Chapter10 忘れていた煙草の味

 麻酔が覚める前に、男たちはアジトに帰っていった。診療所に残された都並とミツルは、昼下がりの光を、窓を開け楽しんでいた。

「疲れたな」

 都並が呟く。

「銃口がいつもこっちを見てたからな」

 ミツルはポケットから煙草を取り出した。

「一本くれないか?」

「ツナミも煙草を吸うのか?」

「ああ、こっちに来る前に止めたんだけどな」

 ミツルは箱ごと都並に投げて渡す。

 茶色のフィルター煙草を一本取り出し、口に咥えると、ミツルが火を差し出した。肺に一杯煙りを吸い込む、軽く目眩を覚え、緊張した身体から一気にチカラが抜けた。吐き出す煙が窓からの風に流され、消えて行った。

「ツナミ、実は……」

―― ブゥーン、キー

 直ぐ前に、車が止まる音。

 煙草を咥えたケビンが降りてくる。

「やばっ!」

 ケビンは運転手に何か伝えると、診療所に入って来た。ケビンは、入るなり怪訝な顔をして、室内を見渡す。頑丈そうな軍靴が床を叩き、室内に僅かな余韻を残す。

「ケビン、コーラはどうだい?」

「ん? ミツル、今はいい。それより」

 ストレッチャーのすぐ横でしゃがむ。床には、血のついた小さなガーゼが落ちていた。

「誰かの治療をしたのか?」

「あ、そうだ、山のほうでちょっと怪我人がでてな」

「ミツル? それは、誰だ?」

「えー何て言ったかな? あ、小さな女の子だ、避難してくる途中でちょっと、な? ツナミ」

「本当か? ツナミ、まさか、手配犯を庇っているんじゃないだろうな?」

「……」

「そうか、判った」

 ケビンはそう言って診療所を出て行こうとしたとき、軍靴の先にコツンッと何かが当たった。ケビンは再びしゃがみソレを拾い上げた。

「じゃあな、また来るよ」

 ケビンはそう言って診療所を出て行った。

 ケビンのゆっくり歩く足音が遠ざかる。車が近づき、ドアの開閉する音。若干の間をおいて、車は走り去った。

「ツナミ、ばれたかな?」

「判らん」



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