第3話 庭のトリケラトプス(ジェームズ・サーバーの思い出)
「大変だ、おまえ」
彼女が昼食の支度をしていると、台所に夫が駆け込んで来ました。
「庭でトリケラトプスが眠っているんだ。」「へえ、そうなの」
彼女は夫が自分をからかっているのだと思いました。
「では、そのトリケラトプスをよく見張っていてちょうだい」
夫は妻の言葉に従い、台所から出て行きました。
しばらく経つと、また夫が駆け込んで来ました。
「おまえ、トリケラトプスが花壇の花を食べている。」
彼女は呆れました。
「そう、でもそれぐらいなら放っておけば」
夫は再び台所から出て行きました。が、またまた駆け込んで来ました。
「トリケラトプスが角で窓をコンコンとつついてる。」
彼女はさすがに、うんざりしました。
「いい加減にしてちょうだい。庭にそんなものがいるはずないでしょ。」
「本当なんだったら、おまえ。」
夫は彼女を居間に連れ出すと、窓の外を指さしました。彼女は目を丸くして夫の顔を見つめました。
「まあ、大変だわ。」
数分後、家の前に救急車が到着しました。彼女は救急隊員たちに手短に事情を説明しました。
「主人がおかしいんです。庭にトリケラトプスがいるだなんて。きっと頭を打ったにちがいないわ。」
彼女は隊員たちを案内しました。居間では夫がぼんやりと窓の外を見つめていました。隊員はちらりと夫の方を見ると、彼女に言いました。
「奥さん」
「はい」
「本当に、あなたにはあれが見えないのですか?」
「はあ?」
「どうやら、頭を打ったのはあなたのようだ」
救急隊員たちは彼女を連れて行ってしまいました。後には夫が一人ぽつんと残されました。
「あいつ、どうして消防か警察を呼ばなかったんだ?」
そうつぶやくと、夫はテーブルの上にあった始祖鳥の唐揚をつまんで口に放り込みました。
****** 本作はジェームズ・サーバーの「庭の一角獣」(A Unicorn In The Garden)を下敷きにしています。初出:2005年10月
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