第4話 青になれ

「おい、マサル」

 信号待ちしていた私は、少しばかりいたずらっ気を起こした。

「パパには超能力があるんだよ。」

 5歳になったばかりのマサルは、きょとんとした顔で私を見つめた。

「ほんとうだよ、見ておいで。今から、あの信号を青にしてみせよう」

 私は両手を持ち上げ、正面の歩行者用信号を芝居がかった目つきでにらみ付けた。

「青になれ、青になれ、青になれ…」

 しばらくすると、信号は青になった。当たり前だ。

「なんだ、パパ。」

 マサルはおどろきもしなかった。

「それなら僕にもできるよ。」

 私は苦笑した。やっぱり。今時の子は騙せないか。というより、我ながら子どもじみていた。

「ほら」

 マサルが見つめると信号は一瞬で変わった。かのように見えた。そんな筈はない、馬鹿馬鹿しい。私の思い違いだ。

 だが、そうではなかった。

「ここだけじゃないよ。あの信号も動かせるよ。そっちのも、向こうだって」

 周辺の信号たちが目まぐるしい点滅を始めた。私は呆然とした。坂道を下りてきた車が、別の車の側面に衝突した。あちこちでブレーキ音と衝突音が鳴り響く。

 大混乱の中、私は息子を肩に担ぐと、そそくさとその場を立ち去った。

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