来世で、また会おう。(リリー/リコリス)

◇憐れなの双子のお話◇

※残酷描写



 あるところに、エカテ村という大変貧しい村があった。

 これは、エカテ村に生まれたリリーとリコリスという憐れな双子の物語。



 §



 リリーは『神に祝福を受けた少女』と呼ばれていた。

 彼女は生まれながらにして『超回復』と呼ばれる、どんな致命傷もすぐ治る特異体質を持っていたためである。


 エカテ村は、その日の食料にも困るほど貧しい村。

 村人は彼女の特異体質を利用した。




 ────食人。




 どれだけ血肉を貪ろうとも、彼女は死なずに再生し続けた。

 体の小さな彼女は、村人全員分の食をまかなうため、四六時中全身の肉を削がれた。

 もちろん麻酔などはない。


 慣れることのない痛み。

 どれだけ泣き叫ぼうと終わりなんて来なくて。


 それでも彼女の心が壊れずにいられたのは、双子の片割れである、リコリスのおかげだった。



 リコリスは特異体質など持たない平凡な少年だったが、彼だけはいつもリリーの味方だった。


 同じ顔をした双子なのにどうして私だけ、と思うこともあったが、村で唯一『肉』ではなく『人間』として接してくれるリコリスに、リリーはいつも救われていた。




 ある日、リコリスは言った。

 逃げてくれ、と。


「え……?」

「この村から逃げて、リリー。ぼくはもうきみが傷つくのを見たくない」

「そんな、無理だよ。すぐに連れ戻されちゃう」


 リコリスは覚悟を孕んだ赤い瞳で、双子の片割れをまっすぐに見つめた。


「ぼくが囮になる」


 リリーは一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかった。


「それって……」

「今日の『肉』は僕がやる。大丈夫、僕達は双子だ。入れ替わっても誰も気づかないさ」


「でもそれじゃあリコリスが……! あなたは超回復のない普通の人間なのよ!? 肉にされたら死んでしまうわ……」

「いいんだ」


 取り乱すリリーをリコリスはそっと抱きしめる。


「言っただろ。これ以上きみが傷つくのは見たくない」

「でもっ」

「……ぼくが、もう耐えられないんだ。ぼくのためにも逃げてくれ。……そしてどこか遠くでぼくの分も幸せになってほしい」


 そういった声も、体も震えていて。

 顔を見なくてもリコリスが泣いているのがわかった。


「リコリス……」

「リリー、リリー……! 大好きだ、この世の誰よりも。何度きみと代わってあげられたらって思ったことか。でも、怖くて、結局いつも何もできなくて……今までずっと助けてあげられなくて、ごめん」

「いいの、いいのよ……、あなたがいてくれたおかげで、あなたがいてくれるだけで、私がどれだけ救われていたことか……」


 抱擁を解き、お互いの顔を見つめ合う。

 リコリスの顔は涙でぐしゃぐしゃだったが、その目は愛情と覚悟が宿っていた。


 ふたりは口づけを交わすと、別れの言葉を紡いだ。


「愛してる。今までも、これからも、幾久しく。リリー、きみと共に生まれて、家族になれてよかった」

「愛してるわ、リコリス。私のたった一人の愛しい家族。愛しい片割れ。できることならずっと一緒にいたいけれど」

「ぼくもだよ。でも、それは叶わない」

「そう、よね……リコリスのこと、一生忘れないわ。約束する」

「ありがとう、ぼくはもうそれだけで十分幸せだ。さぁ、もう行って」


 リコリスはリリーを出口にうながす。







 そして2人は最後の言葉を交わした。






「来世で、また会おう」

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