第二十五話 早山ルーイズサイド:神の<聖>騎士

女王がユリン枢機卿と話してる最中に、その同時刻の聖メレディーツ女学園のお手洗いにて:


「ワタシを捕まえて、生徒会の管理下にある風紀員に突き出すってー?」


「そうなのよ。あんな不埒なことをしていたあんたは罰を受けるべきだわ。」


凛とした声色や勇ましい構い方で、真っ直ぐにアイシャを見つめている梨奈が目の前にいる。彼女の背中はなんか頼りになる女の子に見えて、思わずその姿に見惚れている。


「できるのかな?それに、君はまだワタシの名を聞いていないのだろう?捕まえる前に聞かなくていいのか?」

「その必要はないわ。さっきのルー隊長が知らせてくれたんだから、あんたは他国の王女なのでしょー?あたしの知ってる限り、この学園の生徒でエレンより強い王女は二人しかいない。<ナムバーズ>1位であるローズバーグ会長や2位であるアイシャ王女。............ん?」


鞭を右手で握り締めていた梨奈だったが、急に何かに気づいたか、押し黙って左手で顎を支えて考え込んでる様子である。後ろ姿だけ見てる俺なのだが、左腕の動作はしっかりと見えた。


「ようやく気づいたのかなー。赤い少女よ。」

「ひ....ひょっとしたら、あんたはーー!?」


「よほほよひひ。いかにも。我こそがアスリン王国が第一王女で、<ナムバーズ>2位であるアイシャ王女なんだ。<神の聖騎士>である早山ルーイズに用事があって、今日は彼がこのトイレへ入っていくように仕向けたんだ。どうやったかというと、さっき君達が体育室に現神術学の授業に励んでいた頃、<戦乙女身体透明化オルギーニ>なる超高度な現神術を使って、あそこへ忍び込ませてもらったんだ。で、君達の目からではワタシの姿が見えないのだけれど、自分より神使力量が多いローズバーグ会長なら見えるよ。まあ、確かに会長の<現神術使用不可能化ネリガー>がその授業が行われる際には前もって、一時的に解除されたけど、以前から会長はワタシを問題視してる節があるらしいので、自分にだけ特別に<個人使用現神術発動禁止ネルガー>をかけてきて、学園にいる間にそれの影響下でいかなる現神術の発動するのにも苦労したんだが、またも別の超高度な現神術である<神使力量一時増幅シハラヒリー>を重ねがけ唱えたら、<戦乙女身体透明化オルギーニ>の行使に成功したよ。よほほよひーー。で、透明となったので、早山の飲み物が入ってるカップに尿意催促の液体をちょびっと入れさせてもらった。この本棟の各階のトイレは一つだけだから、その後クラスに戻った早山はきっと2階のトイレに入っていくんじゃないかと踏んで、ここで待ち伏せさせてもらった。よほほ~~。すべては早山に対し、(とあることを確認するために)身体検査させてもらおうかと彼の唾液を飲み干しにかかるんだが、君が邪魔してきたからなぁーーー。」


.........................え?

.......................................おい、おい、おいーー。なんなんだよ、あの王女様はーー!?状況説明とはいえ、いっきに沢山の言葉を絶え間なく早口で喋りだすし、変な笑い方で笑ってるし、人の飲み物に異物を入れてくれるわで何だよーお前はー!?というか、彼女はエレンに負けずの巨乳を自慢するように背を逸らして、どや顔浮かべてるんだけど、どうしてそんなに浮かれてるの、お姫様はーー!?しかも、鼻を高くして本当に痛い王女様だな、おいー!


「............ふ」

ん?アイシャ王女の言葉の垂れ流しも聴かされた前にいる梨奈がなにか小さな声を漏らした。というか、ブルブルと両肩も震わし始めるし、あれってーー!


「---ふざけないでーーー!!」


怒りだした梨奈は右手で握った自分の現神戦武装、<キリスカ>という金属製の鞭をその手のスナップ動作一つで素早く振り上げて、曲線を描いた変則的な動きで以ってその鋭利な尖った先端を壁際に立っているアイシャ王女に襲い掛かった。


「よっとー。」

バコオオーーーーーーーー!!!!


難なく避けた王女。でも、その所為で狙いを外した鞭の先端が壁に直撃し、それで梨奈の神使力の纏われた鞭は意図せずして彼女の後ろにある壁を破壊してしまった。


確かにこの学園にはとある無機物補強の現神術が施されていて、堅固な造りで現神術による影響や衝撃にある程度、高度な技以外は霧散させることができるが、純粋な神使力の纏われた普通の物理攻撃に対しては弱い。フェルリーナ嬢とトイレでぶっ飛ばされて壁に穴が開く時には彼女の神使力が込められた一心のパンチだけでああできたんだから、現神戦武装を使って攻撃を仕掛ける今の梨奈なら、尚のことだ。


ガラガラガラ........


壁が崩れ落ち、瓦礫もそこら中へ飛び散ってバラバラになった。おい、おい、梨奈、施設の破壊行為に対して、被害の賠償費用を請求されたらどうするんだよーー!?いつも女王に頼って俺らの犯したトラブルに関して尻拭いしてもらう訳にもいかないし、よく考えてから行動しないかーお前!


「言わせておけば、べらべら喋ってたし、たくさんの事も聞かせてもらったんで事情がようやく呑み込めたけど、ルーくんになんてことしたのよーー!?」


「だから、彼をここへと足を運んでもらうためにあれを仕方なく入れさせてもらっただけだ。どうしても彼と二人っきりで検証しなきゃいけないことがあったんだよ。神滅鬼が再び、世界の表舞台に姿を現して2年もたって、時間が経てば経つほどにその数や強さも増してきてるんだ。なので、ワタシの国の戦力となるために<神の聖騎士>の力が必要なんだ。わかってくれ。」


ん?今度はさっきと違って、そのふざけた笑い方は鳴りを潜めて、真剣な要素となってそう訴えてきた。どうやら、彼女もエレンと同じく、伊達に第一王女やってないらしくて、自国の民を第一に考えて物事に向かい合おうとするんだ。民の間に犠牲が生まれないように、必死で俺の力がほしくて近づいてきたってことはわかった。しかし........。


「それがそうだとしても、初対面の男子にキスしようとするのはぁぁ.........」


急に声が小さくなってもじもじしながら俯いている梨奈がいるのだけど、きっと前みた光景が脳裏によぎったのだろう。梨奈はこと恋愛やそっち系の話になると、ずっとシャイな子だったからなぁ........。


「よほほよひひ、大丈夫!彼をとって食ったりしないから、ほんの少しだけ彼と口付けしたいだけだ。一度だけでいいから、どうか彼と接吻することを許してもらえないだろうかー?」


変な笑い声を上げながらも、今度はきりっとした口調や態度になり梨奈にお願いしてきた。意外と律儀だな、あっちの国の王女様って。如何に自国民の安全を重んじてるかが窺える。でも.......。


「.......あんた............王女の癖に.......なんでそんなに常識......というか、乙女心が一欠けらもないのよーー!キスなのーー!キスなのよ~~~。あんたの国でそれがどういう重みがあるのか知らないけれど、あたし達の世界では口付けというのは、とっても大事なことなのーー!どのような深刻な事情があって彼に接吻を求めるにせよ、好きな者同士、つまり、あい....愛!を誓い合った者同士にしか許されない神聖な儀式みたいなものなのっー!ルーくんのこと何も知らないあんたに、彼と唇を交わす権利はどこにもないわーー!」


俺の接吻体験の有無に関して熱弁を始める梨奈がいるけど、俺の身体のことなのに、随分と熱心なんだねー?


幼馴染だから、俺のことを大事に思ってくれて、なるべく俺のファーストキスが好きな相手にとっておけというお節介なものによる思いなのかなぁ..........。だって、梨奈と俺は付き合いが長い幼馴染同士だけで、今まで彼女からはそれ以上の関係について求められてないと感じたけど、それでも俺が運命な人と結ばれる前に、この唇の童貞だけは守ってくれると揺るがない梨奈がいるようだなぁ.............。まあ、よく考えれば、俺からしても、もし梨奈に見知らぬ男子からキスされそうになるのを見かけたら、感情が高ぶって許さないなぁと思って助けにいくよ。なので梨奈がさっきの行動に出たのも無理のない話しだったけどね。


「へえええーーーー。<神の聖騎士>でもある君から、愛だの乙女心だのが聞けるのは予想外だな。争いのない国だから、純情を保っていられたかな。 もしかして、召喚される前の元いた世界で両家なお嬢様でもやっていたのか?」


「それは違うーー!でも、ルー、.....早山くんは8年間以上も長年の付き合いのある、あたしの幼馴染なのよー。だから、.....彼には好きな相手が出来る前に、......その.....あんたみたいな変質者で痴女から唇の純潔を奪われるわけにはいかないのー!」


えー?

今、なんっていったー?


「.................」

「................」

凍りついた二人が前にいる。数分の沈黙の後、穴の開いた壁の側にいるアイシャ王女が何やら肩をぶるぶるしだした。


「ふふ........おほほ..........よほほほほよひひひひふははははははははーーーーー!!!!」


いきなり爆笑しやがったぞーおいー!でもわからんでもない!だってー!


「よほほはーー!(唇の純潔)だってーー!?よほほほよひひーー!!産まれてこの方17年たってきたけれど、今年3年生になったワタシがそんな言葉を年齢の近い女の子から聴いたのは初めてー!しかも、それを自分か女子に対して表現するでなく、男友達に対して表したんだとーー!?なにそれ~~~!?よほほよひひひひひはははーーー!!よほひ......超受けるんだけどーー。」


予想通りの原因で笑う理由を教えてくれた王女。あれは擁護する余地がないんで、何もいわずにいる。すまん、梨奈。さっきは超可笑しかったよ、その発言。俺も吹き出すのを押さえつけるのに精一杯だ。というか、さっきの姫様の言葉、俺たちより年上って、つまり先輩なのかーー!?


「~~~~~~~!!~~~~~~~もうーー!<ナムバーズ>2位だとかなんとか知らないけれど、もう許さないからねー!大人しく捕まりなさい、変態王女ー!」


戦いの幕がきっておとされた。さっきの失言を誤魔化すためでもあるのか、隙を与えぬ勢いでまたも鞭を振って王女へ攻撃を再開した。


シュルーーーー!シュルーーーーー!!シュリーーーー!


穴が開けられたので、3回振り回したのにも関わらず、障害物に直撃せずにすんだ。でも、軌道上にいたアイシャ王女は器用に身体をひねったり横へ飛んだりで見事に避けてきたけど。


「これ以上、トイレの壁を破壊されてしまったら、この国の同輩であるエレンや学園に悪いので移動しようね?」


そういうやいなや、穴から外へと飛び降りていったアイシャ王女。


「待ちなさいよ、変態王女ーー!」

続いて、梨奈もそこを通って、外へと飛び出る。


二人とも、ヴァルキューロアなんだからなぁ.........


おっと、俺も様子を見に行かないとーー!


そうと決まれば、話が早い。俺も彼女達を追うべく、その穴を通って跳躍していく。2階なんだが、ヴァルキューロアの身体能力にかかればわけないことだ。


バーーーーーッ!


地面の草に靴が着地した。この学園では上履きの使用が校則として含まれてないけど、代わりに玄関に控えている生徒会直下の風紀員の子達が毎日そこで張り付いて、校舎に入る前に生徒の靴が綺麗にするように、脱ぐように注意されて履いた靴をとある機器に置いてそれを神使力を通したら、汚れが完全に落とせる。かなりの優れものだな。


「はあああーーーー!!やああああーーー!」


梨奈の掛け声が聞こえてきた。前を見てみたら、噴水のところで、鞭でアイシャ王女に攻撃を続行中のようだ。まあ、相変わらずすべて避けられたままだけど。涼しい顔してる王女なのに対して、梨奈は自分の放った攻撃がすべて避けられたのが気に入らないらしくて、眉間の皺を寄せながら目を細めて戦っている様子だ。


一方、その時、王城にいるユリン枢機卿とネネサ女王の会話が進行してきた:


「そ、その秘められた内容とは何ですか、陛下?」


ユリンも厳かな表情になって聞いた。


「神の聖騎士は...........神の性騎士とも言う、現地人のヴァルキューロアと.....粘膜接触したことで、両者の神使力量が5分だけの間に、爆発的な上昇が発生されると記されたんじゃ。まあ、どれほどの上昇を見せるかは、その粘膜接触がどれほど濃密か、長くて質と量が多ければ多いほどによって決められるらしいんじゃが........。 」


「つまり、体液が濃く交換されれば、そうなりますね?」

「左様じゃ。」


で、その頃の学園に戻りーー!


ガチー!

「ああー!」


「つ・か・ま・え・た~~~~。どう?赤い少女よー?ワタシを捕まえようとしたんだが、狩人が獲物に成り変わった感想はどうなんだい~~~?悔しいだろうー?よほほよひひひ~~~~。」

「放しなさいよーー!この変態王女ーー!」

「嫌だー。最初は早山に試そうと思ったんだが、まあ女同士でも<神の聖騎士>であればいいということらしいので、さっそく試そうか~~~~。」


がっちりと梨奈の右手を掴んで鞭が振るわれないようにした王女はあろうことか、微笑を浮かべながら可愛くウインクして、梨奈の顔に自分の頭を近づけてるようだーー!


まさかとは思うけど、あれってーー!?でも、この世界って百合ってあるのかよーー!!?.......いいえ、俺にもその毒牙(ご褒美と言った方がいいのか?)をかけようとしたから、バイなのか、アイシャ王女はーー? 


というか、今度は梨奈の唇の純潔が危ないんだけど、さっきの俺の事を助けてくれたお礼も兼ねて今度は俺の番で助けに行かないとーー!


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