第十九話 早山ルーイズサイド:現神術の訓練2

「では、現神術学の授業、始めるぞ」

校舎の三つの棟の中央の方、つまり...2年生すべての教室のある本棟の一階に降りた俺たち2年B組の生徒が今、体育室に集まっている。俺たちが全員、横長い列が三つとなって各人が間が空いてる間隔で並んで立たされていて、先生の指示が出るのを待つ。


「ここにくるのって二度目だな、梨奈?」

「そうね。前はあんたが<アラヤン>っていう現神術の発動に苦戦してたわね。」

「それって仕方ないだろう。身体中に循環している神使力を先生の言うとおりに手に集積していくイメージをしてたけど、それが手に集中した際になんか手元が超くすぐったくなりすぎて、オーラを霧散させてしまったんだ。」

「にし。でも、我慢強く5回も試してみたら、最後は上手くできたんでしょー?この、この!<天才なる黒勇少年>が~~~。」

「いってなあー!ネフィール、それやめてくれない?」

そう。俺は今、ネフィールに脇腹を肘で何度も突かれながらからかわれた最中である。


「君らー!何を夢中になって話し合ってたんだ!?先生の話をよく聴かない子は単位を落とすぞ!」

「「「すみません.....」」」

しゅんとなった俺たち3人である。まあ、さっきの俺たちは悪かったっていうのは間違いない。先生が授業を始めようとしてたのに、彼女を無視してしまってまで内輪話に花を咲かせすぎたからお説教を食らってもいいくらいにいけないことしてた。反省している俺たちは今度、先生の言わんとしてることに真剣に耳を傾けることにする。


「まあ、入学したてのお前達なのだから、疑問に思ったことも沢山あるだろう....では、今回は特別にサービスをしようではないか。本格的に授業を開始する前に、質問のある生徒は手を上げて。なるべく答えていくが、時間が限られているので二つまでが限度だ。それ以上の質問は受け付けない。」

ふむ。これはいい機会だな。なら、もっとも難解だった事柄から説明してもらおう。

「せんせー」

「シーラ先生、あたしからでいいですか?」

ん?手を上げようとしたら、先に勢いよく腕をあげた梨奈に先を越された。


「いい。」

「じゃ、あたし達の第4学女鬼殺隊が春介くんの指揮する第5に両チームが戦うということになってるんだけど、試合形式はどのようにしますか?チーム戦で乱闘騒ぎのごとく舞台上でそれぞれのチームに所属している8人が陣形を整えて乱戦していくの?それとも、両チームの一員一員が別々に一対一の一騎打ち試合で勝負していきますか?」

へええーー。いい質問だな、梨奈先生。さすがは俺のもっとも信頼できる幼馴染だ。


「ああ.....。それか..。答えは簡単だ。一騎打ち試合よ。他の隊員はくじ引きで相手の組み合わせを決めるけど、<奇跡の子>であり隊長職でも勤めている早山や春介の二人だけがそれに除外されて、最終に戦ってもらうことにするんだ。 」

やっぱりそうなるか...。まあ、その方が遼二のやつと一対一の勝負が出来て邪魔者も入らないような形式だから、朗報ともいえるな。おっと...最後で質問が許されてるのは一つしか残ってないよね?じゃあ、急いで手をあげておこうっと。


「シーラ先生!俺からも質問していいですか?」

「ええ。どうぞ、早山ルーイズ。」

「じゃ、その....クラスメイトと学園中の生徒から好奇な視線で見られてきたから、なので、本当に.....今までで俺のような肌色を持つ人間って世界のどこかにもいないんですか?」

自分は実は異世界人であるということはクラスメイトにばらしてはいけない事実なので、慎重に言葉を選びながら質問してみた。


「それはそうだ。人間が歴史を記録するのに重みを置いた遥か昔の時代から現代に至るまでに、我々の現在いるグロスカート大陸だけじゃなく、遠い東海岸に面しているアネシア海を渡って東方にあるメイ・シアー小大陸や南海岸に面しているオネーツ海の南方の向こうにあるエキデラ諸島の各国の民を見てきている旅人、吟遊詩人、学者、商人や外交官が記録している体験話と記録書の中に、1万年の月日近くがたっても、今まで、肌色の黒い人間族は一度も発見されたり記録されたことがなかったんだ。」


......................それって、マジかよ......。産まれた瞬間から日本に育った俺は黒人男子ではあるけど、国籍も持っている俺は生粋な日本人とはいえなくても日本国の一国民という点なら、カウントされている。そして、他に定期間で在日している外国の方も多くいて、それなりの数の黒人さんも日本に働いてきたんだ。おまけに、肌色が黒い人種もテレビとか映画で見てきた日本国民すべてだったのだから、まったく見たことないっていうのは絶対にない。 


それなのに、この異世界って、地図を見る限りこの大陸だけの面積は日本より何十倍も広いのに、俺と同じ感じの肌色を持つ人間族が一つも存在しないなんて...........こりゃ、珍獣扱いされてもおかしくないなぁ.............。


「じゃ、それがどうだっていうの、ルーたい....ルーくん?」

俺の複雑な表情を感じ取ったのか、近くまで歩いてきた梨奈が微笑んできてから、俺のほっぺを引っ張る。痛い!

「にしし。そうね。前にエリーもいったような気がするけど、肌色が黒かろうが青かろうが、どうでもいいことなんだよね?大事なのは外見とかその些細なことじゃなくて、その人の中身と人柄なんだもんー!」

ネフイールまで........彼女は生暖かい表情を向けてきながら、俺の側まで近寄ってきて、左肩にその白い手をおいてきた。なんか、目元がいきなり潤んできたけど、なんでぇぇ....?


「そうよね、そんなことで落ち込むとか、馬鹿じゃないのー、早山くん?」

ミリーまで.......前の列に並んでいた彼女が茶髪ロングなウェブ髪を揺らしながら、振り向いてきて、制服がはち切れんばかりのその豊満で眩しい真っ白い巨乳を弾ませながら人指し指を立ててセクシなウインクを飛ばしてきた!綺麗よーー!俺と同年代なのに、まるでお姉さんのような色気を全身に纏うかのようだ。


「早山さん...。その...自信を持って下さい!みんなはあなたのお肌がどんな色であろうと、気にしないどころか、むしろ好きですよー!かっこいいと言ってくれてる友達も何人いますし、笑顔ですよ、早山さん!その泣きそうな顔ってあなたらしくないですよ~~~。」

前の列にいるノルマまで?右側の髪だけを結い上げたピンク髪を可愛く揺らしなら、頭を振って可愛くピースサインを見せてくる。やばい~。なんか、一滴のぬるい雫が目からたれ落ちていくような感じがした。いや、実際にそうなってるんだから、(感じ)じゃないんだけれども.........。


「早山くん。君だけが......周りの肌色と違うくらいで、どうしてそんなに難しい顔になる必要があるの?......自分だけが浮いてるくらいで、微妙な気持ちになる必要ないじゃないー?だって、同じ人間族だけじゃなくて、クラスメイトであり、史上初の男性のヴァルキューロアなんだから、アタシ達の大事な仲間であることに変わりもない!なんか、あの時のフェルリーナさんのきみに対する酷い罵倒と暴行を思い出すと、腹がたってしまった......。」

ジェーシカーまでもーー??うううぅぅぅ.........


「私も早山くんが入学してからが楽しいですー!ね、早山くん、そんな顔しないで、もっと笑って笑って?お願い~~。黒いからって、それは魅力的に思っちゃう私は一人じゃないよーー?いっぱいいるよ~~。ファンクラブもあると聞いたよ~~?」

「そうよー。早山くんは何も悲しくなる理由がないよ~~。あたし達がついてるからさ、元気になろうよ~~ね?<天才なる黒勇少年>である君に、明るい顔が一番似合うよーー。」


クラスメイト全員からも次々と応援するような暖かい声が上がってきて、知らない内に涙が溢れ出していく。


どうしてこうなったのーー?

俺はただ、軽い気持ちでずっと疑問に思ったことを聞いただけだったのに......

なのに、俺のちょっとした表情の変化だけであんなに敏感になってくれたクラスメイトのみんなが真剣になって励まそうとしてくれるのって............。

想像以上にみんなが俺の気持ちを大事にしてくれていて、なんか嬉しすぎて涙が止まらない...........。


君たち、

本当にありがとう!

未熟な俺でもそんなに大事に思ってくれていて.......

やっぱり、どこの世界にいても、善良な人間が必ずいる。


この一時の至福で心が癒されるような空間にいる俺は、神様、もとい...シェーレアツ様に感謝いっぱいの気持ちを届かせてから、絶対にこの世界を救うという気持ちが前より何倍も強くなってきた気がした。

当然だー!


こんな嘘偽りのない善心を持っているばかりの素敵なクラスメイトの少女達が俺のことをこんなに受け入れてくれているのだから、今度くるであろう大戦で一人たりとも、絶対に死なせたりはしないよーー!


この世界にきてから三つの称号を得ている俺だけど、<神の聖騎士>という選ばれし者だけが呼ばれていい称号に誓って、必ず君らを無事で<終わりの饗宴>から生き残らせてみせようー!


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