red rose(まこさん)

◇まこさんが母親のお墓参りに行くお話◇

※残酷描写




 今にも雨が降り出しそうな曇天。

 僕は赤い薔薇バラの花束を持って、母の墓参りに来ていた。


『薔薇の花には棘があるから、お墓にお供えするのは非常識』

 なんて常識はもちろん持ち合わせているけど、あの人は赤い薔薇がとても好きだったからこうした方がきっと喜ぶ。


 墓には汚れ一つない。

 きっと組長さん──父が部下に命じて毎日掃除させているのだろう。

 あの人は母を溺愛していたようだから。


 あのひとはなぜ亡くなってしまったんだっけ。

 僕は煙草に火をつけながら物思いにふける。


「ああ、そうか」


 思い出した。

 あれはもう二十年くらい前。


 当時まだ珍しかった青い薔薇を父からたくさん贈られた僕は、母にもわけてあげようと思ったんだ。

 でもあのひとは「私は赤い薔薇がよかった」なんて言って受け取ってくれなかった。


 ああ、それなら、と僕はあのひとの体を切り裂いた。そして薔薇を赤く染めてあげた。


 赤薔薇がなければ青薔薇を染めればいいじゃんって、なかなか名案だと思ったのだけど。


 気づいた時にはあのひとはもう息をしていなくて、結局薔薇は受け取ってもらえなかった。


 赤薔薇が好きだって言うから、せっかく作ってやったのに! と当時の僕は癇癪を起こしていたっけ。


「当時の僕は幼かったなぁ」


 昔のことを思い出して思わず苦笑する。

 まぁ、今となっては微笑ましい幼少期の記憶だ。



 ──あのひとは本当に美しくて。薔薇の花のように気品がある、なんて言われていて。


 欲しいものは何だって手に入れていたし、父だけでなく組長や部下たちにも愛されていた。

 全てがあのひとの思うがままだった。


 あの人は一体どんな気持ちで死んでいったんだろう。


「かわいそうなひと」


 可哀想で、笑えてくる。


「あなたの『忘れ形見』として、

 あなたの代わりに、

 あなたが受けるはずだった愛情を……今は僕が受けている」


 僕は薔薇の花束を墓前に投げ捨て、すっかり短くなった煙草を線香代わりに立ててやった。


「死んでくれてありがとう」


 真っ赤な薔薇の花が無残に散らばる。

 僕は母に嘲笑を贈った。

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