Chapter11 鈍く輝くコイン

 結局、夜まで何事も無く過ぎた。

 夜になっても、昼間の熱のある風が吹く。じっとしていても、汗だけは流れてくる。診療所の前で、ミツルと二人で涼んでいると、シャラフとマシャフが、笑顔で近づいてきた。

「ツナミ?」

「なんだ? コーラなら、もう無いぞ?」

「ううん、違う」

「じゃ、どうしたんだ?」

「シャラフの好きな子がね?」

「好きじゃねぇよ!」

 シャラフがマシャフの頭を小突く。

「いたいなぁ」

「で、好きな子がどうしたんだ?」

「好きなんじゃないって!」

 ミツルと都並は大声で笑う。こんな場所でも子供たちは笑顔を運んできてくれる。

「ごめん、ごめん、その子がどうしたんだよ」

「うん、すっごく久しぶりに会ったんだ。それでこれ、くれた」

 金色の表面に握手する手が描かれたコイン。月の光にきらきら反射している。

「どこで、貰ったっ!」

ミツルがシャラフの手を掴んで突然問いただす。

「痛いよ、ミツルッ」

「ミツル、どうしたんだ?」

 呆然とメダルを見つめるミツル。ミツルの顔からいつもの陽気な笑顔が消えた。

「い、いや」

「あ、それと、これをツナミにって」

 シャラフはポケットから、一枚の紙切れを出した。都並はそのメモを見ると、突然立ち上がり、診療所へ入っていく。

「ツナミまで? へんなの」


 都並は裏口から、路地へ入り、入り組んだ角を曲がり、今朝訪れた場所にやってきた。

 今朝いた男たちの姿は無く、シンと静まっていた。都並は静かに周りを伺いながら、階段を降りる。小さな電灯の踊り場のドアを開けると、そこには誰もいなかった。慌てて出て行ったのか、部屋は散らかったままで、正面の壁に小さく『ありがとう、君は素晴らしい医師だ。十分な仕事をしてくれた。次は私の番だ。子どもたちに誇れる仕事をしよう』 そう書かれてあった。

「ここに、いたのか?」

「ケビン! 見張っていたのか?」

「ああ、これも仕事なんでな」

 都並は、ケビンにメモを見せた。

「これは?」

「彼が残したものだ。ケビン、君に必要だろう?」

「ああ、いいのか? しかし、どういうことだ?」

「さあな、彼が『子どもたちに誇れる仕事』 をしてくれるのを信じようじゃないか」



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