二 キャラ濃すぎる人々

「――お待たせいたしました。それではご紹介させていただきます」


 僕が通されたのはこれまただだっ広く、控えめながらも所々凝った装飾の施された豪勢なお座敷であった。


 そこでしばらく正座して待っていると、美熟女に連れられて横溝家の人々が入って来る。


 双子だろうか? 正面の上座には見分けがつかぬほど瓜二つの腰の曲がった老婆が二人、ちょこんと正座して座る。


 その右手には美熟女、そして、左手にはなぜか真っ白い不気味なゴム製のマスクをかぶった若い白シャツの男性と、赤い振袖にパッツン黒髪の日本人形のような超絶美少女が着座する。


 もう、ツッコミどころ満載でどこから触れていいのかわからない。


「こちら、主人・要蔵の双子の叔母で小竹さんと小梅さん。申し遅れましたが、わたくしは要蔵の妻で松子と申します」


 皆が腰をお落ち着かせると、美熟女――どうやら奥様だったらしい松子さんは早々に家族の紹介を始めた。


「ど、どうも。今度、となりに引っ越して来た金田の息子の金田一孝です。よろしくお願いします」


「ほお、そうかい。そうかい」


「それはご丁寧なことで」


 慌てて僕も挨拶をすると、双子の老婆は身じろぎもせず、まるでロボットかカラクリ人形のように口だけを動かして順々に言葉を返す。


「それから、先程お会いしたと思いますが、こちらが息子の佐清です」


 続いて松子奥様は、どこか艶めかしさを感じる眼差しで白いマスクの男を示してそう告げる。


 ああ! さっき池で「V」の字になってた人か! で、でも、どうしてこんなマスクを……気になるけど、訊くに訊けない……。


「スケキヨデス。コンナモノ、カブッタママデ、スミマセン。チチオヤニ、チョット、カオヲボコボコニサレタノデ……」


 だが、疑問に満ちた僕の眼差しに気づいたのか、白マスクをかぶった佐清さんは聞き取り難いしわがれた声で自らその格好のことを釈明した。


 いや、顔をボコボコにされるて……さっきの池で逆さまになっていたのといい、いったい父親との間に何があるっていうんだ。


「最後に、こちらは娘の智子です。あなたと同じくらいのお歳かしら」


 いろいろと想像を巡らしながら白マスクを見つめていると、松子奥様は残る黒髪の美少女を紹介する。


「智子です。おとなり同士、仲良くいたしましょう?」


「は、はい。こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします!」


 涼やかな瞳でこちらを見つめ、ころころと鈴の鳴るような声で語りかける超絶美少女に、僕は不覚にもしどろもどになりながら言葉を返した。


 美形な上に慎ましやかで気品に満ち、まさに〝良家のお嬢様〟といった感じだ。最初は嫌々だったが、こんな美少女に出会えただけでも挨拶に来た甲斐がある……。


 と、そこでふと、自分がここへ来た目的を思い出した僕は、そういえば肝心の当主である要蔵さんがいないことに今更ながら気づいた。


 挨拶に来たというのに、やはり家主に会わないのではなんだかとても中途半端だ。もちろん、仕事でいないことも考えられるが、今日は日曜なのでその可能性も低いと思うのだが……佐清さんのこともあるし、もしかして、何か深い事情が……。


「あ、あの、ご主人さまは……」


 あまり触れてはいけないような気もしたが、それでも僕はおそるおそるそのことを尋ねてみた。


「要蔵は気の病(※精神病)での。暴れるんで座敷牢へ閉じ込めてある」


「知らんもん見ると興奮するで、挨拶は許してくだされ」


 すると、訊きづらかったその質問に、双子の老婆はとんでもない衝撃的な事実をさらっと躊躇いもなく答えてくれる。


「ざ、座敷牢…!?」


「おおそうじゃ、せっかくおこしくださったんじゃから、我が家自慢の庭を見てもらうとええ」


「今はちょうど濃茶の作った菊人形もあることじゃしの。松子さん、案内してさしあげんしゃい」


 思わず聞き返す僕であるが、老婆達はまるで大したことでもないかのように、思い出した様子で庭の観覧を僕に勧める。


「ああ、そうですわね! お客様にはぜひあの菊人形を見ていただかないと。金田さん、どうぞ見ていらして」


「は、はあ……」


 その言に松子奥様も夫のことはそっちのけで良いアイデアだと声を弾ませ、またも僕は促されるままに、今度はあの廊下から見えた庭園の方へと足を向けた――。

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