Chapter5 瓦礫となった診療所
雨のように大量の砂が降り注ぐ。
濛々と砂煙が舞い、鼻を突く嫌な匂いが立ち込める。街の住民たちが集まり、瓦礫の中に足を踏み込む。土の家は燃えない。ただ、崩れるだけ、瓦礫になって再び土に戻るだけ、死んだ人も同じ、土に返る。
瓦礫の山に見慣れた文字の金属プレートが見える。
都並は、そのプレートを拾い上げる。
『DrJyalal DrTunami』
「先生……」
跡形も無く、完全に破壊された診療所。
舞い上がっていた砂煙が薄れていくにしたがい、『診療所』であった瓦礫の山が現れる。その前で都並は膝を折り崩れ落ちた。
「ツナミ……」
シャラフが、栓の開けていないコーラを都並に見せる。涙で曇った目の前に、ジャラルが大好きだったコーラ。
『アメリカが発明して、唯一、誉められるものは、このコーラとケンタッキーのバーボンだけだな』
ジャラルは、コーラを飲むたびに同じ事を言っていた。
「ツナミ」
マシャフが、都並の背中で泣いている。
人が死ぬことが当たり前になっているこの国で、たった一人の医師のために、多くの人が集まり、そして泣いていた。一人、また一人。ある者は膝をつき、ある者は手を組み、ある者は抱き合い、一人の医師の死を泣いている。
「シャラフ、マシャフ。どこかに花はないか?」
シャラフは、都並の背中で泣いているマシャフの手を引いて、離れて行った。夕日が二人を照らし、細く長く影を落とす。
都並は、名前の書いてあったプレートを、ほんの十数分前まで確かに診療所のあった場所に置き、その上にジャラルの好きだったコーラを置く。コーラもまた、細く長い影を落としていた。
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