第二十六話 早山ルーイズサイド:お姫様のご登場

「では、口を開けて開けて~~」

「嫌ーー!今すぐ放しなさいよ、変態王女ーーー!」

がっちりと右手を掴まれた梨奈はなす術もなくアイシャ王女の左手に頬を撫でられた。梨奈は対抗とするようになんか身じろぎしようとしてるようにも見えるけど、王女の神使力の方が遥かに上にあるので、動けなくされてるに違いない。やばいー!そのままじゃ、梨奈がキスされる羽目になっちゃうので、今すぐ助けにいくねー!


「ルゼーヴィンヌ先輩ーーー!!梨奈から離れてくださいーー!!」

走りだした俺は噴水の近くにある二人の方に向かって、実力行使で王女に梨奈から手を放させるべく、彼女の腕めがげて渾身のパンチを食らわそうとした。フェルリーナと最初の一戦を交えた<聖者の白広壇(ナランテース>からは距離もあるその噴水で二人がいる。


バーーーーーッ!

「がっー!」

くそ。

俺の拳がアイシャ王女の腕に届く前に、鋭い衝撃を受けた俺は崩れやすい古いマネキン扱いのように王女の人指し指のスナップ動作一つで、後方へとぶっとばされた。畜生ー!


ドーーッ!

「よほほよひひ~~。邪魔したから軽くお仕置きしてやっただけだ。許せ。」

地面の草に尻から落ちた俺に淡々と告げてきた王女。


「~~~!あんた、ルーくんになんてことしたのよーー!」

身体は動けない様だが、口元だけ動かせる梨奈はそう叫んだ。

「安心しろー。彼も<神の聖騎士>の一人だ。ワタシの指一つの打撃でどうこうなることじゃないだろう。よひひ.....」

尻をさすりながら立ち上がった俺から見ると、アイシャ王女は笑みを浮かべながら再び梨奈の唇に自分のをくっつかせようと頭を近づいていく。

...................

..........


でも、なんでだろうかー?数秒がたったのにも関わらず、梨奈と至近距離で見詰め合ったままだけで、接吻する素振りを一切みせない王女。もしかして、躊躇ってるのかーー?

「........な、何よ~~。人の顔ジロジロ見てるのよーー!」

年齢の近い女の子からあんな近く見つめられてるのが恥ずかしいのか、真っ赤になった梨奈は抗議の声を上げた。


「..........うむ.......なんか実際にやろうとすると結構な違和感を感じるなぁー。同性とする場合って......。」

そういった王女は心なしか、複雑な表情となって同性である梨奈との口付けに対して逡巡してる様子だ。あれならまだ間に合えるー!説得しにかからないとー!


「ルゼーヴィンヌ先輩。どういう事情と理由があって<神の聖騎士>である俺らとキスしようとするのか見当もつかないけれど、口付けするかどうかまずその理由について話し合いませんか?」

取りあえず、時間稼ぎのつもりでそう先輩に訴えかけるんだけど、どうお返しするのやら........


「................」

「......なによ....急に黙ったりなんかしてぇ......」

まだ至近距離で黙ってるままの王女のお顔が目の前にあるので、梨奈も堪えられずにそういった。


「......よ....」

「「えーー?」」

「-よほほほよひひひーーー!!まったくだーー!何を迷うことがあるだろうーー。我が国の民の命があの怪物どもの脅威に晒されてるっていうのにーー。やっぱり、女同士だからって、この唇の純潔....って、君の言葉を借りていうと、犠牲にしてもいいのだぞー?そんなくだらんことより我が民の命がそれより一番だからなぁー。」


ガチー!

「では、失礼するよー。」

それだけいって王女は梨奈の頬を両側から両手で挟んで、唇を寄せる。

梨奈ーー!


「うううー。ルーくん!(この唇の純潔は彼にとっておいてきたのに~~~。何が悲しくてこんな頭おかしい王女から奪われなきゃいけないのよーーー!)」

梨奈も弱々しい仕草ながらも声を漏らして俺に助けを呼んでいるようだ。

待てね、今すぐいくからー!


「おおおおおおおーーーーー!!」

「よほほほよひひっ~~」

「ううぅぅぅ.......」

またもアイシャ王女.....もといルゼーヴィンヌ先輩に向かって突進していく俺だったが、その時にー!


シュウウーー! ゾーーーッ!

そう。ルゼーヴィンヌ先輩の身体の左右に挟み撃ちされそうな構図に見えるように、右側には一本の槍が突きつけられていて、反対側には鎖に繋がっている一本の短剣が王女の喉元近くに貫こうといわんばかりの距離にある。


あれってー!

「ルゼーヴィンヌ姫殿。ご無礼を承知の上、大変申し訳ありませんでしたけど、この学園にいる間では校則が絶対であり、生徒会の権限の元でルールを取り締まる側であるワタシは仕方なく、貴女の行動に対して足止めさせて頂きます。」

槍を握ってる方は紫色ポニーテールのローザだったー!

確かに生徒会の一員でもありますしね、彼女ー!それに、ローザさんって確か、遼二の率いる新しく設立された第5学女鬼殺隊に入隊されたんだっけー?


「にししー!ルー隊長や森川さんがあまりにもおトイレが長かったから、何があったのかと考え中に教室にまですごい物音が聞こえてきたから、小走りでやってきてみれば案の定、またもトラブルに巻き込まれてしまったね、ルー隊長!まあ、今回は森川さんも渦中にいるけど.....。」

「ワタシも2年F組にまで物音が聞こえてきましたから、エレン姫殿下のご命令により様子を先に見に行くようにやって参りましたけれど、まさか3年生であるルゼーヴィンヌ姫殿がこんなところで我が学年2年の生徒にそういう不埒な行為をしようとするとはーー。」

口々にこの場へとやってくる経緯を説明するローザさんやネフイールがいるけれど、さっきのトイレの壁が破壊された音に加えてのここでの騒ぎも聞きつけた他の学園生達がわらわらと三つの棟から出てきてここへと集まってくるようだ。


「ね、ね、さっき物音が聞こえたからやってきてみればなんなの、あれー!?」

「わああーー!あれって<ナムバーズ>2位であるアスリン王国の超大物、ルゼーヴィンヌ第一王女じゃないですかー!なぜ彼女は新入生の森川さんの正面に立って両脇に我が国の王族直下部隊に所属していらっしゃったローザさんやネフイールから<現神戦武装>を向けられてるんですかー!?」

「しかも、なんか剣呑な雰囲気も滲み出てるし、一体なんなのよー!この前は新入生である早山君が9位とやり合ったばかりだったし、もう何がどうなってるのこの学園ってー!? わけわからなくなってきっちゃったよーー。」


1年生も3年生もぞろぞろと校舎から出てきた。ふと後ろを振り向いてみれば、遼二や有栖川さんもこっちへ向かってかけてきてるようだ。

「ルー!何があったのー!?」

「早山君!あそこに森川さんが見知らぬ女子生徒に顔を鷲づかみにされてるようですが、どうなってるんですか?」

俺の近くまでやってきた仲間二人からそんな質問が飛んできた。


「それはー」

「皆さんーー!お静かになってくださいましー!」

いい終える前に凛とした声が響いてきたー!あの声はー?間違いないーー!


「そこで我が学園の生徒に風紀を乱すような行為を現行犯で捕まえるからにはもう言い逃れができないんですのよ、ルゼーヴィンヌさんー!説明してもらいますので、生徒会室へ大人しくついてきてもらいますわよー。」

そう。金髪ロングでドリル髪型もついている、いつもの頼もしい我が学園の生徒会の副会長でアイシャ王女と同じ立場で同僚でもあるこのゼンダル王国の第一王女、エレンがやってきたのである。


「やれやれだよひひひ~~~~。貴殿まで出てこようとは.......。これはこれは、予定と違って少々困ってきてなんか痛快になったのだなぁ.......」

それに対して、当事者であるのにも関わらず、まるで人ごとであるかのようにこの状況を面白がったり、楽しんだりするようにいつもの変な笑い方を上げるルゼーヴィンヌ先輩は梨奈の頬から両手を放して、そう言いながら降参するように手を上げた!


あれで観念するって意思表明するのかー!?

でも、何故かまたもにやっと不敵な笑みを見せる彼女がいるので、どうなるのー??


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