第14話 距離感は適切に
少し活動の様子を見させてもらうと、適当なタイミングで出入りしてもいいという事で時を見て道場を後にさせてもらった。
時間を見てみれば五時にも回っていない。まだ見てまわる時間はあるな。恨めしや時計。
「それじゃあ次はどうする?」
帰る? 帰宅する? 下校する?
「えっと、どこでもいい……かなぁ」
一応聞いてみたものの案の定そう言われた。こりゃまた選択肢用意してみても同じだろうな。
ワンチャン帰れるぞこれ。
「それじゃカエルー……と適当に歩こうか」
「え、カエル?」
「いやさっきそこにカエルがいたんだ」
「え、ほんと? こんなところに珍しいね!」
あまりに帰りたくてつい希望を口にしそうになったのを無理矢理ごまかしたのに、なんか信じてくれた。
「弓道部なかなか楽しそうだったなー」
気を取り直し歩き始めると、会話の種にさっき出来たばかりの共通の話題を振ってみる。
「分かる! けっこうみんな仲よさそうだったし」
「だよなー、あとあの先輩もすごい綺麗だったし?」
「確かに綺麗だったよね!」
「え、ああ……」
ちょっと遊びを入れてみたつもりだったんだが普通に返されてしまった。なんかラリーしようと思ったらカットで返された気分。
「あと気さくで優しかった! あんな先輩憧れるよ~」
相川が目をキラッキラさせる。俺はあんなチョロい先輩にはなりたくない。
「……だよなぁ! 超わかるそれ! 弓とかも触らせてくれたし」
「うんうん!」
さて、とりあえず話の枕はこれくらいでいいか。ちょっとずつ気になった事をつついてみるとしよう。
「でも相川ほんとに弓触らなくてよかったのか? そういうの好きそうなのに」
「あー、うん。なんかほら、気負いしちゃって」
相川が困ったようにほほ笑むと、ぽりぽり頬を掻く。
この子にもそんな感情あったのか。
「へぇ、相川でもそういうの気にするんだな?」
からかい混じりに言ってみたが、帰って来た返事は少し予想と違った。
「うーん、どうなんだろね……」
横で歩く相川は地面の方へと視線を落とす。
あ、やべ。距離感ミスったかもしれん。トップグルなんて馴れ馴れしく友達面すればいいだろうとか思っていたが案外そうでもなかったか……。「ちょっとそれってどういうイミ⁉」とか言ってくれれば楽だったのに。まぁそんな簡単には行かないって事か。
どう軌道修正しようかと考えていると、別の方から声が届く。
「ねぇそこのポニテちゃんいいプロポーションしてんねー!」
急になんやねん。
声の方に目を向けてみれば、そこには二人組のチア女子がポンポンを持って立っていた。
「どう? チア部とか興味ない?」
「え、私?」
この場にポニテは相川しかいない。相川もそれに気付いたらしく、二人組の方へと目をやる。
「そそ。丁度今からそこで練習するんだけどさー、ちょっとやってかない?」
そこ、とは昇降口隔てた中庭だろう。見てみれば案の定チア女子の群れがいる。
しかしキャッチセールスとは、俺もいるのによく声かけて来たな。我らが女王宮内っぽい奴らばっかなのかねこの部活は。
「あ、えっと……どうしようかな」
相川は宮内の群れを一瞥すると、今度はこちらを見てくる。どうやら気でも遣ってくれているらしい。
「じゃあ俺そこで待っとくよ」
行ってきても良いぞというのもなんとなく偉そうな気がしたので、行動だけ示してこちらの意思を伝えてみる。さっきは距離感間違えたっぽいからな。慎重にだ。
「えっと、じゃあお願いします!」
相川も俺の意図をくみ取ったか、元気よく二人組ヤウチたちに言う。
「お、そうこなくっちゃねー。でも君はこないの?」
「え、俺っすか」
てっきりこのまま空気として扱われるのかと思ったが、この人たちもそこまで宮内じゃないらしい。いや宮内でも流石に人を空気扱いはしないと思うが。
「そそ、最近チア男もきてるし? 男子部員いないけどね」
わざわざ最後の一言付け加えるあたり来るなと言われた気しかしない……。やっぱこの人たち宮内じゃねーか!
ご希望に沿って遠慮させていただくと、ミヤウチア部との先輩方は「えーこないのー?」とか心無い言葉を言いつつも相川を連れて中庭へと歩いていった。
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