第2話

 報道はなかった。される理由もない。

 TV、ラジオ、新聞。国営のそれは無論、党の支配下にある。

 そのニュースが、利敵行為なのは明白だった。

 ゆえに。表立って、それに触れられることはない。


「ハーバードが? そりゃその、おめでとう」


 他国の大学からの学位授与。

 加えて特別な代物となれば、それなりにニュースと言えた。

 しかしながら、ユスティナにとっては初耳だった。

 世間知らずな訳ではない、単に聞く機会がなかったのだ。


「ただ、こう――こう言ってはなんだが、アメリカまでよく通えたな」


 返ってきたのは微苦笑。

 咎めるでも許すでもない、曖昧な顔だ。


「ああ、通いも住みも難しいだろうな。だから、“特別”って奴だ」

「申し訳ない、話がよく見えないんだが」


 マーシャは少しだけ考え、相手の錯覚に気づく。


「……ああ、俺の話じゃねえぜ。一介の構成員に気前よく学位出すほど、アメリカ人も酔狂じゃねえだろうさ」

「一介の構成員じゃないなら、一体誰が。よほど大物――いや、まさか」

「たぶん、それで合ってるぜ」


 いたずらめいた顔を作り、言う。


連帯ウチの親玉に、だ」


 聞いた顔は、少し引きつっていたかも知れない。

 気づいてかどうか、マーシャは続ける。


「でまあ、新大陸アメリカからの祝われついでに、相談したいことがあるんだが」

「いまさら取り消すとは言わないが――その気持ちは、だいぶ目減りしてると思っておいてくれ」

「話ってのは、先方への礼のことだ」

「――あくまで祝い代わりだ、ひとまず聞くだけだぞ」


 マーシャは肯定も否定もしない。

 代わりに言葉を継いだ。


「祝われたなら必然、何かを返さないといけねえ。こいつは礼儀って奴だ、そうだろ?」

「まあ一般的にはそうだな」

「だろ。それについちゃ、ウチの親玉もそう考えてるんだ」

「なあマーシャ――そう言う事をわざわざ、何でこちらに持って来る?」


 返って来たのは豪快な笑いだ。

 だが今度ばかりは、誤魔化される訳にはいかない。


「頼むから、少しはまともに答えてくれ」

「一応、こっちで片付けるつもりではあったんだぜ。だがまあ、試す策が尽きてね。あわれ、授与式は数日後に迫り……て訳だ」

「あのな――」

「こういうとき、頼るべきはと思ってな。おっと、こいつは偽らざる本音ってやつだ。なあユスティナ、どうせ落ちるなら高い馬から失敗を恐れるな、とも言うだろ」


 今度見せたのは、またも悪戯めいた笑み。


「こう言うの、面白いだろ?」

「――私は面白くない!」

「なら、だ。これから面白くなるぜ」

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