神に愛された少年(まこさん/桔梗)

◇桔梗とまこさんが出会ったお話◇



「わたしの『家族』にならないか?」

玩具おもちゃごときがこの僕にプロポーズ?」


 目の前の綺麗な少年が目を細めて愛らしく笑う。

 可憐な容姿とは裏腹に、その口から出た言葉は実に尊大なものだった。

 彼は全ての他者を自分の暇つぶしの玩具おもちゃとか便利な道具だと思っているようだ。


「きみはもう少し、当初に対する礼儀をだね……」

「礼儀? そんなの、僕にかしずく下僕たち専用マナーでしょ?」


 はぁ。

 思わずため息が出る。

 わがままな元あるじのご子息でさえ、ここまで自分本位の考えは持ち合わせていなかった。


「やはり、きみをわたしの『家族』にして礼儀を身に付けさせるほかないね。きみ自身のためにも。……言っておくが、プロポーズではないよ」

「ふぅん?」

「書き換えるんだ、きみの全てを。顔も名前も人格すら異なる完全な存在わたしの『家族』へと」

「僕には必要ないかな〜」

「『家族』になれば、きみは理想の自分になれるのに?」

「僕はすでに完璧じゃん? 僕以外理想の存在に生まれ変わるだなんて、劣化でしかない」


 不遜で傲慢。

 こんな人間には今まで出会ったことがない。


「……まぁ、試したければ試せば?」

「え」

「僕をその『家族』ってやつにしてみればって言っているんだ。僕は神様に愛されているからね。お前がどんな力を使ったとしても平気だと思う」


 神。

 かつてわたしを理不尽に使い捨てた憎き元主。

 あの方にこの少年は愛されている?


 そんなわけがない。

 神は誰も愛さない。


「いいだろう、きみが本当にあの方に愛されているか試してみようじゃないか。さぁ、わたしの目を見て……」


 わたしはゆっくりと開眼した。





 交差する視線。

 少年の澄んだ青い瞳は、うっかりこちらが魅入られてしまいそうなほど美しかった。


 しかし、それだけだ。

 彼は絶命することもなく、もちろん『家族』になることもなく、ただ時間が過ぎていくのみだった。


「何故……」

「僕の言った通りでしょ?」

「信じられない」


 悪魔わたしの力が人間に通用しないわけがない。

 つまり、この少年は本当に神に──。




「ふふ、ますますきみが欲しくなったよ。いずれ必ずわたしの『家族』にしてみせよう」

「僕は僕だけのものさ。誰のものにもなってやるつもりはない。ま、気が向いたら遊んでやるよ」


 そうやってせせら笑う少年は、やはり尊大だった。

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