違和感(時計草/山吹)

◇危険思想を持った『家族』が作り変えられるお話◇




 何でもない日常なのに、ある夜目覚めると違和感を感じることがある。

 そんな夜は必ず、この部屋に訪問者がやってくる。


「おはよう、山吹。気分はどうだ? 体調は?」

「とっきーおはよ。起こしに来てくれるなんて珍しいね」

「体調は、」

「あー、うん、元気!」

「……そうか、よかった」


 時計草お兄さん。『とっきー』っていつも呼んでる。


 とっきーはいつも口うるさくて、無表情だしすぐ怒る。……まぁ僕を思ってのことだってわかってるんだけど。


 でも、今日みたいな日はすごく優しくなる。

 今だって、嬉しいような、悲しいような顔して僕の頭を撫でてくれている。


 それがまた違和感に思えて。


「食事は摂れそうか? 部屋まで持ってきてやる」

「ねえ、どうしたのとっきー。今日なんか変」

「変? 私はいつも通りだが」

「いつもなら『寝室で食事なんで汚い!』って言うじゃん」

「……今日は特別だ」


 とっきーは目をそらして右手を首に当てる。

 それは彼に後ろめたいことがある時の癖だ。


「……何か隠してるでしょ」

「別にに。何故そう思う?」

「だって今日のとっきー、いつもより優しいんだもん」


 とっきーは一瞬目を見開いて、かと思うと眉間のしわをよりいっそう深めた。


「は!? はいつも優しいだろ!? 心配して探した! もう知らん! 食事も持ってきてやらないからな!」

「えぇっ、そんなぁ……って心配?」

「ふん、僕……はもう仕事に戻る。ちゃんと食事は摂れよ。ああ、それから何かあったらすぐ呼べ、いいな」

「はーい」

「返事は『はい』だ。間延びした言い方をするな」

「もー、面倒だなぁ」

「返事は」

「はい!」


 とっきーは「よろしい」と鼻で笑うと、もう一度僕の頭を撫でてから部屋を出ていった。


「今の『よろしい』って言い方、桔梗さんに似てた……ん? 桔梗さん」


 何か引っかかる。

 桔梗さんのことで昨日何かあったような……。


「ま、いっか!」




 §




「時計くん、山吹の様子はどうだった?」


 神が私に問いかける。私は御前みまえひざまずいた。


「はい、何も問題はございません」

「今回の再構築リストラクトもうまくいったかな」


 再構築リストラクト──、致命傷を負ったり、危険思想を持っていると桔梗様が判断した『家族』を、肉体も、記憶すら新しく書き換える神の御業みわざ


 山吹は桔梗様の愛情に疑問を持ってしまった。

 神は私たちを愛してくださっているのではなく、私たちを利用しているだけなのではないか、と。


 私にはその思想は、一切、理解できない。

 、それは愛情に他ならないのに。


 再構築リストラクトを受けたものは記憶がいくらか改竄改竄される。

 山吹が私と過ごした時間を忘れてしまう。

 私は、それが、もしかしたら……少し寂しいのかもしれない。


 だが、神のご意志の前では私の感情など無意味も同然。

 神に従うことこそが、私たち『家族』の正しい姿。


「神よ、今日も我々『家族』を正しい道へとお導きください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る