第五十二話 聖戦舞祭:ゴリラ?いいえ、森梨奈(モリナ)

「...あ、有栖川さん、......同郷人に対して、......容赦しない...人なんですね。アタシ......なんか急に彼女のこと......あ、あの.....<神の聖騎士>なので恐れ多くていうの躊躇しますが......すごくこ、こ...怖いです」


ボックス状の特等席でそう小さく意見を漏らしたのは学園の生徒会役員の会計職を勤めているリシェール・フォン・ノアーズという子なのだ。彼女はピンク色なツーサイドアップな髪を僅かにゆさゆささせながら俯いて舞台上に視線を釘につけつつ、森川梨奈が胸部を力強く刀で突き立てられた様子を恐怖まじりで呆然と見ている最中なのである。


「そうー?私にはそう思わないのだな。同じ世界で、同じ国の友人なる者に対し、正式な試合にだけ手を抜かずに真剣にやり合うのは生真面目な性質を持っているからだ。そういうのがこれから現れるであろう、上級な神滅鬼との生死を決める戦いにおいて、もっとも必要となる要素なのだ。君は引っ込み思案な子だからそう感じるのもしょうがないけど、これからはもっと自信を持つんだな。神滅鬼といずれ復活するであろうカン・ウエイの大軍との最後の戦い<終わりの饗宴>がいつかくるかわからないぞ?」


「......ううぅぅぅ。分かりましたから、.....会長。ア、アタシ....頑張ります。でも、あまり.....期待しすぎないように......していただけると.......助かります。ひくー。」

ローズバーグ会長の諭しに対して、恐縮してしまうリシェールはそう返事したら、最後にくしゃみをこぼした。目も潤むようになっており、なんか可哀想な女の子という印象が目だってきたのである。


「-こら!ローズバーグ姫よ!リシェール嬢は怖がっておるんじゃぞー!お主はもっと柔らかくもの考えてから特定の人としゃべった方が良いと前々から思っておるんじゃよ。」

今度はローズバーグ会長が諭される側に回り、後ろの席に腰を据えているネネサ女王に向き直った会長は、


「それはそうだな、ネネサ女王。配慮が足りなかったことは謝罪しようが、いつまでもこの子を甘やかしていては彼女のためにならんぞー?ただでさえ今でも各地に出現する神滅鬼の数が増えていくだけじゃなく、その凶暴性も階級の上昇も留まることを知らんのだ。こんな状況に、そんなことはいつまでも言ってられると思った方がどうかと思うぞ、女王。」

尚も尊大な態度を崩さずにそうネネサ女王に反論した会長。銀髪ロングを手ではらって、毅然とした表情を女王に向けたままで動じない様子だ。どうやら、会長は自分の立場、<他国からの王族>ということを前面に出したがり、他所の国の国家元首であるネネサ女王に気後れしたくない誇り高い王女のようだ。


それに、ローズバーグ会長はシュフリード王国の第二王女なのである。ゼンダル王国も大国ではあるが、この大陸の中央諸国において、シュフリード王国の方が一番の領土を誇っており、ゼンダル王国より影響力と発言力の強い大国なのだ。なので、会長からしてみれば、隣国の女王に対してすら萎縮するに値しないと判断したのだろう。


「ほほほう......。相変わらず堅物すぎるじゃのうーお主は。まあ良い。お主はこの学園の生徒会長で彼女は生徒会の一員じゃから、好きにするが良い。」

「それはありがたい申し出だな。元々そう考えていることなのだから、わざわざいう必要もないだろう?」


「ほほう。わかったんじゃからもうそこまでにせいー。妾からの助言はもう済んだんじゃから、そこまで食い下がらなくてよかろう。」

と、それだけいって黙り込んでしまうネネサ女王。


「うぅぅぅ......。ただの貴族の娘であるアタシ.......のために女王様がおん自ら他国の王女......と......口論に御身をお投じになっていらっしゃるだなんて........贅沢すぎて恐れ多いますよ。 駄目駄目なアタシにそんな貴重なお時間とご意識まで費やさせてしまって本当に........申し訳ございましぇーん、こほん!申し訳ございません陛下ーー!」

「いいんじゃよ、そんなこと。それより、二人ともこの戦いのこれからに注目するが良いんじゃよ。どうやら、我が異世界の救世主が思っておったより、この一ヶ月間で召喚されて以来、目覚しい成長ぶりを見せてくれたようでワクワクしちゃうぞよー」


(そう。あれならば、近いうちに<あれ>のことも、エレンたちに教えなくてはならぬようじゃな。)


内心でそう決意を固める女王がいるのだった。


............................

舞台上にて:


「はぐう........ひぐー!こほー!こほっ!へんんぐうぅぅ.......」

激痛を堪えるようで何度も苦しそうな表情で呻き声と咳を漏らした梨奈は有栖川さんの<紅蓮禍刀(グレンカトウ)>を胸に突き立てられながら、よろよろと床に崩れ落ちるようだ。あの様子からすると、<リンガ>がかけられていなければ、確実に死ぬわな、あれで。本当に恐ろしい少女だな、有栖川さんって。うん?そういえば、1週間前......なんだったっけー?その時、夢の中で大母神と対話したんだけど、確かに<神の聖騎士>としての権能は使用する時に、聖騎士同士が戦う場合、無効化となってるんだっけー?なんて世知辛いなこった......。


「では、抜きますね。......まあ、会長の<リンガ>のお陰みたいで胸部を狙って突き刺しても別に体内までには貫かれてないから血も出ないしで、抜くも何もありませんけど....。」

そう冷たく言い放った有栖川さんは<紅蓮禍刀(グレンカトウ)>を引き抜き、神妙な面持ちのままに地面に倒れた梨奈を見下ろした。


「森川梨奈選手、有栖川選手の攻撃によって倒れている。だから、カウントダウンずるぞー! ---1!」


「梨奈ー!くー!」

「ルーイズ隊長.........まだ終わってませんわー!目を瞑らずにしっかりと舞台に集中して下さいーーですわ!」

「早山隊長.......(ここは気を使って、お尻への悪戯を我慢我慢~~)」


「どうだールー!うちの有栖川、きみの森川さんを負かしたんだからすごいだろうーー!?」

「そちらの森川殿、よくここまで粘ってみせましたけれど、やはり人目だけご覧頂いてもこちらの有栖川様の方が強いという事を理解して頂けたでございましょうー?ですから、あまり落ち込んだりしなくても良いでございましょうー?」


「くう........」

遼二とローザさんの声が聞こえてきたけど、梨奈がああして横になって反応もせずにいるのを見ると、言い返す気力も沸いてこず、歯軋りをして悔しがるのを我慢するしかないのだ。くそー!俺はまだ信じるけどよーー!梨奈はまだ負けてないってー!


............

「ーーーー7!」


舞台上でまだ起き上がらないままの梨奈なのだ。

「森川さんーーー!ファイトーー!ですわよーー!まだ勝負はついてないですのよーー!ですから、立ち上がってみせて下さいましー!ここ2週間の間、貴女がどれくらい頑張って訓練してきましたか、あちらの有栖川さんの目にものをみせて差し上げてやって下さいなー!」


「そうだよーーー!!梨奈ちゃん! わたしとの手合わせ、覚えているでしょー!?あの時の苦戦してるカッコウのわたしを思い出してくださいー!梨奈ちゃんの実力がああも凄すぎて、<ナムバーズ>7位であるわたしでさえ反撃するの難しかったのを忘れないでー!あの時に比べれば、あっちの有栖川なんてへっちゃらだよー!」


応援のつもりでエレンやネフイールの声が響いていくけど、


「-----9!」


未だに立ち上がる素振りを見せないままだ。

梨奈ーーー!


「ふーー。それだけならがっかりしますね、<赤ゴリラ少女さん>~~。」

腕を組んだままで仁王立ちしながら梨奈を睥睨している有栖川さんの口から、そんなーー


「~~~~誰が<赤ゴリラ少女>ですって~~~~!!?」

バコオオーーーーーーーーーー!!!!


「「「----!!???」」」


あちらの第5学女鬼殺隊の面々は面食らったにであるーー!

なぜならーー


「それだけは~~~~ぜ~~~っ対に許さないわーーーーー!有栖川ーー!」


そう。


青色の神使力を全身に膨れ上がらせながら、吹き荒れる風を起こしながら激昂してる姿の梨奈が見えたのだーーー!


さすがだなー!我が幼馴染よーー!


俺は最初から、お前のその実力を知ってたんだ!

もちろん、お前との訓練を共にしてきたエレンやネフイールもな!


だから、行けーー!

有栖川さんに、お前の全力がどんなものか、たっぷりと彼女の身に刻んでみせてくれーー!


.........でも、さっきので、お前....<あれ>で呼ばれたりしなかったら起き上がるかどうか...........極めてあやしかったなー。


.....というか、もしかして有栖川さんもそれが分かって、わざとあんな事を言ったかな。


と、そう考えているとなんとなく有栖川さんの方に集中してみると、心なしか、怒りに燃えてオーラを爆発させている梨奈を前にして、なんか喜んでいるようでニヤリと笑みを浮かべている最中みたい。それも獰猛な犬が餌を与えられて喜ぶ時のように、だ。


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