第二十一話 早山ルーイズサイド:現神術の訓練4
「結果は......第一層や第二層は突破できたけど、第三層までは破壊できなかったんだ。」
「--!?」
ええ、先生!?前には炎が壁の全体を覆いつくしてるのになんでそれがわかるのー?エスパーなのー?
「先生。前は燃え盛る炎いっぱいで何も見えないのに、どうしてそれがわかるのー?」
ナイスアシスト、梨奈!
「うん、言ってなかったかな?私のこの左目には生まれ持った、<遮蔽物無視目測眼(シェラザーン)>という常時発動型の固有な現神術が備え付けられていて、如何なる遮蔽物が目の前にあろうと、そこを突き通して奥へと阻まれ隠されたものが見えるようになるんだ。」
へえーー。それって、なんと便利なものだな、先生。というか、ずるすぎないのか、それ?
この国と周辺国に使われてる共通言語は勉強しはじめたばかりで、まだ読書に苦戦してる感じではあるが、喋る時だけすべての言葉が自動的に翻訳されてる<神の聖騎士>としての特典がついてるので、前に王城に過ごした先週でエレンに付き添ってもらいながら、図書室にある現神術学の教科書の目次をみてページをめくっていったら、様々な項目をエレンが説明してくれたけど、<常時発動型の固有な現神術>は確かに産まれ持った特殊の能力の一つで、誰も彼もが習えるものではないらしい。
もしかしたら、ローズバーグ会長の<ネリガー>もそういった類のものかもしれない。 ......でも、よく考えてみれば、<ネリガー>は確かに、常時型発動できるようなものだけど、効果は術者が対象だけでなく範囲内にいるすべての者に対して働きかける技なので、高度な現神術でありながらも学べる。まあ、簡単じゃなさそうけどね。恐らく、高い神使力量を持たないと使用できないかも。
「でも、効果はどのような範囲にまで及ぶのか、詳しく教えてもらえないのー?」
そう聞いた梨奈に対して、先生がなんかウインクひとつでこういう:
「それは企業秘密なので、明かさないぞ。」
「ちぇー。相変わらず、せんせってケッチだねーにしっ~。」
可愛くそう愚痴したネフィールがいるのだが、いいのか、そんな言い方で先生に向かっていうのって?
先生の顔を見る限り、大して気にするそぶりもなく、彼女の発言をスルーしてるようだ。ストイックだね、先生って。しかし、第3層まで破壊できなかったのが惜しかったなぁ........せっかく、<赤色中燃炎球(ダリスターズ)>を一週間足らずに取得し、発動するのに成功したばかりなのに、十分な結果を残せなかったのがかなり嘆かわしいことだ。現神術学の教科書を読んでいたから分かるけど、この技は習得するのに並大抵のヴァルキューロアにとっては長い月日の練習と訓練が必須で、現神術を勉強しはじめたばかりの俺は、普通なら、こうも短期間で発動することができなかったらしい。でも、大半のクラスメイトがわかるまい、俺が<神の聖騎士>であるということを。
まあ、確かに、この学園であれを使えるヴァルキューロアは数人の<ナムバーズ>以外には無理そうだけど、素手で放った本来の威力なら、あの橙色の壁の第4層まで容易に打ち破れた気がしたんだけど、それができないっていうのは、俺の神使力はまだまだだということだなぁ..........。
未だに燃え盛っている硬重橙壁(シェリスター)を前にして、なんか次々と感嘆とした声が我がクラスの3人組みの少女たちが漏らされていく、
「わああお..........すごかったよねー、早山くんの放った<赤色中燃炎球(ダリスターズ)>は.......。」
「ですよね~~。やっぱり、<天才なる黒勇少年>で呼ばれるべくして呼ばれてるんですよね~~!ワタシ、最初から早山くんがクラスに入室してきた初日で確信したんです!彼なら、きっとすごい男性のヴァルキューロアになれるんじゃないかなって思っちゃったんですよね!」
「あははは.......アタシもそう思うわよー!<奇跡の子>というものを最初に学園長から聞かされた時、なんか胡散臭い話だったなぁと思わんでもなかったけど、こうして早山君のすごい実力を目の当たりにすると、<男性のヴァルキューロア>であるという事実はもう疑う余地はどこにもないよね~~?ね、森川さん、そうでしょー!?貴女は彼の幼馴染と聞いたんだけど、どうしてそこまでお強くなられたのか、暇があったら、昔話とか詳しく聞かせてくれないかしらー?」
ミリとノルマからは称賛の言葉をもらったんだけど、ジェーシカーは俺の昔話とか気になるらしくて、周りに認識されるようになった幼馴染ポジである梨奈へと質問を投げかけた。大丈夫かな、梨奈........変なことだけは言わないでくれよなぁー?
「え、えええーー。暇があったら、いいけど。」
落ち着いた声でそう返した梨奈は冷静といったような表情で、ジェーシカーに当たり障りのない返答をした。
カシャーーーーーン!
なんか、変な音が聞こえてきたから、後ろにいる面々から壁の方へ視線を戻すと、さっき先生の張った硬重橙壁(シェリスター)が砕け散るように跡形もなく霧散していって、炎も綺麗さっぱりなくなった。
斜め前を見ていたら、先生が右手を前に突き出して、厳かな表情でこういう:
「現神術解除兼無力化(ナルナリナイー)だ。あれで展開されている二つの現神術を解除したのだ。今度、現神術学の授業で学ぶ予定だが、この技は自分の発動中の現神術だけじゃなくて、相手側の現神術でも無力化したり、解除できる効果を持つんだ。 さっきの早山の炎系の中級技で障壁が横長に伸びて、ほとんどを炎で一面を勢いよく燃え包んで上出来だったが、生憎と横一列をあんなに燃え上がらせることができても、奥ゆきというか、貫通する破壊力がまだそこまで達していないようだ。」
やっぱり、そうなったなぁ........あの技、神滅鬼と戦う場合、雑魚や中級のものなら、広範囲で何十数体を燃やしつくせる効果がありそうで、強力なものではあるけど、あの橙色の障壁の全4層を容易く破壊できないのを見ると、やっぱり、甲殻や皮膚の分厚い神滅鬼に対してはあまり効かないようだ。表面や外殻だけを燃やせても、中身や、位の高い怪物の体内の臓器や弱点となる核を破壊できなければ意味がない。ましてや神滅鬼は酸素で呼吸する必要がないという様子が見てるだけで、ひしひしと伝わったんだから、炎に全身を包まれても呼吸する必要がないんで、それを物ともしないだろう。
「もちろん、現神戦武装を通して、これを放ったら、威力が何倍も上がって、破壊できたはず。でも、時と場合によって、武器無しで戦う場面も想定しないといけないので、素手で現神術を使用し、それで敵と戦って勝ち抜く必要性もあるだろう。もっと訓練していけば、お前の神使力が今より多くなって、前回と同じ技で攻撃しても全層を破壊できるようになるので、これからも怠らずに訓練に励めー!いいな、早山ー!」
「了解しました、シーラ先生ー!」
先生の励みの言葉をもらったので、勢いよくそう返した。
「では、次はお前だ、森川梨奈!こっちへ来てくれ。」
「はい。」
先生に言われて近くまで歩いていった梨奈。
「硬重橙壁(シェリスター)。」
再び、そう唱えた先生はまたも橙色の障壁を4層までも、前にある石製の壁に展開していって、梨奈へ振り向いていう、
「では、森川。前の授業で、中級の技を早山と一緒で、放とうとしたけど、失敗したんだな?なら、今はどれほど成長できるか、自分の習ってきた得意とした高威力の現神術を用いて、この障壁を構成している四つの層を破壊してみろー!」
「わかったわ。」
それだけいう梨奈は先生の横で立って、真剣な面持ちで両手を突き出した。この構えはさっきの俺と同じようなものなんだから、使用する技ははどういうものか、考えるまでもない。
「<赤色中燃炎球(ダリスターズ)>ーー!」
全身に青白い神使力を膨らませて、両手へと絞っていく梨奈。その両手から、前回と同様に、俺みたいに赤く燃える大きいな火球が真っ直ぐに前へと猛烈な速度で飛んでいって、先生の張った4層からなる橙色のテカテカと光ってる障壁に着弾したと同時に、横幅一面を電光石火のごとく燃え盛り、今度は横に伸びていくだけじゃなくて、炎の届く範囲は縦高くまで、燃え上がっていき、障壁の全高までその赤い焔が燃やし尽くして、天井にまで昇りそうだ。やばい!エレンから知らされたけど、この学園の建物の構造は石で建造されたものの、ある一種の無機物補強の現神術を用いて、より堅固な造りとなっているようだが、あんな勢いだと、天井が燃え溶かされそうで、崩れ落ちてこないか心配になってきたぜー!
これって、俺より威力高すぎないかーー!?
と、驚いた顔してる俺は直立不動になって、ぽかんとした顔になった。
「あれーー?ルーくんと同じような技を打ったけど、なんであたしの方がより威力高くなってるのーー??」
不思議に思ったらしい梨奈は首を傾げながら、自分で放ったのにも関わらず、俺と同じく驚愕とした表情を浮かべる。梨奈のやつ、やっぱり侮っちゃいけないようだなぁ..........身内の幼馴染とはいえ、ライバルが増えるのってなんか向上心が刺激されるようで、昂揚した気持ちを覚える。
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