桔梗の花言葉は(ハク)

◇桔梗の生前のお話◇





 愛されている、という自覚はあった。


 とりわけあるじの義理のご息女であるブランネージュお嬢様には、時折主従を超える思慕の念を向けられていることにも気づいていた。

 もっとも、私とブランお嬢様では年齢差がありすぎるし、なにより主従で恋仲など身分不相応にも程があるので、あえて気づかないふりをしていたのだが。


 誰にでも人当たりの良いブランお嬢様とは対照的に、主の実のご子息である、フランベルジュ様はじつに横暴な子どもだった。

 神の子でありながら、人間の血が混じっているという引け目を感じられているのだろう。


 だから私に対して八つ当たりをされる分には気にしなかったが、彼は義妹であるブランお嬢様にも辛く当たられていた。

 それでもお嬢様はフランベルジュ様を慕っておられるご様子だった。


 ある時、私はお嬢様に問いかけた。

「貴女様はなぜフランベルジュ様をお慕いになるのですか」と。


 すると、お嬢様はまるで質問の意図が分からないといった表情でこう仰った。


「『かぞく』なんだから、だいすきなのはあたりまえでしょ?」


 お嬢様と、主やフランベルジュ様の間に血の繋がりはない。

 それでも愛することが当たり前になるほど『家族』という繋がりは強固なものなのか。


 生まれついて家族のいない私には、到底理解し難い思想だった。









 だから私はに『家族』というものを強く欲した。


 私は結局愛されていなかったのだ、私は。


『家族』だから、フランベルジュ様はどんな横暴を働いても愛された。

『家族』ではないから、私はどんなに尽くしても愛されなかった。


 なんだ、これは。

 私の生はなんて滑稽なんだろう。


「私はただ愛されたかった」

「『家族』ではない、私はどうすれば良かったんだ……!!」

「もし、私が貴女様の『家族』なら──」


 私は白桔梗の名も知らぬ白い花の中で息を引き取った。












桔梗の花言葉は「永遠の愛」

それは彼が最期まで手にすることができなかったもの。

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