第六十話 聖戦舞祭:休憩中の昔話(王女の師匠)

森川梨奈と有栖川姫子の試合が終わってから15分経った、午後7:20時:


「では、聖戦舞際の最後の試合、<第4学女鬼殺隊>隊長である早山ルイーズ選手対<第5学女鬼殺隊>隊長の春介遼二が控えているんだが、今からは1時間程の休憩時間となっているので当人二人や観客様はみんな各自、食事しに行くなり個人用に出るなりでここ<聖メレディーツ・コロシアム>から席を空いてきていいぞ!」


と、マイクみたいな機器を使ってボックス状の特等席からそう知らせてきたローズバーグ会長なので、俺たち別々のチームがこの施設の待合室から出てきて、今はこちら<第4学女鬼殺隊>だけの面子でフォルールナ王都の一隅にある、エルダスターズ喫茶店にて、休憩時間を利用しての夕食を取っている最中である。


「はむーはむー。さっきの試合で見事に勝利を収めたのだけど、それでもあれはやっぱり痛かったんだよねー?有栖川さんのぐるぐる回転中の3斬切り付け。」

食いしん坊みたいに早食いでチーズの入ったミートパイを頬張っていくネフィールに聞かれた梨奈は、


「ーーんんん......そうだった...わね。確かに<有栖川流、高速乱舞の....刀遊一型>なんだっけー?あれ。すごいスピードで全身を回転しながら向かってきてるものだから、何かすごい強烈な最終斬撃が来るかもと咄嗟に悟ったあたしは<敵撃受身瀕死後五倍反撃術式(ゲンドロッス・エイビアーズ)>を発動するための動作に入ったの。実際にリアルな傷を負って瀕死状態にならなくても、普段ならそれに近い結果が出る相手の必殺技ならあたしの身体で受けても<五倍反撃>の効果が発揮されると知ってたから躊躇わずにやってみたわ。でも.....まさか有栖川からあんなに地獄みたく激痛の伴う斬撃が一瞬で3回も同時に届けられるだなんて......死にそうと感じるほど本気であたしを殺しにかかるぐらい本当に痛かったのよー!」


「.......梨奈....。あんな風に叫んじゃうぐらいすごく痛そうにしてたし、マジで勝ててよかったね。でなければ、あんな痛みを耐える意味が無駄になる。ここで食事中だから改めていうが、おめでとう、梨奈。」

と、俺の労いの言葉に、

「....ああ、うん。.....あ、ありがとう、ルーくん...。」

そう返事してくれた梨奈なんだが、心なしか、ほんのりと頬がちょびっとだけ赤くなるのはどうしたのかな....。


ん?ずっと右側にいる梨奈にばかり首を向けていたけど、そういえば視線を俺の左隣の席にいるエレンに移動させたら、

「.........」

以外にも沈黙してるばかりで黙々とスパゲッティを口に運んでるだけで、会話に混じろうとしなかった。なんでー?


「あの...。エレン?どうしたの?ずっと声も発しようとせずにその神妙な表情うかべながらただ食事に淡々とゆっくり食べてるだけ。」

俺が我慢ならずに遠慮なく疑問を口にすると、

「........。」

何かを考えこんでいる最中か、俺の問いに対してまったくといっていいほどに無反応のままで、視線もぼんやりしてるみたいに目の前の食べ物に釘付けになってるだけで、まるでこの場に一人だけいるよう錯覚させてるようだが......。


「エレン様、失礼ー!」

「きゃああーーー!」

「--!!??」


ネフィールはあろうことか、エレンの頬を目いっぱい抓ってきた!さすが衆人環視のこの喫茶店に破廉恥行為をしないのだが、それでもあれでエレンを現実に引き戻すには十分だった。


30秒後:

「もう、セーラッスは本当にやんちゃな娘で困りますわー!」

「にししーー。ごめんなさいね、エレン様!早山隊長が呼んでても反応なしのままだったから、見てられないんですよ~。にしっ!」

「あの....それで、何をそんなに夢中になって思考中だったのー?もしエレンさんがいいなら、あたしたちに教えてもらってもいいー?」


と、梨奈の無邪気な質問、

「.....ええ。とりとめ明かしてはならない秘密な話でもないし、隠す必要もありませんので、今のうちにみんなに話した方がいいですわよね。実は、わたくしは昔、未熟なヴァルキューロアで今より遥かに弱かったというのを聞かせてあげたことがありましたわよね?」


「うん、前に話を聞いたよね、梨奈?」

「そうね。あの時は確か、一年ぐらいも前の話だったわよね?あの時はエレンは今のように<ナムバーズ>上位ほどの手練れなヴァルキューロではなく、10位ぐらいのランキングだったわね?」


「そうですわ。あの時、神滅鬼の階級9位である<アングラン級>でさえ単独で挑むのにも命を落としそうなぐらいよわっちなわたくしでしたけれど、その後はきっちりと鍛えられてきましたのを思い出していたんですわよね、さっきのぼんやりしてたのもそれを思い浮かべてるだけでしたので。」


「ええ、確かに、エレンを鍛えさせてあげてる方はニシェーだという6英騎士レギナの一人なのを前に聞かせてもらった話だったわね。」

「ええ、そうですわよ。師匠.....えっと、ニシェー先生、はわたくしに色々なことを教えてくれましたわ。地獄のような厳しい訓練も施してくれましたの。おかげ様で、わたくしの神使力量が爆弾的に急上昇してきて、本来の王族一員のあるべき資質がようやく引き出されてきたんですわよね。」


「で、さっきはどの場面を思い出していたか、詳細的に話してもいいのか、エレン?きみは王女として頼りになるような強い女性だけじゃなくて、眩しいぐらいに凛々しい姿をしてきたのを見てきたんだから、エレンの昔話、もっと聞きたいなあと前々から思っていたんだよ。」

と、俺の問や正直な彼女に関する評価に対して、


「もちろんいいですのよ、ルイーズ隊長。あの.....隊長のリクエストなら、なおさら平気ですわよ。むしろ.....わたくしのこと.....よく見てくれていて、そしてその....気にかけてくれていて、本当に.....嬉しいです...わ」

消え入りそうなか細い声でなんか言ってるエレンなんだけど、なぜかその金髪ドリルを指先にいじりながらその真っ白い透き通る肌をちょっとだけ赤色に上気させている様子だけど、もしかして風邪....ではないんだよね?エレン、ヴァルキューロなので普通の人間ではないしな。


「ルーくん~~。」

と、なんか含みのある笑みを向けてきてる梨奈なんだけど、目が笑ってないようで怖いよ!?

痛い!梨奈にテーブルの下で足をぐりぐり踏まれちゃったよ!?なんでー!?


「実は.....」

と、俺と梨奈がなんとなく口論を始めようとする前に、エレンが話をしてくれるようなので、俺たち3人はそれを察して黙ったまま聞き入るような姿勢を見せる。


早山ルイーズとその仲間がこの世界、リルナに召喚されて10か月間も前の頃に、フォルールナ王都の外にあるレクリア平野の一画である<第4教練場>にて:


「はぎゅうーー!」

ゴドーー!


わたくしの現神戦武装<ソヒー・ヨセミン>が手元から彼方へと弾き飛ばされた後、緑の草の絨毯へ容赦なく強烈な力で背中から叩きつけられたわたくしの目前まで、一本の斧を喉元に突き付けてきたのは他でもなく、わが師匠、ニシェー先生なのですわ。


「どうしたー!その程度でへばるようなタマじゃないでしょ、姫!」

いつものことながら、わたくしを指導してる時だけにその乱暴な口調となった先生なのだけど、もう一か月間も特訓として指導してくれてましたし、慣れっこですわ。


「この-!」

「ふーん!」

次の打ち合いではわたくしの渾身の一撃を<ソヒー・ヨセミン>で以て、先生にやり返すつもりなんですけれど、


カチャーン!

それでも、さっきと同様に、自分の大剣が先生の斧の振りによって容易にはね退かれて、とてつもなく強い衝撃を受けたわたくしはまたも子供みたいに後方へとぶっとばされ、瞬間移動でもしてきたようにまたもニシェー先生が目の前に駆け寄って、その斧みたいな形している現神戦武装<ロイン・ソサブリエー>を喉元に突き付けてきましたの。


それから、訓練も激しさを増して、何週間も経ってからわたくしは何千回も同じような打ち合いをしてきたんですけれども、一向に先生の力の一端も引き出せてなくて悔しい思いばかりが募っていったのを思い出しましたわよね。


でも、ある日......


「ひぎいー!」

子指一本だけでわたくしの神使力の纏われた剣撃を受け止めてみせた先生だったんですけれど、


「んー!?」

そう。


先生の指に、僅かだけですが少しの血が滲み出てきたのをしっかりと見ましたの。

それから......


「どうでしょう?私の指導を受けてからもう既に気づいたのでしょう、姫?何千もありったけの力と腕力で私と打ち合いを繰り返してきたんだけど、それで姫の神使力量もやっと増えているんでしょ?」

「ええ.....そう....みたいですわね。以前のわたくしなら、きっと先生の指に傷をつける事ができなかったかもしれませんけど、今こうして出来るのを目にすると、確かに先生の言う通りになってるんですわね。」


「それが証拠だよ。恐らくだけど、いま学園に戻っても姫はもう<ナムバーズ>上位になれる程の実力を持っていると思うんだよね。だから、挑みに行けー!学園の<ランキング戦>を!ひゃひょひゅひゃ~~!」

またですわね!背をのけぞらせて銀髪を揺らしながら、愉快そうに笑ってますけど先生はいつも舞い上がってる時にあんな変な笑い方するんですのよね。ちょっと変だけどそれも独特の個性からくるものですから、今更どうこう思わないんですわよね。だって、普段は生真面目な癖にわたくしと二人っきりと時間だけああも変な一面も晒してくれてるんですもの。


つまり、わたくしに対して気を許してると見て間違いなさそうですわね。


で、それから、わたくしはその後、何回かの<ランキング戦>を潜り抜けてきて、やっと<ナムバーズ>3位になれてのですが、あの日のことだけがいつまでになっても鮮明にわたくしの脳内に焼き付いてきた離れないみたいなのですわ。


そう、あれは5か月間も前のこと:


「うわあああ......なんで?なんでわたくしがアイシャさんに勝てなかったですのー!?」

あの時は<ナムバーズ2位>のアイシャ・フォン・ルゼーヴィンヌと勝負を持ち掛けては悲惨にも負けてしまいましたけれど,他国の王女に負けちゃってはお母さまや国に悪いと思って、素振りの後にこうして真夜中にひとりっきりの城内の庭園の一画に悔しがるわたくしですが.....


「こんなところにいたんだね、姫。」

そう。先生はいつもわたくしと二人っきりの時だけに、敬語を敢えて使わないようにしてくれましたの。それはわたくしの希望でもありますから当然なのですわめ。だって、教えてもらう立場であるわたくしでは身分関係なしに、師匠に敬うのが礼儀だという常識ですからね。それに、わたくしも命の恩人である先生に対してお慕いしていますし、そうしてもらえるだけで嬉しいですわ。


「なるほど、他国の王女に負けたとあっては陛下にお顔向けできないと、そう思うんだよね?」

と、わたくしが何故ひとりで涙を流しながら項垂れれいたかを説明すると、優し気な眼差しを向けてきた先生が自愛に満ちる表情を浮かべながら右手を自分の背中に撫でつけてきててそう言ってくれましたのを今でも鮮烈に思い出せますの。


そして、人生一番の励み言葉だと思えるようなことを言われたのをルイーズ隊長とみんながいる夕食の時のここの喫茶店でも思い出しちゃうほど、わたくしの生きるための心構えや信念がその夜に運命の瞬間に決まりましたわよね。


そう。あの時、先生がわたくしに声をかけてくれた言葉というのは:

「神滅鬼と戦う宿命を負わされているヴァルキューロアである我々とて人間の女性だということを忘れるなよ?これからの不確かな未来を戦い抜いて生き残るためには競争心や向上心があってもいいんだが、程々にしないと、身が持たないよ?だから、戦い以外にも見つけてきてよね?姫にとっての大切な人を。」


恋愛。

確かにこの世界では男性が<戦闘可能な神使力>を持たないから些か女尊男卑な社会が遥か昔から出来上がったのだけれど、先代の女王から、つまり.....母様の母親、わたくしのお祖母さん(もう神病で亡くなられましたけれど)の任期からではそれが改善されてきましたわよね。


お陰で、今のこの国の男性の存在意義もただの種馬みたいな認識すら覆されてきて、戦闘以外で有能でチャーミングな殿方を求める女性もこのゼンダル王国には前より多くなってきましたのよね。ヴァルキューロアとて神じゃなくて力を大母神様から賜っただけの普通の人間ですからね。普通に異性とも触れ合いたいし、恋愛もしたい女の子もいるのが当然のことですわよね。


「だから、見つけてきてよね、<姫のためだけの幸せ>を。何があっても、私がずっと姫の傍で支えてあげるから。姫が女王になった後も、ずっとね。」

あの夜の締めの言葉のつもりなのか、立ち去る前に優しい笑顔で先生がアドバイスしてくれましたわ。それだけじゃなくて、最後は誓いみたいな言葉も伝えて下さったし、大好きですわ、ニシェー先生~~!

それが、先生から貰った、もっとも印象深い助言だということをずっと忘れずに脳内に保管されてきた、わたくしのためを思って、大切に思ってくれている先生からの一番、好きな言葉ですわ~。


「ほほ......それがエレンの師匠のお勧めか~~。なら、俺がエレンの初めての相手になってもいいのか?」

「~~~~!??」

色白な皮膚を誇ってる姫なのだが俺の発言で耳まで真っ赤になってる金髪ドリル碧眼の美少女であるエレンに続いて、


「どさくさに紛れて、なに王女様を口説いてんのよ、バカルー!」

「いってー!?」

「ひゅひゅー!早山隊長も立派な思春期な男の子だよねー!もっとシャイボイーで草食系かと思ったけど、もしかして隠れ肉食系男子?<天才なる黒勇少年>とクラスのみんなに名付けされただけに飽き足らず、隊長も隅に置けない口上手な男の子で面白い!にしし.....」


しんみりとなっている場の雰囲気をもっと和ませる役割を買って出た俺なんだが、もしかして逆効果だというのー!?正式な告白のつもりじゃなくても俺、結構本気でいったつもりなんだけどなぁ......

まあ、元々相手が相手だし、お姫様が俺みたいな庶民の出を好きになってくれるかどうかわからないけれど、エレンが相手なら嫌じゃないよ。


というか、ここの面子なら、誰がそうなっても俺的には受け入れるつもりなんだけど、誰かを本番にするかなんて、今は戦いに向けての準備で手一杯でわからないから、決めるのはもっと先にしようと先延ばしにする以外ほかない。うん。

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異世界召喚された俺達だけど、女学園に通わされてる 明武士 @akiratake2

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