花呪─はなのろい─(桔梗)
◇出会ってはいけない悪魔のお話◇
男は焦っていた。
『幸運を呼び寄せる魔物』の噂を聞きつけ、立ち入った出会ってしまったのだ。
不気味な白いそれに。
それの正体はわからない。
だが、その存在に気付いた途端、全身の身の毛がよだつのを感じ直感した。
──コイツに見つかってはいけない、と。
なるべく音を立てず、なるべく早く。
男はその場を離れた。
だが、その道中あることに気づいた。
「ない、ない……! ゆりのお守りが……!」
今年で四歳になる愛娘。
「クソッ、戻るか? ……でも化け物が……」
「落し物ですよ」
「ひっ!?」
不意に頭上から響く声。
地獄の底から心臓を鷲掴みにでもされたかのような錯覚を覚える声だった。
「し、白、さっきの、バケモノ……!」
声の主は全身、服だけでなく髪や肌に至るまで不気味なほど白く、人間とは思えないような巨躯で、思わず腰を抜かしてしまう。
「怪しい者ではありません。わたしはこの先の教会で神父をしているものです。……先天性の病によってこんな姿ですので、人前にはほとんど出ないのですが」
神父と名乗る男は怖がらせまいと、腰を抜かした男の前に
よく見ると、神父は女神のように美しい容姿をしていた。
「このお守りは、あなたが落としたものでしょう?」
「ゆりのお守り……! 娘からのプレゼントなんです。ありがとうございます神父さん」
神父に差し出されたお守りを受け取ると、男は深くお辞儀をする。神父は微笑で応える。
「それはよかった。『家族』からの贈り物は何よりも嬉しいものですからね。──この道をまっすぐ行けば町に出られますよ。娘さんのために早く帰ってあげなさい」
「ありがとうございます、何から何まで……ところで神父さん」
「なんでしょう?」
「さっきこの近くで白い化け物を見たんです。あれは一体なんだったのでしょうか?」
見るだけで不安を煽る白い化け物。
この辺りに住んでいる神父なら知っているだろう、と男は軽い気持ちで尋ねてしまった。
「……………………、……………………はて、聞いたことがありませんね」
「? そうですか、それは失礼しました。じゃあ俺はこれで」
神父の不自然の間に違和感を覚えつつ、男は一礼してその場を立ち去ろうとする。
「ああ、そうだ」
「はい?」
「白い化け物について聞いたことがありませんが、この辺りは最近全身が花弁ようになる病が流行っているのです。どうかお気を付けて……」
「花弁……。わかりました、肝銘じます」
男はまた一礼し、今度こそ森を立ち去った。
男の葬儀が行われたのはそれからちょうど二週間後のことだった。
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