いずれ消えてなくなるなら(シエルちゃん/コク)
『出会いがあれば別れもある』なんて月並みな言葉だけど。
それを事実として受け止められるほど、私は大人になりきれてなくて。
パパは幼い頃、ある日突然帰ってこなくなった。その少しあと、ママも亡くなったわ。
大好きな従者も、急に私の前から姿を消して。
信じてた友達さえ、気がつけば会えなくなっていた。
つらくて、くるしくて。
別れはいつか必ず訪れるものだと頭ではわかっていても、心は現実を拒んだ。
そしてその苦しみを誰かに打ち明けられるほど素直にもなれなかった。
弱音なんて吐いて大好きなひとたちに気を遣わせちゃうなんて、苦しいのよりももっと嫌なんだもん。
私の従者としてお義父さまが天使をつくってくださったときは正直ちょっと困った。
きっとまたいずれ私の前から突然いなくなる。
それなら初めから、程々の距離感でお付き合いしてたほうがいいでしょう?
だから、真っ黒で大きくて、星の見えない夜空よりも闇色な翼を持ったその天使に私は言ったわ。
「いずれ消えてなくなるなら、最初から貴方なんて要らないわ」
すると彼は、ただでさえ険しい顔付きだと言うのにさらに眉間に皺を寄せた。
「一体何を悲観的になっているのです? そんなことを言われる心当たりがありませんが」
「悲観的に感じさせちゃったかしら? ごめんなさいね、特に深い意味はないの」
「深い意味がないのでしたら、拒絶されるいわれもありません」
「とにかく貴方は私に必要ないの。──私ほどかわいくて完璧な女の子なら、一人でなんだってできちゃうんだから!」
ふふーん♪ってドヤッてみるけど、彼のお顔は険しいまま。
「我が主から仰せつかっているのはブランネージュ様のお世話係。拒否は聞き入れません」
「じゃあ私からお義父さまに、別の仕事を与えてもらえるよう直談判してあげるわ!」
「嫌です」
「嫌って何」
「……命令だけではなく、俺個人の意見としても貴女様にお仕えさせていただきたいからです」
「貴方個人の? 詳しく聞かせてもらえる?」
「え!? いや、それはその……」
彼の険しい顔が初めて崩れた。
なんだかそれが可笑しくって笑っちゃう。
「……ひとの顔を見て笑うなど、礼儀減点ですよ」
「ふふ、ごめんなさい。貴方ってちょっと怖いひとだと思ってたから可笑しくって。もう、そんなに睨まないで?」
「もともとこんな顔付きですが? 全く失礼な……」
さっきまでの不機嫌な顔に戻る。
私は目の前に跪く彼に目線を合わせて頬を両手で包み込むようにした。
「っうぇ!?ブ、ブランネージュお嬢様!?」
「──貴方は、私の前からいなくならない?」
「っ! もちろん、そのつもりで」
「『つもり』じゃ駄目。約束なさい! もし貴方が、一生私の傍にいてくれるなら……私も貴方を傍においてあげるわ」
「いいいい、一生!? 一生傍に、とは、つまりあのその……!」
「どうなの? ハッキリして!」
「は、はいっ!! 一生お傍におりますっっっ!!」
彼は力強く私の手を握る。それは痛いくらいに。
そして痛いくらいの熱い視線を私に向けてくれた。
──きっとこの出会いにも、いずれ終わりが来てしまうけど。
それでも。
それでも、もう少しだけ現実から目を背けたくなった。
「そういえば、貴方の名前は?」
「コクと申します、ブランネージュお嬢様」
「コクね。私のことはシエルと呼びなさい、いいわね?ふふふ、じゃあ改めてよろしくね、コク♪」
「は、はい、その……末永く、宜しくお願い申し上げます……!」
相変わらずの熱視線。
……コクと不思議な温度差を感じる気がするけど……うん、きっと気のせいね!
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