第二十話 早山ルーイズサイド:現神術の訓練3

「硬重橙壁(シェリスター)」

体育室の一番前にある段差の階段から降りてきたら、俺たちを3行の横長い列から一列だけに並べ直させた先生は後ろ側にある壁の方へ立ち向かせて、両手をその方向に突き出して唱えた先生なのである。さっき、クラスメイトから口々に褒められた時、空気を読んでくれた先生は何も言わずに待っていてくれたんだが、それで授業時間がかなり減らされる気がしたんだけど、大丈夫かな.......。


B組には18人の生徒がいるから、6人X3列からこういう形に並ぶのって、この一室の広さを充分に実感させられるような配置にしたようだ。だって、18人がこうして横長に並んでるから。


実は、さっき肌色について聞いたのは、推察するためだったんだ。もし先生が俺の確信したことを肯定するような答えを出したのなら、それはつまり、確信でもなく事実そのものへと証明できるんだろう。そして、先生はそうした訳だ。そう。俺の確信した事柄は、この世界に肌色の黒い人間族がいないのは、大母神シェーレアツ様から授けて頂いた神使力という力の源によって、なんらかの複雑な効果で以って肌色を白いか色素の薄いものに維持する。なので、地球における色素メラニンという科学的な常識ではこの世界の理には通用できないものなのである。


やっぱり、先生の口から俺以外にそういう人間がいないってのを聞くと、それがこの世界の厳然たる真実なのだと証明された。もちろん、俺は地球から召喚された<神の聖騎士>なのだから、その枠組みと常識内では収まらない例外となったんだけれども。でも、最後で俺の問いに対して、ああも生暖かい応援の気持ちを全員からかけてもらったのは予想外のことすぎて、胸に響くものを感じた俺は思わず涙を大量に漏らしてしまった。恥ずかしかったよ、あれ!


で、このクラス内での俺の素性についてどう認識されてるのかって話になると、身内である梨奈とネフィール以外は俺のことをネネサ女王の昔よくしてもらっていた庶民友人の親戚の子であると説明されたんだ。学園側とエレンがそう発表させたらしい。たぶん、女王から命じられたんだろうね。なので、<奇跡の子>としての俺の学園生活の基盤は出来上がったんだ。まさか、この世界をいずれ救う運命を担う<神の聖騎士>であるということを誰も思わないだろうなぁ............


カチーーーーーン!

そんな音と共に、先生の両手から橙色の波動がすごい勢いで放出されて、あっという間に目の前の石製の壁に橙色の障壁が何層に渡って展開される。

放出から止まった時に、確かに4層までの障壁が重ね合わさったように見えるんだっけ?早すぎて数えるのがやっとの思いだった。


「では、この障壁に向かって、お前らの習得してきた高い威力を持つ現神術を放ってみろ。どれほどの数の層を破壊したり、貫通することができるのか、点数を配って最高のものを獲得できる者は特別に多い単位を上げるぞ。」

「やったーー!せんせー大好きですっ~~~。」

先生の指示に大喜びになったネフィールなのだが、たぶん一番上の成績を収める学生が単位を上げてもらう褒賞を得られることに対して、舞いがってるようだ。相変わらずテンション高いな、お前。


「最初にやってもらう者はお前だ、早山。<奇跡の子>であるお前は正に、今年度の学園の注目の的であり、将来の希望でもあるので、早く有力な戦力となってもらえるようにじっくりたっぷりとしごく必要があるからな。」

鬼かよ、先生ー!まあ、実際に(神族を滅ぼした鬼)と呼ばれる怪物と戦わなきゃいけないから、鬼と対抗するために鬼のような訓練をするっていうのは合理的な結論でもあると思うよね。


「わかりました、先生。なら、やらせてもらいますね。」

そういう俺はみんなの並んでる列から一人で前に歩き出して、先生の横を通りすぎる。

着弾する際に爆発とか衝撃波も出るから、あまり近すぎないような距離で放たなければならない。


「そういえば、先生。この学園って、確かに現神術の使用がローズバーグ会長の<ネリガー>によって封じられてるんでしたっけ?前にここで授業でやった時は会長がそれを事前でお知らせをもらってそれで一時的に解除したと言いましたが、今回もそれと同様になっていますか?」

疑問に思ったことを口にしてみたら、

「ええ、そうだ。なので、思う存分、好きなように暴れてもいいぞ。」

「了解しました。」

なら、全力で行こう。


「はあああーーーー!!」

全身に流れている神使力を膨らませる感じに集中して、それが体中に纏われた青白い光となって肉眼で見えるようにした。

「わーー!あれが早山くんの神使力量ですかー!?すごいですねーー!」

「本当だねー!たった四日目の学園生活なのに、なんなの、あれほどの力は?」

「やっぱり、天才だよ、早山くんって!一週間だけで、こんなに強くなってるし、変な髪の毛も見たことないけど素敵だし、なんか惚れてしまいそう~~。」

「ええーー!?駄目よ、リシュー!彼は<ナムバーズ>9位だったフェルリーナ嬢を打ち負かして、現在はその座についてる他に<第4学女鬼殺隊>の隊長でもあるから、辺鄙な田舎貴族の娘であって<ナムバーズ>でもないあんたが釣り合う訳ないでしょーー。」


後ろで黄色い話し声が聞こえてきたけど、相変わらず女は3人以上も集まれば姦しいというんだな。まあ、人生で初の同年代ヴァルキューロアの男子の実力を目の前で見せつけられたら、ああ興奮しちゃうのはしょうがないことなんだけれど、やっぱりもっと慎んでもらいたいというか、静かにしてほしいと願うのは俺だけじゃないはず。


「お前ら、静かにしろー!早山の集中力を邪魔するなー!」

「「「「はい......。」」」」

先生に怒鳴られてしゅんとなった少女4人がいるのであった。

もう放つための神使力量もこの両手で集積したし。

打つぞ。


「赤色中燃炎球(ダリスターズ)ーー!」

そう唱える俺は両手から赤色の波動が放出されて一秒もたたぬ間に二つの線が繋がって、一つな大きな火球へとなった。

猛烈な速度で的であるその橙色の障壁へ向かって、飛ばしていった。

この(ダリスターズ)は炎系の現神術の一種で、中級の技でもある。

前にフェルリーナがミスダン族とそっくりな姿に変貌した時に、梨奈があれに向かって放ったものは<赤色小燃炎球(ダリス)>で、俺のいま発動したものと同じで、攻撃対象に対して追尾可能の効果を持っていて、避けられても追うようにできる。

まあ、今回は動かぬ的に向かって放つだけだったんだから、追尾するまでもないけど.......。


バコーーーーーーン!!!!

爆発が上がったと同時に、横で伸びるような広範囲に広がって、燃え上がっていく前に立られて橙色の4層からなる障壁。果たして、どこまでの層を破壊できたか、赤い炎が壁一面を覆いつくして、見づらいけど目を凝らしてみると.......


やっぱり、炎がその障壁全体を包み隠しすぎて、奥への様子が覗き見できない状態になった。くそー!我ながらなんてチョイスの悪い技にしたんだろう......。まあ、入学してきて梨奈はずっと炎系の現神術を専門に勉強しようとしたから、それに倣って彼女と同じような技の習得に取り組もうって選択肢にしたわけだから、現時点ではこれ、ダリスとアラヤンしか使えないんだ。ちなみに、この中級系のものは前の初めての現神術学の授業で放とうと試してけど、失敗した。


なので、こうして一日二日の超短い間で成長できるのって、やはり、<神の聖騎士>所以のチート補正がかかっているんだろうなぁ......。


で、攻撃した結果の判定に困ると、先生がいつのまにか、俺の横まで立っていた。


「......ほう。そうか。じゃ、結果は.......」

燃え上がった先のを一瞥しただけで判断できるのーー?あんな炎いっぱいで何も見えないのにーー?

不安で緊張になった俺は先生の次の言葉を待つのである。


__________________________________________



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る