第8話 ゼンダルタ王城にて...

エレン姫に視線を移したユリンは恭しく頭を垂れると、

「お久しぶりです、エレン王女殿下。救援に翔けつけて頂き、真にありがとうございました。私だけではサカラスを屠る事はできませんので、殿下が到着なさった時は正直申しますと、とてもほっとしました。」

と言葉遣いを丁寧にしてエレン姫に感謝を示すと、

「だから、前から何度も言ってきましたわよね?わたくし達は従姉妹同士ですのよ?そんなに畏まった話し方をしないでもらえるといいですわ。」

「それをおっしゃるなら、殿下もそろそろ丁寧な話し方を止めて頂いても宜しいとは存じておりますが...」

「それはそれ、これはこれ、ですの!わたくしの事はもういいですから、貴女の方からそんな堅苦しい喋り方をどうにかするのが先ですわ。」

「殿下がそうおっしゃるなら、喜んで従いたいとは思っておりますけど、ここは一応公の場です。周りにはたくさんの高貴なる方々もいらっしゃるし、私達の立場を踏まえた上での考慮ならば、正式な言動を取るのが無難かと存知ます。」

「はあーーー。またですわね。あなたって。頑固で人の話を聞かないという点はまだ改善されなくて困りますわ。まあ、でもこの場では確かに「神の聖騎士」様も4人いますし、そう考えるのも無理はありませんわよね。いつものこととは言え、今回だけ特別に許してあげますわ。でも一対一のプライベートな場でははちゃんと砕けた口調になるんですのよ?」

「それならご要望に答えてそう努めるよう心がけております。そういう場でなら、安心して私達のお立場を脇に置いていられますね。」

「おーほほほーー。当然ですの。だって、あなたはわたくしの大切な従姉妹ですからね。」


従姉妹同士らしいと思われるような会話を交わした二人はお互いに笑顔になり、了承の意を示しあった。なんか、癒されるね、そういうのを目の前にすると。俺も梨奈の横顔を覗き込むと、彼女も俺と同様か、目を細めてふふと笑みを携えて彼女たちの様子を眺めている。周りを見ると、遼二や有栖川さんも俺たちと同じく、エレン達の会話に耳を傾けて何やらヒソヒソ話をしている。


「そういう関係って、なんかいいね、有栖川?ああ、これはガールズラブだったら、もっと萌えていたかもしれないね。」

「またそれですか、君は?昔からガールズラブとそれに関連する作品をよく読んでいると知った時は正直言えば、少し面食らってしまいましたが、まあ、リアルで同級生のスカートを捲ったスケベ行為を中学生にやらかしたらしい早山君に比べれば、まだましかな。」

「あはははーー!まあ、あれはルーのやつが12歳であった頃に偶然にエッチな本を手にしてしまってだな。で、内容には女子のスカートを捲る主人公がいてだな、それで少しだけ内容をリアルで再現してみたらどんな反応が返ってくるのかなと一回限りでびくびくしつつも実験しようとしたあいつだったが、結局その女子が彼に少しだけ憧れて不問に通したらしいがそれでも森川さんにこっぴどく怒られた末に何度も脇腹に蹴りを入れられたらしいと聞いたよ。で、ルーのやつから聞いたら、そね件についてはすごく後悔して反省の気持ちも散々あったけど、それ以降は彼がちょっとした動作一つ一つで、女子に色目とかスケベな視線を向けるだけでも、相当厳しく当たられてきたよ。」

「なる程です。まあ、あのような子供っぽくて青い年頃なら、漫画のそういう表現を読んで影響されてしまったらそんな遊び感覚で無害な事するのは若くてスケベな一面を持つ男子なら興味があるかもしれませんし、規模の小さな過ちは普通の人間として誰もがやってしまいそうな事柄ですから、そんな深刻な問題でもない気がしますけれど、ああいう事をしていいのはボッチな人だけが適切かな。だって、目の前に可愛い幼馴染がいる身分なのに他の女子にあんなようなセクハラ紛いな行為をしでかしたしまった少年は正義の鉄槌を噛まされてもしょうがありませんね。」

「はははーー!確かに。でも、12歳だった訳だし?それに、僕も君という親しい異性の友人がいなければ、とっくの昔にそれも試したいなーってーうううおおおーー!!」


えええ!?有栖川さんが目を細める直後、冷酷かつ嗜虐的な表情になって微笑んだかと思うと、空の上の太陽光を反射している瑞々しい光沢を放っているセクシな黒タイツの彼女はいきなり屈んでいる途端、遼二の両脚を横薙ぎにスライディングキックしたぞ!おお!おおおお!!なんか突然に変な関節技を奴にかけているよ!辛い顔になって痛みに堪える遼二だけど、ああ、羨ましい!俺も梨奈とか誰かの女の子にそんなことをされてみたいーーーうう。

「はは.......あっちもあっちで大変そうね、ルーくん?」

と、彼らの漫才に気づいてか、俺の方に向き直ってそんな感想を述べた我が赤髪ツインーテル美少女な幼馴染、梨奈であった。


「お取り込み中の様で申し訳ありませんけど、こちらのお話を聞いてもらってもいいんですの?神の聖騎士の皆さん。」


と、落ち着いた声で話しかけてきたエレン姫なので、俺と梨奈が彼女の方に首を振り向いた。

「はい、もう大丈夫ですよ、エレン姫。何か大事な話があるようなので、きっと私達に関する事ですよね?今後の事とか、私達が何故この世界に転移してきた理由とか。そもそも、この世界はどこですか?さっきの意味不明な超現象を見せられたばかりなんですから、きっと別の惑星とかではなくて、少年漫画とかによく出てくる魔法かファンタジー風な世界ですが、それがどういう経緯があって普通の世界に住んでいた私達がいきなりここに転移してきた訳?」

と、冷静だけど少し真剣な顔になって早口になって聞いた有栖川さんがようやく自分の黒タイツに包まれた両脚を使っての関節技を解いて、エレン姫や他の4人の少女達に視線を移した。


「ええ。勿論、全てを説明させて貰いたいとはずっと思っていましたわよ。さっきはあれの討伐で少々手間取ってしまいましたが、それが済んだのでもう大丈夫ですわね。」

「さっきは少し遊んでいるようにも見えましたけどね、殿下の同級生の二人が」

「うぐ.....」

「え?あ...あははは、それはね....エリー、何週間も神滅鬼を殺ってこなかったよねー?だから、ちょっとだけ舞い上がってしまって緊張感を忘れたというか.....あははは....」

「まったくだ!今回は<ラングル級>のサカラスだったが、戦闘の途中にもっと強い<カーシム級>が出てきたら、どうするつもりだったんだ!相手が自分より弱いからといって、気を抜くというのは遇者のすることだけだぞ!」

「「....はい....」」

ネフィーとエリーと呼ばれた女の子二人が後ろに髪を一括りに束ねた紫色ポニーテールっ子であるローザに怒鳴られてしゅんとした。まあ、確かに、戦闘中だってのに気を抜きすぎだろうとさっきも思ってたよ。


「まあ、まあ、もう済んだ事ですしそこまでにして貰えますの?ファイットレームさん?」

「し...しかし、殿下。こういのはきりっと注意しないと後々大変な事になりますよ。どうか、殿下からももっと厳しくしかってあげて頂けないでしょうか?」

「ですから、そういうのはいいんですの!わたくしの言うことが聞けないのかしら?」

「...く...殿下がそうおっしゃるなら、仕方なく引き下がります。余計な事を申してしまってごめんなさい。」

「宜しい。」

と、そんな会話を交わしたエレン姫とローザさん。というか、エレン姫ってお姫様だろう?偉い人なんだろう?なんでそんなお立場であらせせる....れ?あれ、なんだっけ?お方だというのに口調が丁寧過ぎるんだ?絶対おかしいだろ、それ!どちらかというと、お姫様の口調より臣下の貴族の娘に近いというか。


「エレン姫は昔から、民と一番近い王女様ですよ。民は国の支えとなり、資源ともなりますので、相手に敬意を払うべく、敢えて丁寧な言葉遣いを心がけて臣下と接してきましたよ。」

まるで、俺の疑問に答えるかのように、そう説明したローブ姿のセミロングな青髪ユリンさんであった。


「こほんー!では、神の聖騎士である皆さんも色々聞きたいことですし、なんか疲れているようにも見えますので、あの山脈から神滅鬼がまた降りてくる前にまずはこんな何もない平野から移動して、ゼンダルタ王城へ参りましょう、ですわ。お互いの正式な自己紹介も女王陛下もいる場で行った方が効率的でいいと思いますの。だって、まだお食事もとっていませんわよね?」

それには強く同意した俺たちである。

「では、全員に飛行系の現神術、<ロアンヌ>をかけましょう。神の聖騎士である皆様、こちらへ。」


そう促したユリンに対して、俺たち地球組4人は他の4人のエッチな制服を着ている少女たちと一緒に彼女の周りに集合した。で、彼女が<ロアンヌ>という言葉を唱えたら、ロッドがぴかっと光ったかと思うと、俺たち8人の身体が真っ白くぴかぴかと光っていて、まるで蛍光灯が点滅しているかのような印象を抱かせるのに充分だった。で、それが止んだら、今度は持続継続しての白い光みたいなのが俺たちの全身を覆って、おおおお!!いきなり空中に浮かび上がったぞ、俺たち!


不安になってる俺たちを見ると、ユリンがこう言ってきた。

「神の聖騎士の皆さん、安心して下さいね。術者である私の操縦の元で皆さんのお身体を動かして飛んでいきますから、この<ロアンヌ>の影響下にある限り、絶対に落ちたりはしないので、どうかリラックスして下さいませ。」


「ルーくん!」

と、隣の梨奈に腕を抱きしめられながら、名を呼ばれていると、俺も彼女の方に向き直って、すこし不安な表情になった彼女を安心させるべく、逆側の手を彼女の方に伸ばして頭を撫でてやった。

「大丈夫よ、梨奈。俺が傍にいるから。」

というと、彼女もにこっとした顔になり、うん!と笑みを浮かべた。他の仲間二人も俺に倣って身体同士をくっつかせたまま、まるで恋人同士であるかのよう顔を赤くさせて腕を抱き合った。もう、こんな時だってのに、何熱くなってんだよ、このリア充どもは!! エレン姫や他の3人の少女たちも俺と同様に思っているか、少し恥ずかしがってるようにあのリア充カップルから視線を逸らしている、一人を除いて。


「ひゅーひゅー!夜にもなってないのに、お熱いことね、きみたちー!」

と、空気も読まずにはしゃいで指摘したエリーと呼ばれた三つ編みの茶髪の女の子。


「「いいえ、私(僕)達はそんなんではありませんよ!空を飛ぶのって初めてだから、少し支えあってもいいんじゃないですか!」」


と、反論してきた有栖川さんと遼二。まったく、ぶれないね、お前たちは!俺と梨奈の時もそうだけど、お前らっていつも他人の指摘に対して敏感になりすぎ!


で、そんな暢気な雰囲気で空を飛んで行った俺たち9人であった。なんか、超、気持ちいいね、飛びながらの風って。感覚からして、ゆっくり飛んでいくように感じるけど、時速は何キロかわかんないね。でも、こういうのって楽しいね。なあ、梨奈?


「ふう~~風に当てられると気持ちいいね、ルーくん。」

と、俺にウインクをして微笑んでみせた我がツインテール幼馴染であった。


と、140分も経ったら、俺たち9人は眼下に広がる広大な平野の中心に四画型の石壁で囲まれた都市みたいな物を目にした。町の中心の広場に降りると、エレン姫の存在に気づいた住民が慌てて頭を下げて挨拶してきた。で、そんなこんなで事が進むと、騎士っぽい鎧に身を纏っている数人の人がやってきたら、エレン姫の住んでいるゼンダルタ王城に案内された俺たちであった。


一時間もしたら、お風呂にも入って、ケーキやドーナツといった軽食みたいな軽い食事も取った俺たち地球人4人は万全な状態でネネサ女王陛下が待っていらっしゃるであろう饗宴場へとエレン姫に案内される。ユリンや他の女の子たちもついてるし、なんか超優遇されてんな、俺たちって。


で、饗宴場に向かう途中に、エレン姫にこんなものを聞かれた俺、


「ところで、さっきからずっと気になってきた事ですの。失礼かと思い、ずっと我慢し続けてきましたが、もう好奇心が抑えられませんわ。貴方のお肌色って、何故そんなに真っ黒いんですの?」


「「「...え?...」」」


と、彼女の質問に対して、顔を見合わせた俺、梨奈、遼二や有栖川さんであった。


まさかとは思うけど、この異世界って、「黒人」とか「肌色の黒い人間族や人種」とかないのかよ? と、そんな疑問の元にエレン姫の方に視線を固定したまま歩きを止めた俺たち。


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