第6話 偉大なる父と三人の息子

「もうおしまいだ」

 市長は対策本部室で頭を抱えました。中枢コンピューターが突如、暴走を始めたのです。都市機能はマヒ。通信不能。ゲートは封鎖、空港から離着陸しようとするものは防衛システムに砲撃される始末。最も近い都市まで数百キロあります。都市は完全に孤立してしまいました。


 さて、市長には三人の息子がおり、上からイチロー、ジロー、サブローという名でした。長男のイチローは優秀な科学者です。そのイチローが、胸を張って言いました。「お父さん、私にお任せください。センタービルに行って中枢コンピューターを止めてごらんにいれましょう。」

 イチローは出かけて、それきり戻っては来ませんでした。ビルのガードシステムは思ったより優秀だったようです。

 次に、二男のジローが名乗り出ました。腕の立つパイロットです。「私がなんとかしましょう。手動でシャトルを飛ばして救援を呼んできます。なあに、私にとっては朝飯前ですよ。」

 ほどなく、空港よりジローの乗ったシャトルが飛び立ちました。が、皆の期待も束の間、あえなく対空砲の餌食となりました。 

 市長はがっくりと肩を落としました。そこへ三男のサブローがやって来ました。

「お前はいい。部屋でじっとしておれ。一体、何ができるというのだね」

 市長は息子の顔を見ようともせずに言いました。サブローは二人の兄と違い、毎日ゲームにうつつを抜かすダメ人間です。とうの昔に期待をかけることをやめていました。

「すまない、言い過ぎた。今となってはわしの息子はお前一人だ。せめて、わしより先に死んでくれるな」


 その後、サブローは姿を消しました。部屋からヘルメットと折りたたみ自転車がなくなっていることがわかりました。ナップザックに食料と水筒を詰めて出かけたようです。「自転車で助けを呼びに行くつもりか。ここまで馬鹿だとは。」

 市長は天を仰いで嘆きました。

 数時間後、都市は突然の停電に見舞われました。非常電源に切り替えたため、中枢コンピューターの機能は著しくダウンしました。「チャンスだ!」

 市長はそう叫ぶと、すぐさま技術スタッフに復旧作業を命じました。

 十数時間後、都市機能は無事回復しました。事態がすっかり落ち着いた頃、市長室のコンソールに外部からの通信が入りました。そこにはサブローの姿がありました。


「父さん、街の具合はどうだい?」

 サブローは、使われていない排水溝から都市の外に出ると、自転車で郊外の送電施設に向かい、都市への電力供給を止めさせたのでした。

「ありがとう、おかげで助かったよ。」

 市長はサブローが生まれてこの方、初めて彼に感謝の言葉を述べました。

「しかし、お前にこんな勇気と知恵があろうとは。これからはゲーム馬鹿とは侮れんな。」

「何言ってるんだい、父さんのおかげだよ」「わしのおかげ、はて?」

 首をかしげる父親にサブローは答えました。

「だって昔よく怒ると、いきなり俺のゲーム機の電源切ってたじゃないか。」

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