第三十四話 聖戦舞祭:湧き上がる闘志

この待合室の窓からざっと見渡してみれば、舞台の全体を包み込んでいるのは百個にまで及ぶ回転中の菊花の分隊である。それぞれが宙に浮いていて、さっきのエリーゼの掛け声が響いたが早いか、ネフィールを覆い包んでいる蒼い障壁めがげて、飛び掛っていく。


パチー!パチー!パチー!


次々それに接触を果たしたと同時に、霧散されてはいるがそれでも元の形に戻りながら、執拗にあの障壁を噛み千切ろうばかりにまたも襲い掛かっていく。見る見る内に障壁の方もどんどんと削られていき、9秒か、10秒も経てば、何箇所かに小さな亀裂....というか、綻びが出来て、それで本体の群れから離脱し中へと侵入するような微細な菊花の本流が今、ネフィールの身体に到達しようと漂流していく。


「ネフィー!!あれに触れているとヤバイから、ジェシー・クレファスで追い払ってみてーー!」

梨奈の叫び声が聞こえる。俺も同じこと言おうとしたよー!思考パータン、同じだねー!


「--このーーー!!!」

珍しく焦り顔になったネフィールが大量の蚊...もしくはハエの軍流が身体に触れられないように、早い動きで両腕を交互で暴れながら、それぞれの手で持っている両刀を振り乱して神使力を纏わせつつその菊花の浸食を追い返そうとするが.....


ピキー!ピキー!ピキー!ピキー!ピキー!ピキー!


無駄だった。武器で押し返そうとしても効果なしで、飛び散っても瞬時に一箇所に集まり直して、またもさっきの倍以上の速度で襲い掛かっていくの繰り返しだ。で、今その最後の時を迎えるが如く、綻びから次々と障壁の中へと流れ込んでいて雪みたいな大量の氷の菊花が洪水さながらに侵入している様子が見える。


「きゃああーーー!何これー!?冷や冷やしてて、本当に気持ちわるいよー!後、皮膚の奥の骨にまで感じちゃったほどこの冷たさはー!?--アイスの針みたいにちくちくで、ひりひりしてて痛いーー!」

苦悶の表情を浮かべるネフィールがあそこにいる。


それもそのはず、今は夥しいほどの真っ白い菊花が彼女の頭のてっぺんから足のつま先までを取り囲んで、包み隠し、全身の肌という肌を蹂躙しはじめたから。どれもが極寒の感触を伴うため、本来は彼女が凍りついて人型アイスになっちゃうところだったんだが、ローズバーグ会長の発動してる<物理被害の精神削痛変換(リンガ)>のおかげで、それがすべて精神ダメージとして変換され、今頃あの子の脳内を犯す強烈な痛みとして苛みつけている最中だろう。ネフィール.......


頑張れーー!


「痛いー!痛いよーー!!あああーーー!!今なにも見えなくなっちゃうよー!視界までもがこの白いのに覆い尽くされてるし、身体中をこんな菊の花みたいなのに貼り付かれて身動きもとれなくなっちゃってるし、肌と骨までちくちく寒すぎて麻痺感覚になりつつあるし、このままじゃ、本当に固まったまま戦闘不能にまで陥りそうだし、嫌だよーー!負けたくないしね。ううぅぅぅぅ.........」


ネフィールが何かぶつぶつ言ってるけど、恐らく苦痛を訴えてるだけなんだろうなぁ........それにしても、あんな辛い顔してもまで諦める素振りを見せない。よかったーー!


「ネフィールー!!! どうにかしてそのピンチ状態を脱せよー!隊長命令だぞー!」


「-!早山......隊長!」


「ネフィー!信じるわよー!あんたがこの2週間であたしと猛特訓してきたんでしょー!?あんたの全力、あいつに見せちゃいなさいよー!」


「そうですわー!セッラスの努力や勤勉さ、わたくし達チームメイト3人がよく拝見させてもらっていましたわーー!ですから、今こそ、その成果をあちらに見せて差し上げるべきでしょうーー!?しっかりして下さいな、セッラスー!」


「--!!?」

俺達の応援の言葉を受けて感激したのか、急に真面目顔になったネフィールが顔を引き締め直すと、


「せいやああああああーーーーーーーー!!!!」

雄たけびを上げながら、ありったけの神使力を爆発的に開放したネフィールがその強烈な寒さに包まれながらも、徐徐に身体中に付き纏っているすべての菊花を追い払おうとする。


まるで大型蜂の群れに襲われて身体中を覆いつくされながらも懸命に力んで押し返そうとするみたいな構図だな、ありゃー。


「せいいいいーーーー!!!!くっーー!」

それでも、第5階梯として分類されただけのことあって、<純白氷雪大輪菊花轟嵐(ネラーデイシス)>は未だに彼女の周辺近くまで囲っていて、押し返されても攻撃対象に戻されるかのように、執拗に彼女の側から弾かれようとしないー!


まじで無敵すぎるな、あの現神術!


それでも諦めずに神使力の迸りにて追い払おうとするネフィールを見るかぎり、まだ勝負が終わってないらしくて、ほっとする。それでいいー!最後まで抗えーー!我々第4学女鬼殺隊の根性、たっぷりとあちら側に見せてやれーー!


「ひいいいやーーー!うぐーー!」

それでも神使力の絶え間ない放出により体力が削られていき、ついに辛そうに呻きながら呼吸を荒々しいまでに変わったネフィールがそこにいる。


「はあはあはあーー。ぐうぅぅ.......」

ネフィールの張った蒼い障壁こと<個人大防御蒼色剛癖(ナゲリージョン)もたくさん削られて足元とそれより上の膝下まで残ってるし、息遣いが荒いし、膝までもがガタガタ震えてるしで、今でも倒れそうな様子ではあるが、それでも.....身体中に纏わり付いた氷の菊花からかろうじて1CMまで押し返すことができるあたり、まで希望は捨てたものじゃないようだ。


「あれ~~~~。どうしたのどうしたの、ネフィーっち~~~?震えっぱなしで、懸命に力の解放でエリーの<純白氷雪大輪菊花轟嵐(ネラーデイシス)>から身を守ろうとするようですけど.........そろそろ限界かしら~~~~?ふふふふ........」


「こんな、どうってことないよーー!そこで待っていて下さいねー!直ぐにネフィーちゃんの口元をこれで塞ぎにいくからだよーーーー!」


ジェシー・クレファスの両刀を振りかざしながらなんか物騒なこといってるみたいだけど、威勢がよくて何よりだなぁ、はははは........


「~~~~!?あはー!あははーー!!その虚勢、どこまではれるか見ものですね~~~~。なら、お望み通りに、逆にこちらの方から黙らせて上げちゃおうですよ~~~~~~~。それーーー!」


「「「「---!!!!」」」」

その時、俺達4人、第4の誰もが驚いた。


それもそのはず、エリーゼ先輩がいきなり、その巨大な障壁、<大反発防御障壁(イエクトス)>を解除し、猛烈な速度でネフィールに向かって駆け出していくからだ!


そういえば、現神術学の授業で習ったけど、確かに術者の発動した自らの現神術のおこした現象に身体が触れてもなんの影響も出ないんだっけー?


さっき、あの<大反発防御障壁(イエクトス)>を解除した理由は恐らく、別の攻撃用の現神術をネフィールに同時にぶっ放すためだろう。だって、たぶん彼女の実力だと、二つの異なる現神術を同時に発動するのが限界だろう。ローズバーグ会長というなんでもありな方なら、たぶん、三つ、四つを同時に発動できても不思議じゃないかもしれないけどな。


「はあああああーーーーーーーー!!!!!」

今度、至近距離まで迫ってきたエリーゼ先輩はその小型なロッド、<グラエンズ>を未だにたくさんの氷の菊花に包まれているネフィールに突きつけて、追加攻撃としてまたも別の技を食らわそうみたいで、先端を青白く光らせているようだ。


「ネフィールーー!!見えないかもしれないけど、気をつけてーー!エリーゼ先輩、お前の近くまで近づいたぞーーー!!!」


待合室の窓際にて、観戦中の俺が思わずそう叫んだのだった。だって、手がかかる<悪戯少女>として有名なネフィールーなんだけど、俺たち第4の大事なチームメイトなんだから、負けてほしくないんだーーー!


出会って一ヶ月間しか経ってないけど、この間にお前のこと多少なりとも知ってきて、思い出もたくさん積んできたし、俺たちの仲間の一人になったんだから負けるなよーー!


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