう事言うと俺が怒られちゃうから!」


 嘘である。透華はたぶんそういう事言われても怒らない。


「ちょっと永人、それは少し心外なのだけれど」

「ほらな?」


 透華が余計な口を挟んでくるので、逆手にとって解釈の誘導を試みる。しかし二人組は若干違和感を覚えているらしく表情はどこか浮かない。

 

 はぁ、ならもう仕方ない。郷に入っては郷に従え。お相手好みの答えを提供してやろう。


「ここだけの話、今はそういう段階じゃ無いって言うかさ」


 今度は後ろの透華に聞こえないよう声を潜めると、二人も俺の言わんとしている事が理解できたらしい。


「え、ってことは?」


 二人組は好奇心露わにお互いの顔を見て何やらこそこそ話しだす。案の定食いついたか。流石お花畑でくるくるパーしてるお嬢様方だ。


 恐らくこいつらは今「俺が透華に一方通行の恋心を抱いている」と考えているに違いない。さっきの反応から類推するに、この子らも他のJKの例にもれずコイバナとか言う類の話が好きらしいからな。


 人は自分の都合のいいように物事を解釈したがる。絶賛片思い中の幼馴染なんて格好の標的であろうこいつらにとって、付き合っているという可能性はもはや邪魔でしかない。


 とは言え、あまり深堀りされてもこちらがボロを出してしまうかもしれない。話はここらへんで切り上げるべきだろう。それに、話は中途半端に切っておいた方が興味を引けるし、次に会った時話をするきっかけにもなり得る。透華の友達候補ならある程度交流は持ってみるのもいい。


「さて、立ち話もなんだし俺はそろそろ行こうかな」


 まぁちょっと場所変えるだけで結局相川待つんだけど。


「え~、まだ色々聞きた~い」


 ツインテは名残惜しそうにするが、ショートの方はそうでもないらしい。


「まぁでも、確かにずっと立ってるのもねー。また今度聞けばいいんじゃない?」

「え~でもでも」


 お菓子買ってとせがむ子供のように駄々をこねるツインテ。どうやら成長してるのはお胸だけらしい。てか今気づいたけどこの子まぁまぁの持ってたんだな。背負ったら重そう。


 まぁそれはさておきさっさと退散しないとな。あんまりダラダラその場にいては、中途半端で話を切る効果が薄れる。


「それじゃ、また教室で話す事があったら」


 行こうとすると、透華に呼び止められた。


「ちょっと待って永人。まだ聞いていないことがあるわ」

「あ、やっぱり透華ちゃんも聞きたいよね⁉」


 別に自分に向けられた言葉でもないのにツインテが返事する。うわ、こいつ何言ってくれちゃってんの……。


「ちょっ愛!」


 ショートがたしなめる様に言うと、ツインテが「あっ」と口に手を当てる。このツインテは真面目にくるくるぱーらしい。どう考えてもお前の気になってる話は本来透華に伝えちゃ駄目な話だろうが。


「目崎さん、あなたは何を言っているの?」

「あ、いや……えと、なんでもない。よー?」


 あからさまにしどろもどろで目が泳いでいる。

 ごまかすの下手くそかよツインテもとい目崎愛……。ショートの方もやれやれとため息を吐いている。


「まぁいいわ。今は私と永人が話をしているの。口を挟まないでもらえる?」

「えー! なんでそんな事言うのぉ」

「わざわざ言わなきゃわからない?」


 いすくめるような透華の眼差しに、流石のおとぼけ気味の目崎も尻ごみした……


「うえーん、真衣ちゃん、透華ちゃんが意地悪言うよ~」


 ……感じは無かった。そこまでくるくるぱーっぽいのは逆に凄い。


「ちょ、愛、ひっつかないで」


 ショートもそこについては辟易しているらしい。ショートが鬱陶しそうに目崎をはがしにかかる。


 まぁそんなことよりも透華だ。流石にさっきの言い方は敵意が強すぎる。もしかしたら友達作る気になったのかとか淡い期待も抱いていたが、やはりその線はないらしい。


 現に、押し合いへし合いするこの二人を見る透華の目は遠く、あるいは品定めするような目で、どことなく軽蔑の色を滲ませているように見えた。


「ごめんね清水さん、愛って中学の時もこんな感じでさ……」


 ショートが目崎をはがしつつ言う。

 ふーん、こいつら同中だったのかと無味乾燥な乾パン食べてる気分になっていると、透華もやはりどうでもいいという風に言葉を返す。


「そう。なら水城さんは目崎さんとは違うことを期待しているわ」

「あーうん……。あたしはそこらへん大丈夫だよ」


 あははとショートヘアが笑みで返す。こんな横柄とも言える態度とられてるのによく我慢できるな。ショートもとい水城真衣という子、よほど人格のできた人間らしい。

 まぁあまり印象は良く無いので本当かどうか微妙だが、偏見はよくないよな。

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