ため息混じり(桔梗/シエルちゃん)

◇バレンタインの甘いお話◇




「ハク! 可愛いシエルちゃんがバレンタインのプレゼントを持ってきたわよ! さあ受け取りなさいっ」

「わたしに? ……いや、それよりも」


わたしは口元に手を当て、深い深いため息をついた。


「──何故、ブランお嬢様がわたしの家ここに? お義父やお兄様に知られたら、きっと叱られてしまいますよ?」

「そしたらハクのところに家出するわ!」

「困りますよ……」


思わず眉間にしわがより、本日二度目のため息。


「バレンタインよバレンタイン! 今日は普段お世話になっている人に感謝を伝えるイベントでしょ?」

「お世話をした覚えは一秒たりともございませんが」

「それなら、その、……私の好意だと思って受け取りなさい。そういう日でもあるんでしょ?」

「!」


お嬢様が差し出してきたのは、小さなかわいらしい白薔薇のブーケ。


「ハク、いつもありがとう! 小さい頃からずっと大好きよ!」

「はぁ、まったく……罪な女性ひとだ」


お嬢様の「大好き」に、それほど深い意味が込められている訳ではないことは分かっている。


──しかし。


わたしは本日三度目のため息をつくふりをして、ニヤけてしまいそうになる口元に手を当てて隠した。

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