愛させる、だけじゃ足りない(桔梗/シエルちゃん)

◇満たされない桔梗のお話◇

※「桔梗の花言葉は」の後のお話





「お義父さまに贈り物をしたの」と、お嬢様は無邪気な笑顔でそう仰った。


「とても喜んでくださったわ」

「まさか。アレは他者の好意を喜ぶような者ではございません」


 アレ──創世神Nero──はわたしの元あるじで、かつて至極身勝手な理由で私を棄てた、ブランお嬢様の義父。


 思えばアレは昔から他者に心の内を明かすことがなかった。


「腹のうちでは一体何を考えていることやら……」

「もうハクはひどいなぁ。お義父さまはちゃんと喜んでくださっているわ。私にはわかる」

「はぁ。なぜそう言い切れるのですか?」


 その問いかけに、ブランお嬢様はやはり無邪気な笑顔をわたしに向けて。


「『家族』なんだから当然!」

「──っ、『家族』……」


 お嬢様の仰る『家族』という言葉は、わたしの心に深く刺さる。



 死後、悪魔と化したわたしは、わたしのことを永遠にための『家族』を作り続けた。

 だが、この御方の仰る『家族』と私のつくる『家族』は同じではない。


 わたしの『家族』は確かにわたしを愛している。

 わたしがそうさせている。


 だが、彼らのわたしに対する愛情の正体は『信仰』

 無償の愛わたしの欲するものではない。



 愛されたい、

 愛させたい、

 でも、愛させるだけじゃ足りない。


「ハク、どうかした?」

「……、いえ……」


 夜空色の双眸そうぼうがわたしの顔をのぞき込む。

 きっとこの御方には、わたしの醜い欲望など一生理解できないのだろう、と思うと。




「やはり、貴女様の『家族』が羨ましい」

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