第5話 ス・キ
そういえば、今思ったこと。アクアリウムには、カップルがよく来るのに人魚ゾーンは見てくれない。「珍しい人魚がいるらしいよ」くらいで通り過ぎる…。なんか、悲しい。でも、カップルなんて、うらやましいな。
この前の、発表会の時にかいるが嬉しそうにしているとわたしも嬉しくて、かいるが大変そうなのが可哀想で。こういうのって、あれなのかな。そのー、『恋』ってやつ。こんなのだと、自由でも不自由でもいいよ。かいるがいれば、それで私は満足。きっと、ミイロもそうかな。でも、ミイロはお客さんを喜ばすことが好きで、いつもくるくるしてる。この仕事が『好き』なのかな。
悲しいことが多くて、少しでも嬉しいことがあったらバカみたいに喜んで、そんな人の…、一人なのかな、私。でも、その『うれしいこと』があまりにも少なくて、こんなにつらいのかな。
きっと、『嬉しいこと』は、かいるがいやな話を終わらせて笑顔になることなんだと、私は思ってる。
・ ・ ・
最近は、仕事が大変すぎる。それに、何をしてもうまくいかない。メリオたちが寝た後に、日記を書きながら俺は思う。
~今日は、ミイロが盛り上がって踊っていたら、壁にぶつかってしまいました。急いで駆け付けたところ、『いてて…。』と言っていましたが、大きなけがもなく大丈夫でした。もう少しまわりを見てねと言っておきました。
メリオは、いつもどおりミイロと話したり、していました。
特に変わったことはなく、大丈夫です。~
っと。日記を閉じるとかわいらしい人魚の絵がかいてある。あんな笑顔なのは、ミイロくらいかもしれない。もっと俺が明るくなきゃだな。メリオが心配してると思う。
様子を見に行くと、ミイロが土管の部屋から飛び出て寝ている。相変わらず寝相が悪い。彼女たちの日常を見ていると癒される。ほかのお客様もこうやって楽しんでいるのかと思いながら、「おやすみ」とつぶやいた。
・ ・ ・
寝坊した。部屋から顔を出すと、もう近所の人とかいると館長さんが話していた。
『それでは、明日の夜に逃がすというのでいいですか。』
あ、館長さんまであの人たちの味方なんだ。
―うん、あいつらを自由な場所に連れて行ってあげな。-
『はい…。』
『あの、人魚たちがいなくなってしまったら、お客様がびっくりしてしまうのではないですか?』
―そのときは、逃げたってことで。いいんじゃない?-
『わかりました。』
―じゃ、明日からこないから、ちゃんと海にかえせよ!-
『はい、わかりました。』
…。なんだ。ここで終わりなんだ…。ハッピーエンドがよかったのに。
・ ・ ・
その夜、私は部屋に入ってからメリオの声が聞こえた。
「こんなところなら、先に逃げたいよ。」
わかる。わかるよ。いつも私、メリオは考え過ぎだっておもってたけど、これだけはメリオと思っていること同じだと思う。
「…、メリオ。」
「っ、な…に…。」
「ごめん。驚くかせちゃったね。」
「うん。」
話したいことは、決まってる。
「ねぇ、かいる君のこと…。」
「あっ、うん。」
「ちゃんと話していいよ。誰にも言わないから。ていうか、言う人いないから。」
「…。うん」
メリオの目から涙が出てる。悲しいよね。わたしも同じだよ。
「あのね…、私ね…、かいるがね…、私たちをね…、逃がすって、決めた時ね…、すごく…、悲しくて、なんで?って、思ってね…、いやでいやで、もうっ。」
泣きながら、真剣に話してくれてる。
「メリオはかいる君になにを伝えたいの??それを教えて。ね。」
「うん…。あのね…。」
きっと、メリオはこれを言う。もう分かっている。
「わたしっ、かいるがっ…、スキで、スキで…、でも、もう…、遅いのっ…、明後日にはっ、バイバイだからっ…、遅いのよー――!!!」
メリオが泣く。こんなに、つらかったんだね。
「なんで…、早く…、伝えなかったの??」
なるべく優しく言ってるつもり。
「昨日…、気が付いたのっ…。でも…、かいる、忙しいし、言えなくって。もう、遅いの…。」
そっかぁ。悲しいね、つらいね。メリオはもう抑えきれなくなって、泣いている。そんなに泣かれたら、私まで泣きたくなっちゃうよ…。わたしには、話を聞くことと、慰める事しかできない。
抱きしめてあげよう。そう決めて、思いっきりメリオを抱きしめてあげた。
「っ、ミ…イ…ロ…?」
「大丈夫。大丈夫だよ。」
「…うん。」
私からもポロポロと涙がでちゃった。メリオの頭をなでながら、ぎゅっと抱きしめて、そのまま2人で寝た。
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