第12話 先行きはどうにも霞がかる

 ついに来てしまった放課後。相川と共に部活動見学の時間だ。

 二人で見学と言う事で当然万治たちには突っ込まれはしたが、あちらもそういうのじゃないとは分かっているので、ほどほどに茶化したら「守屋だもんねー」とか言って締めくくられた。


 どうやら俺はいじられキャラとして定められつつあるらしい。席替えの一件が尾を引いてるな。


 まぁそれはいい。それよりも今だ。茶化された通り、よく考えたらこれ二人きりって事だもんな……。なんか今になって不安になって来た。中学の時も透華以外の女子とはまったく話さなかったわけでもないが、それでも圧倒的男子より機会は少ない。ましてや一対一なんてほとんどなかったからな。果たして上手くやれるかどうか。


「よしじゃあ永人君、そろそろ行く?」


 教室に残った相川がスクールバックを肩にかけ俺のところへやって来る。


「おう、でもちょっと待ってもらっていい?」


 見学に行く行かない別として、透華とは一応登下校は共にする事になっていた。今日は一緒に帰れない事は言っておく必要があるだろう。


 透華の席へと身体を向けると、既に近くまで本人が来ていた。声をかけようとすると、先にあちらの方が先に口を開く。


「ごめんなさい永人」

「ん?」


 突然謝られた。


「ちょっと今日は野暮用が出来てしまって、一緒に帰れないの」

「え、ああ、そうなのか」


 透華が野暮用とはどこか寄る所でもあるのだろうか。て言っても潔癖だしあんまり外の施設に行きたがらないはずなんだが。


「そういうわけだから」


 透華は一言残すと、一瞬相川の方を一瞥したように見えたがさっさと身を翻す。


「じゃあまたな透華」

「ええ。また」


 とりあえず挨拶だけしておくが、透華は背を向けたまま教室を後にし姿が見えなくなった。


「えっと、大丈夫だった永人君?」


 なんとなく腑に落ちないでいると、何か気配でも感じ取ったのか、相川が控えめに尋ねてきた。何を大丈夫か聞いてるのか明らかでは無いが、もしかして透華と帰る予定だった? という意味と捉えていいだろう。


「全然大丈夫。あいつも今日野暮用だったみたいだしむしろ丁度良かった」

「それならいいんだけど……」


 何か言いたげだが、相川は「ま、いっか!」と自己完結する。


「それじゃあ永人君、どこから見る? 私はどこでもいいんだけど」


 相川が部活動一覧のプリントをこちらに見せてくる。

 正直透華の事は少し気になるが、それよりも今はこっちだな。うまく立ち回らないと。


「そうだな……」


 どこから見るか、ね。正直俺も何でもいいが、そう言ってしまえば不服を買うのは目に見えている。かといって独断で適当に決めてもし意にそぐわない所だったとしても顰蹙ひんしゅくを買うだろう。こういう時は幾つかこちらが抜粋してその中から改めて相手に選ばせるのがいい。


 これなら対話に前向きの姿勢を示せるし、こちらが意見を乞う事で相手の立場を尊重していると思わせる事ができる。


 部活はだいたい全部で四十くらい。正直、最適解を導くには情報量が足りないがまぁとりあえず相川の印象で五つくらいに絞るとしよう。


「じゃあとりあえず家庭部、写真部、弓道部、演劇部、バド部くらいがいい気がするけどどうだ?」


 家庭部と写真部はこの教室から近場で相川に合いそうな部活。弓道部は武道だが意外と男女問わず幅広い層に人気だと事前に聞いていた。演劇部は丁度今日が体育館舞台での活動日であり、バド部はついでで同じ体育館でも相川ができそうだから選んだ。


 さて相川の様子はどうかなと見てみると、うーん、と自らの頬に人差し指をあてぷにぷにしていた。


 考えているのだろうと気長に返事を待つことにするが、存外相川はすぐ口を開いた。


「なんでもいいかな?」


 なんでもいいのね……。

 これはあれだな、全部いい感じだし選べな~いって事だよな! うんそうに違いない。そうでも思わないと今すぐ教室の窓から飛び降りたい。


 まぁとにかく、流石にここから絞って選択肢を提示してもむしろ逆効果だろう。ここは俺が決めるしかない。あの選択肢なら弓道部が無難か。男女問わず人気らしいし、的当てる競技だだしはずれないだろう。知らんけど。


「……じゃあとりあえず、弓道部とか行く?」

「うん、そうしようそうしよう!」


 相川は声高らかに言うと、ポニテをふわりと弾ませた。

 先んじて歩き始める相川の姿はどことなく楽しそうな雰囲気を纏っている。


 あれー……やっぱり意外と選択肢は正しかったのか? 捉えどころのない奴だ。

まぁでも正しかったならそれはそれで飛び降りなくて済む。まぁ飛び降りてもここ一階なんだけど。

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