第2話 日常に刺さる小骨


 ――この学校は変だ。


 中条なかじょうあきらがそのことに気がついたのは、転校後しばらく経ってのことだった。


 都県境に位置する郊外の市街地。東京都二十三区外にあるその場所は、しかし決して田舎などではない。

 新宿までは電車で三十分。新横浜までも同じくらいで行ける。

 シルクロードを通した歴史ある土地は、中心地に行けば都心に出ずともほとんどの娯楽と物資が手に入った。

 ないものといえば映画館くらいのもので、それだっていくつか先の駅まで行けば大シアターが存在している。

 一方市街地を離れれば田畑や森、養蚕の名残である桑畑なんかも残っていて、そういう意味でもほとんど全てのものが詰まっているような土地だった。


 不思議な場所だ。まるで閉じた都市のようだ。


 越してきたばかりの頃、彰はこの町にそんな印象を抱いていた。

 転校した七峰第一中学校は、大通り沿いにあるくせに校舎まで百七段も階段を登らなければならない場所にある。

 校舎周りは高い竹林に取り囲まれ、斜面はどこかの寺の所有地なのかいずらりと墓が立ち並んでいた。

 古いコンクリート造りの校舎は分厚い壁にいくつも大きな亀裂が入っていて、耐震用の鉄骨がまるで牢獄のようだ。

 近いうちに新校舎に移転するという噂もあるが、最高学年である彰達がその恩恵にあずかることはない。

 こうして並べてみると何やら不気味な学校に思えるが、日常とは常に繰り返しの中に存在する。

 百七もの階段を上がることも、墓場を横目に湿気た校舎に収容されることも、毎日のことになれば気にも留めなくなった。


 だからこの喉元に引っかかる小骨のような違和感も、きっとそのうち日常に溶けて消えるのだ。

 そうでなくては、困る。

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